「ごはんは体に悪い? 食べると太る?」 医師が考える“ごはん悪者説”の真偽と本当に見直すべきこと
【内科医が解説】「ごはんは体に悪い」「ごはんは太る」という声をよく耳にしますが、本当でしょうか? ケトン食研究に取り組んできた内科医の視点から、白いごはんに対するよくある誤解と、見直すべき食生活のポイントを解説します。(※画像:amanaimages)
近年、「お米が手に入らない」「ごはんが高い」などのニュースが連日流れた時期もありましたし、実際のところ、日本人のお米の摂取量は年々減っています。
そして、外来診察をしている際、患者さんから「ごはんは炭水化物のかたまりだから体に悪いんでしょ、先生」といった質問をされることもあります。「ごはんは健康に悪い」「ごはんをやめたら痩せる」、なかには「ごはんの摂取ががんなどの病気につながる」といった情報に不安を感じている方もいるようです。本当にそうなのでしょうか。今回は、お米にまつわる“ごはん悪者説”を、データをもとに考えてみたいと思います。
「ごはんで太る」は本当か?日本人のデータが示す意外な事実
確かに、ごはんはお茶わん1杯(150g)で糖質51.9g、食物繊維2.3gと、糖質はそれなりの量になります(八訂 食品栄養成分表より)。では実際に、ごはんを食べると太るのでしょうか。
2022年に厚生労働省が発表した『日本人の栄養と健康の変遷』を見てみましょう。肥満の指標として用いられるBMI(体重〔kg〕を身長〔m〕の二乗で割った値)に関して、2019年の日本の肥満者(BMI30以上)の割合は4.6%でした。これはアメリカの42.8%、イギリスの28.0%、ドイツ(2017年)の16.3%、フランスの14.4%、イタリアの11.0%と比較して、極めて低い水準です。
日本の高度経済成長期には食の欧米化が進み、米の摂取量が減少しました。もしごはんで太るなら、米の摂取量が減るにつれて日本人のBMIは低下するはずです。しかし実際には、日本人男性のBMI25以上の割合は2007年まで上昇し、その後も25%を超えた状態が続いています。つまり、お米をよく食べていた日本人が圧倒的に痩せており、ごはんを食べなくなってから太ってきているというのが事実なのです。
また、従来の和食では、ごはんとともにお味噌汁・豆腐・わかめ・お漬物など食物繊維を豊富に含む食品を一緒にとることが前提でした。2020年に発表された多目的コホートの結果では、食物繊維の摂取量が多いと男女ともに死亡率が低下することが明らかになっています。ごはんそのものよりも、その前提となる食事バランスが崩れてきたことこそが問題と言えるでしょう。
ごはんは健康に悪い? ごはんが主食の国々が、平均寿命の上位を占める事実
「ごはんは体によくない」とおっしゃる患者さんには、「日本人の平均寿命をご存じですか?」とよく質問します。もちろんご存じの方も多いですが、意外と「?」という顔をされる方もいます。
日本人が長寿であることは有名ですが、2025年にWHO(世界保健機関)が発表した世界185カ国の平均寿命ランキング(男女合計)では、日本は84.46歳で第1位です。また、2024年の厚生労働省の報告では、日本の女性は87.13年と40年連続で世界1位を維持しています。
もちろん、高い平均寿命の維持には、国民皆保険制度を背景にした医療制度の充実や、清潔で安全な生活環境なども関係しているでしょう。いわゆる「失われた30年」と呼ばれる経済的な停滞期においても、日本の平均寿命は依然としてトップレベルを保っているのです。
さらに注目すべきは、平均寿命第2位がシンガポール(83.86歳)、第3位が大韓民国(83.80歳)と、上位3カ国がいずれもお米を主食とする国である点です。もちろん、平均寿命の高さをごはんだけで説明することはできません。しかし少なくとも、「ごはんを主食にしてきた食文化=不健康」と単純に決めつけることはできないでしょう。
ごはんの摂取量は、がん発生のリスクと関係があるのか
近年、若年者のがんが増加していることは世界的にも問題となっており、日本でもがんへの関心は高まっています。では、ごはんの摂取はがん発生のリスクと関係があるのでしょうか。
アメリカ・カリフォルニア州の女性教師・学校職員を対象に1995~1996年に開始された約9万5000人規模の大規模前向きコホート研究では、ごはんの摂取とがんの関係が検討されました。その結果、肺がん・膵がん・腎がん・膀胱がんについてはリスクの増加は見られず、乳がんについてはごくわずかに1.07倍のリスク増加がありました。
なお、この研究はアメリカでのものであり、ごはんの摂取量が多い群でもお茶わん半分程度と、日本人と比べるとかなり少ない量である点は考慮が必要です。
日本での検討はどうでしょうか。多目的コホートでは、45~74歳の男女7万3000人を約11年間追跡した結果、お米の摂取が最も多い群と最も少ない群を比較したところ、男性では統計的に有意ではなかったものの、むしろ大腸がんリスクの低下傾向が見られたと報告されています。全体として、米飯と大腸がんとの関連は見られませんでした。つまり、少なくともこれらの研究からは、「ごはんを食べることが、がんリスクを高める」とは言えません。
さよなら、ごはん悪者説! 本当に見直すべきは運動量や過度な糖質依存
一方、糖尿病との関連については注意が必要です。2010年に報告された多目的コホートの結果では、女性において1日ごはんを3杯および4杯以上食べたグループでは、少ないグループと比べて糖尿病のリスクがそれぞれ1.48倍・1.65倍と上昇していました。ただし男性では影響は見られませんでした。
さらに詳しく調べると、肉体労働や1時間以上の運動をしているかどうかで比較した場合、ごはんによる影響はなくなったとされています。
昔の「働かざる者食うべからず」ということわざを現代的に言い換えれば、「運動しないときは食べる量を減らそう」となります。運動量が大切だということです。
同じく厚生労働省の『日本人の栄養と健康の変遷』では、日本人の1日の平均歩数が男女ともに年々減少していることも報告されています。
世間では、なぜかごはんが悪者にされがちです。しかしデータを丁寧に見ていくと、「ごはん=悪」という単純な話ではないことが分かります。むしろ問題なのは、運動量の低下や、食物繊維が少ない過度な糖質依存を含めた日常生活のバランスです。
ですから、健康な人が必要以上にごはんを避ける必要はありません。適度に体を動かし、野菜・海藻・豆類・たんぱく質などと組み合わせながら、お茶わん1杯程度のごはんをおいしく食べる。そうした食べ方こそ、日本人の健康を長年支えてきた食生活の1つの形なのかもしれません。
■出典
WHO 世界保健機関データ
https://data.who.int/indicators/i/A21CFC2/90E2E48
MEMORVA:平均寿命・世界ランキング、国別順位2025年版https://memorva.jp/ranking/unfpa/who_whs_life_expectancy.php
日本経済新聞:日本人の平均寿命、女性は40年連続で世界1位 24年は87.13歳
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD2584A0V20C25A7000000/
先端医学と食でレジリエンスを高め、健康寿命と成長を見守る内科医。大阪大学先進融合医学共同研究講座特任教授として先端医学から伝統医学、レジリエンス・ケトン食などの研究活動に携わった後、現在はそれらの社会実装に精力的に取り組んでいる。
執筆者:萩原 圭祐(レジリエンス医学と栄養・代謝ガイド)
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