義父が倒れた日、動けなかった俺。代わりに駆けつけた母の姿で、自分の家族観が変わった
家族を頼らずに育った人生
僕の母は、子どもの頃から仕事で家を空けがちな人でした。家庭の問題はだいたい一人で抱えるのが当たり前で、進路も結婚も、母にはほとんど相談していません。母を嫌っていたわけではなく、ただ「家族のことを家族に頼る」という回路が、僕の中にはなかったのです。
結婚してからも、その癖は変わりませんでした。妻の実家への帰省にも気が乗らず、「嫁の実家には帰らなくていい」と妻に言っていました。気遣いのつもりでしたが、本当は、人の家族との関わり方が分からなかっただけだったのかもしれません。
妻も「ありがとう」と笑ってくれていたので、僕は自分の言葉を疑うこともありませんでした。
動けなかった朝
10月のある火曜日の朝、出張先で支度をしていたら、妻から電話が入りました。
「お父さんが倒れたの。すぐ実家に行きたいんだけど、一緒に来てくれない?」
頭の中で複数の声が同時に聞こえました。会社、上司、午後の打ち合わせ、義実家への距離、自分は何をすればいいのか。何より「妻の実家に踏み込んでいいのか」という、自分でも理由のわからない遠慮が、足を縛ったのです。
数秒の沈黙のあと、僕はこう答えました。「悪い、今日は仕事が抜けられないんだ。一人で行ってくれるか」本当は仕事だけが理由ではありませんでした。動き方が分からなかったのです。
妻が「分かった」とだけ言って電話を切ったあと、僕はベッドに座り込んだまま動けませんでした。
母からの電話
昼前、母から電話が入りました。
「あなた、奥さんのお父さんが倒れたんですって?私、今から新幹線に乗るから。仕事忙しいのは分かるけど、今夜のうちに連絡だけはしなさい」
母が動いたことが、信じられませんでした。母とは年に数回しか連絡を取らない関係です。妻が母に直接連絡したのか聞くと、「お母さんから聞いたのよ。誰かが行かなきゃいけないでしょう」と。母が、僕の代わりに動いていた。妻の母から連絡を受けて、です。
電話の最後に、母はこう言いました。「あなたが家族を頼らない子なのは知ってるわ。でも、奥さんは違うのよ」電話越しに、ただ「はい」とだけ答えました。
そして...
夜、ベッドの中で「ごめん、明日行く」とメッセージを送りました。返事はありませんでした。
翌日、僕は出張先から実家に向かいました。病院の待合室で、義母と妻と母が並んで座っていました。義母は僕に「来てくれてありがとう」と言ってくれましたが、妻は何も言いませんでした。
母が帰り際、僕に小さな袋を渡しました。中には、子どもの頃に好きだったせんべいが入っていました。「夜、お腹すくでしょう」子どものときから知っていたはずのその気遣いに、僕は初めて気づいた気がしました。家族とは、頼っていいものだったのだと。
妻には、まだちゃんと謝れていません。「嫁の実家には帰らなくていい」と言った自分が、どれだけ妻を孤独にしていたのか。少しずつ取り戻していくつもりです。
(30代男性・会社員)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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