プロポーズするはずだった店を、僕は直前でカフェに変えた。指輪をポケットに入れたまま帰った日のこと
用意していた言葉
彼女と付き合って三年になります。記念日に、僕はプロポーズをするつもりでいました。少し背伸びをして予約したお店で、指輪を渡す。何度も頭の中で、その場面を思い描いていたのです。ところが当日が近づくにつれて、迷いが大きくなっていきました。立派なお店、かしこまった空気、用意したセリフ。そのどれもが、なんだか自分たちらしくない気がしてきたのです。彼女が本当に喜んでくれるのは、こういう演出なのだろうか。考えるほどに、自信がなくなっていきました。
あの場所を選んだ理由
待ち合わせの直前、僕は思い切って予約をキャンセルしました。そして彼女に、「ごめん、お店、近所のカフェに変えてもいい?」とだけメッセージを送ったのです。
返ってきたのは、「うん、いいよ」という短い一言でした。変更先のカフェは、付き合う前、僕たちが何度も通った場所です。
気取らないあの空間でなら、自分の言葉でちゃんと伝えられる気がしました。けれど席に着くと、いざ切り出そうとするたびに緊張で言葉に詰まってしまいます。落ち着かずに何度もスマホへ目を落とし、視線もあちこちに泳いでしまいました。それでもどうにか意を決して、僕は「ここ、覚えてる?」と口にします。彼女は「うん、付き合う前によく来てたね」と笑ってくれました。今だ、と思いました。
ポケットから出せなかった
けれど、いざその瞬間になると、僕は当たり障りのない世間話ばかり続けてしまいました。ポケットの中の小さな箱に何度も指先で触れながら、視線は相変わらず落ち着かないままです。彼女が不思議そうにこちらを見ているのも、よくわかっていました。急にお店を変えたうえに、こんなにそわそわしていては、彼女が不安になるのも当然です。それでも、ここまで来て切り出せない自分が情けなくて、よけいにきっかけを見失っていきました。結局その日、箱はポケットに入れたまま。お店を出るころには、すっかり気まずい空気になっていました。
そして...
駅へ向かう道で、僕は「今度、埋め合わせするから」と口にしました。彼女には、ただの中途半端な一日になったかもしれません。本当は「次こそ、ちゃんと伝えるから」という気持ちを込めたつもりでした。
家に帰り、ポケットから箱を取り出します。彼女を一番に思って選んだ場所で、肝心の言葉を伝えられなかった。その情けなさを、何度もかみしめました。それでも、あの気取らないカフェを選んだこと自体は、間違いではなかったと思っています。次に会うときは、飾らない言葉で、まっすぐに気持ちを伝えるつもりです。今度こそ、ポケットの箱を、彼女の前で開けるために。
(20代男性・会社員)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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