岡山での歌と花 千年前、千年後の誰か

3月の終わりに、岡山で開催された短歌シンポジウム「晴れの国 短歌の午後」に参加した。このシンポジウムは、歌人の大森静佳さんのプロデュースによるもので、今回が2回目である。
居場所の模索
前半に、福岡在住の歌人の山下翔さんと「あらためて、短歌の魅力」というタイトルの対談をした。それぞれが影響を受けてきた短歌と最近気になった歌について話しつつ、短歌を始めたきっかけや短歌表現の変遷などについて語り合った。私が短歌を始めたのは山下さんが生まれたばかりの頃なのだが、社会の中での独自の居場所を模索している中で短歌と出会った道筋はよく似ていることがわかったのだった。
後半は、京都在住の歌人の土岐友浩さんと津島ひたちさん、岡山大学短歌会の瀬斗みゆきさんを交え、5人の新作短歌2首ずつ、計10首について無記名で互いの歌を選ぶ互選歌会が行われた。選んだ歌のポイントなどを土岐さんの司会のもとで行い、新しい発見や共感した点、疑問点などを語り合った。歌会に出した私の作品は次の2首。
黒土に一本の杭まだ生きていたのですかと言われるのかな
遠くから届いた言葉ひかりだし春の蛸足回線からむ
そして私が選んだのは次の3首。
可燃ゴミを捨てられる日のこれくらいなんだと思いたい雨のなか(瀬斗みゆき)信頼で成り立つだけの約束が蓮を見ながら果たされていく(瀬斗みゆき)きみがまた本当のことを言つてゐるのろしのやうな煙を吐いて(山下翔)こうして並べてみると、どの歌も省略された部分から想像を広げていく余地を残していることに気づく。作者と読者の人生の一瞬が、言葉を解した想像の世界の先で出会うのだ。
現実とのギャップ
シンポジウムの翌日、岡山後楽園を訪ねた。折りしも桜が満開で、広大な庭園に咲き誇る桜の花をゆっくりと眺めた。海外からの観光客や春休みの子ども連れの家族など、多国籍の老若男女が、春のかすかな風にふかれてそぞろ歩いていた。ここで飼われているタンチョウヅルの声も響いてくる。
なんてのどかな、平和な風景だろう。ここでは誰も殺意など抱いていないはず、と思いながら世界の現実を考えると、そのギャップに胸が苦しくなる。
楽しかったね 春のけはいの風がきて千年も前のたれかの結語(井辻朱美『吟遊詩人』)前日のシンポジウムで、私が影響を受けた歌としてあげた歌の一首である。この桜降る日の終わりにいくつもの「楽しかったね」があったことだろう。千年後にこの言葉を受け取れる人はいるだろうか。
(歌人・東直子)
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