30年の現場で若手の女に頭を下げた俺、初めて自分が間違っていた朝
娘と同じ年の子が現場に来た
配属の朝、現場事務所の入口に立っていたのは細身の若い女でした。聞けば年齢は25。うちの娘とほぼ同じです。
なぜか、すぐに昔のことを思い出しました。20年前、似た年頃の女の子が現場に入ってきて、3カ月で泣いて辞めていったことがある。あの子の最後の日の顔を、俺は今でも覚えています。それなのに「女に現場は無理だよ。どうせすぐ辞めるって」と、俺の口は勝手に動いていました。。
誰もすぐには返事をしませんでした。守ってるつもりだったのか、見下していたのか、自分でもわからないまま、その場が流れていきました。
早朝の現場で見た背中
いつもより1時間早く現場に来た俺は、すでに動いている人影を見つけました。あの新人の子が、図面を広げて足場を一本ずつ点検していました。
正直、3日で来なくなると思っていたのです。それが1週間経っても、1カ月経っても、毎朝同じ時間にいる。声をかけたら認めることになる気がして、俺はずっと無視を続けました。3カ月目、彼女が金具のゆるみを指摘してきたとき、「30年やってきた現場に何を言うんだ」と一蹴したのは俺です。
家に帰った夜、布団の中で天井を見ていたら、20年前に辞めていったあの子の最後の日の言葉が頭に浮かびました。「ここでは何を言っても無駄ですから」。俺は何も変えないまま20年やってきたのだと、そのとき気づきました。
宙に投げ出された午前10時
半年が過ぎた晴れた日、俺は3階の足場で作業をしていました。突然、足元の金具が外れる感覚がして、視界が大きく傾きました。
落ちる、と思った瞬間、別の金具が引っかかって足場が止まりました。後で聞いたら、彼女が前夜に補強した予備の金具だったそうです。地上に降りた俺は、彼女の顔を見て、ようやく頭が下げられました。「悪かった。あんたの言う通りだった」。30年の現場人生で、若い奴に頭を下げたのは初めてでした。
そして...
翌朝の朝礼で、俺は現場全員の前で言い直しました。「女だ男だじゃねえ。安全に向き合うやつが現場で生き残る。俺はそれを忘れてた」。誰も笑いません。20人の視線が、ようやく俺をまっすぐ見ているのがわかりました。
家に帰った夜、娘から珍しく電話が来て「お父さん、最近どうしてる?」と聞かれました。「ちょっと、色々あってな」と返すのが精一杯でした。
(50代男性・大工)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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