【ファッションとサステイナビリティー】環境負荷低減、人権配慮が不可欠 経産省製造産業局生活製品課・髙木課長が講演
繊研新聞社が開催した「繊研サステイナブルコミュニティーセミナー」で、経済産業省製造産業局生活製品課の髙木重孝課長が、「繊維産業の現状と政策」について講演を行った。「グローバルな産業競争力の維持、強化には、環境負荷の低減や人権配慮などが不可欠」――高木課長は、こう強調した。
世界に先駆け構築
セミナーでは「繊維産業のサステイナビリティーへの対応」「特定技能外国人の受入れ」などについて詳細に解説するとともに、今後の具体的な施策について語った。
髙木課長は、「日本の繊維産業が、国際競争力を維持するには、欧州などの環境配慮や繊維リサイクルの取り組みを支援しつつ、我が国が世界に先駆けて繊維リサイクルシステムを構築し、ルール形成にも貢献していくことが重要」との見方を示した。
経産省は、繊維製品の環境配慮設計ガイドライン(繊維環境配慮設計GL=表1)を24年3月に策定。調査や欧州のエコデザイン規則案などを踏まえ、ライフサイクルの各段階で取り組むべき環境配慮設計項目を策定し、評価基準や評価方法を設定した。今後は「ガイドラインの普及を図り、規格化などを見据えた検討を進めていく」方針だ。
具体的な今後の予定は、欧州の動向などを注視しつつ、JIS(日本産業規格)原案の策定に着手する。並行してEU(欧州連合)政策との大きな乖離(かいり)を避けるため、ISO(国際標準化機構)化の検討も進める方針。環境配慮製品の普及の促進のため、政府調達によるグリーン購入法の活用などの検討も行う。さらに、中小企業の環境配慮設計促進のため、大学や試験機関などで人材育成などを実施する。
欧州のエコデザイン規則やデジタル製品パスポートなどの枠組みが明確化した際には、必要な対応を盛り込む。ガイドラインに準拠した製品を確認できる仕組みとして、表示方法、第三者機関による評価なども検討する考えだ。
繊維・アパレル産業の環境配慮情報開示ガイドライン(環境配慮情報開示GL=表2)は、消費者などに向けて主体的に情報開示を行えるよう、24年6月に策定した。制度動向の紹介や、情報開示が期待される項目を設定。中小企業の開示事例や用語集も掲載し、繊維・アパレル産業の大半を占める中小企業の活用を後押しした。「今後は、人権配慮に関する情報開示も求められることから、海外展開を見据え、国際的な開示枠組みなどとの整合性を検討する」方針だ。
今後の目標・見通しは、欧州などの状況も踏まえ3年後をめどに進捗(しんちょく)をフォローアップしながら対応を検討する。26年をめどに、国内の大手アパレル企業の情報開示を徹底する。30年度を目標に、国内市場の主要なアパレル企業の情報開示率100%を目指す構えだ。
追加要件が必須
髙木課長は、繊維業が特定技能実習生を受け入れるための追加要件「国際的な人権基準の順守」「勤怠管理の電子化」「パートナーシップ構築宣言の実施」「給与の月給制」についても説明した。
人権基準については既存の国際認証のほか、経産省が今年度内の運用を目指す「JASTI」(仮称)の活用を呼び掛けた。月給制は「固定給の完全月給制を求める」とし、勤怠管理の電子化に必要なシステムについても解説した=表3。その導入効果として「IT化で、適切な労務管理が可能となる。労務管理業務の効率化や生産性向上などが期待され、労働関係法規の順守徹底などが図られる」と指摘した。
国際的な人権基準への対応については「公開された監査要求事項などに基づき、第三者による認証・監査機関の審査を受け、適合していることが必要になる」とした。監査要求事項には、労働における基本的原則と権利に関する国際労働機関宣言に掲げられた〝基本的権利に関する原則〟が含まれる。この具体的な内容は①結社の自由及び団体交渉権の効果的な承認②強制労働の禁止③児童労働の撤廃④雇用及び職業における差別の排除⑤安全で健康的な労働環境がある。
「月給制」も重要となっている。特定技能制度(繊維工業)は、季節的な要因などによる仕事の繁閑により「労働者の生活が不安定となることを避ける」ことを目的に、安定的かつ確実に給与が支給される「月給制を要件にする」としている。月給制の要件とは①受注量の減少といった会社都合などを理由とする休業や有給休暇の取得を欠勤として扱い基本給から控除することは認められない②1カ月あたりの所定労働日数の変動や変形労働時間制を採用することにより1カ月の所定労働時間数が変動する場合においても「1カ月単位で算定される額」で報酬を支給しなければならない③受け入れ企業で雇用している日本人などの他の職員が月給制でない場合においても、特定技能外国人に対しては、月給制による報酬の支払いが必要となる。
日本の繊維・ファッションビジネスがサステイナブルな産業へと変革するためには、未だ課題が多い。中小事業者を含めてスピード感を持って取り組むことが必要になっている。
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(繊研新聞本紙24年11月26日付)
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