《小笠原拓郎に聞く》ファッションウィークとオートクチュールの意味
25年春夏の欧州のメンズファッションウィークと、24~25年秋冬パリ・オートクチュールを取材でラウンドした小笠原拓郎編集委員に話を聞いた。
(聞き手=永松浩介)
インフルエンサーマーケティングの場
――まずは、パリ、ミラノのメンズの総評から。
もう、なんだろうねえ。有名人を呼んでフォトコールして、ショーはぱぱっとやって。ある種のセレモニーみたいな感じになっている。ビッグブランドはインフルエンサーマーケティングの場としてやっているとしか思えない。
昔みたいに新しい美しさとか価値観をそれぞれのデザイナーが表現するみたいな感じじゃなくなっている。それでも行く前は、何かしら刺激のあるものを期待するけど変わらずだね。
――いつぐらいからそうなの。
コロナ禍が明けてから、より強まっているように感じる。インフルエンサーやセレブリティー、パリなんかだと特に目立ったけど、NBA(全米バスケットボール協会)所属の選手とかヒップホップアーティストとか。
よく言われることだけれど、ブランド側が雑誌やメディアをあまり重視しなくなって、それよりはインフルエンサーやセレブのフォロワーにダイレクトにつながる方が簡単だってことじゃないの。
象徴する「最後のドリス」
――今回も変わらずで。
うん。極端な言い方をすれば、絶対に見なきゃいけないショーっていうのは、ほんの一握りと言うのが正直なところ。今回だけでなく、段々と減ってきたんだけど、「ドリス・ヴァン・ノッテン」が自分のディレクションの最後のショーだって言ったことが、象徴的なことなんですよ。
ドリスというのは今まで全くセレブなんかを入れずに、伝統的なBtoB(企業間取引)やジャーナリストに向けてずっとショーをしてきた人だから。前回まで全く入れていないんだよ。そういう人が事実上、半ば引退する。自分のチームでこれからはやるっていうのは時代の変化の象徴的な出来事といえる。
――とは言え、光ったブランドもあったんでしょ。
本当にクリエイティブなものを感じさせるショーっていうのは、一握りしかないんだけど、そういう意味では日本のブランドは何というか、真面目なんですよ。きちんと自分たちの新しい価値観を描こうとしている。まあ、セレブリティーとの接点がないからとも言えるんだけど(笑)。
予定調和なファッションウィークに新陳代謝をもたらすのはやっぱり若手というのも改めて感じた。その中では日本の「セッチュウ」が別格に優れている。ミラノはもう3年ぐらいやっているけど、去年の「LVMHヤングファッションデザイナープライズ」でグランプリをとってにわかに注目を集めた。
それで、今年の秋冬物からものすごくクオリティーが上がって。きちんとした物作りと今の時代を反映するコンセプトが服を通じて表現されている。こういうブランドがもっと出てくるとファッションウィークの価値はあると思うんだけどね。
職人技を見せる場
――次はオートクチュール。聞いたことはあってもあまりなじみのない人もいるので、オートクチュールについて教えて。
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