NHK夜ドラ『ラジオスター』演出が込めたエンタメの役割と問い「被災地で笑わせることは正しいのか」
2024年1月1日に大地震が発生した石川県能登地方の最北部に位置する奥能登を舞台に、ドラマ『ラジオスター』(NHK総合)が2026年3月30日から放送されている。災害FMのパーソナリティー・柊カナデ(福地桃子)をはじめとした登場人物が、ラジオをきっかけに自分自身の過去や災害で受けた傷と向き合いながら、前に進む姿を映し出した作品だ。能登の“今”を映し出す様はドキュメンタリー的で、ドラマであることを忘れる瞬間も珍しくない。独特の描き方をしている本作がどのように制作されているのか、演出を務めるNHKの一木正恵氏に話を聞いた。(前後編の後編)
◆“笑い”の難しさ
――印象的なシーンは多いですが、被災地で海野リクト(甲斐翔真)が1人でお笑いライブを開催し、滑り続けるシーンは胸がギュッとなりました。
阪神・淡路大震災における笑福亭鶴瓶さんや、東日本大震災におけるサンドウィッチマンさんは、「どのようなタイミングならば人を傷付けずに、生きる力になりえるのか」を考え迷われた記録を残しています。他にも、さまざまな芸人さんが葛藤してきたことだと思います。彼らが当時書き残したことを詳細に研究してベースに作り上げたシーンがリクトのライブなんですよね。
――リクトの気持ちも共感できるため、見ながら複雑な気持ちになりました。
リクトもキャリアが浅いけど、それでも「人生をかけてやってきたもので、傷ついている人たちを明るくできるかもしれない」と思ってしまった。甲斐さんは演劇界では非常に評価の高い俳優として認知されていますが、映像作品ではいままさにキャリアを重ねているところだと思います。甲斐さんとリクトの“若さ”がシンクロしたことで、リクトが抱えたトラウマの大きさを自然に表現できたのではないかと感じます。
――また、“笑い”の難しさも感じました。
そのあたりもこだわりました。というのも、ドラマ制作に携わる人間にとって、「緊急事態が起きた時にエンタメはどのように人々の役に立てるのか」ということは私たち自身に突き付けられているテーマでもあるのです。この問いに改めて向き合いたいと思い、リクトのエピソードを作っていきました。
◆ドキュメンタリーとドラマのハイブリッド
――ドラマでありながら、ドキュメンタリー的な雰囲気を出すために意識したことは?
まず衣装にはこだわりました。一般的にはスタイリストがいて、その役や役者の魅力を最大限に引き出すコスチュームをプロとして提案しますが、今回は違います。現地を実際に見た目で、「この人物はこういう服装だろう」といった設定をまとめたスタイルブックを作成し、それをもとに演出・美術・衣装部が現地取材をベースに自分たちで衣装を決めていきました。
――「スタイリストに頼らない」というのは大きな決断だったと思います。
能登地方を舞台にした連続テレビ小説『まれ』(2015年放送)で演出を務めたことをきっかけに、能登地方と長年にわたって関わってきました。地震後も“報道応援”として何度も足を運んでいたので、NHKの中では「能登のことは誰よりも知っている」という自負もありました。自分や現場を見てきた美術スタッフの実感を、衣装にうまく落とし込めたと思っています。
――衣装以外でこだわったことは?
能登で撮影する際は、照明の当て方を、いい意味でキャストを目立たせすぎないようにしました。一般的にはキャストとそれ以外の人物でライティングを変え、さらにカメラアングルも調整しますが、今回はそうした差を設けず、全員を同じように撮影しました。
――登場人物が能登を歩いている時の表情も新鮮で、被災地の凄惨さを実感している印象でした。
通常は「ドライ(カメラなしのリハーサル)→リハーサル→本番」という流れで撮影を行うため、実際の撮影前に最低でも2〜3回は同じシチュエーションで演技しています。ただ、能登でのシーンはなるべく通常の段取りをそぎ落し、可能な場合は一発勝負で狙っていきました。被災地を歩くシーンであれば、役者が実際にその場所を歩くのは初めてになります。だからこそ、登場人物の新鮮な表情やリアクションを映し出すことができました。
◆被災者の描き方
――「被災者=可哀想」という描き方になっていなかった点も特徴的でした。
ドラマを作るために現地の人たちと接し、たくさんの話を聞きましたが、私たちの前で泣いている人は一人も見かけませんでした。もちろん、人知れず涙を流している瞬間はあったと思います。それでも、「泣いて復興するより笑って復興しよう」というひたむきな思いを感じました。だからこそ、過剰にセンチメンタルな演出でその思いを踏みにじることは避けるべきだと考えました。
――能登に住む人たちの気持ちを汲んで制作しているのですね。
そうですね。感動を押しつける作品にはしない。困難に直面しながらも「何とかやってやる」という前向きな、尊敬すべき普通の人々を描くことを目指しています。
――能登に残るか悩む政博(風間俊介)や、大阪に行きたいまな(大野愛実)など、多様な選択が描かれていた点も印象的でした。
「あらゆる選択はすべて肯定されるべき」だと思っています。仕事や学校、育児など、さまざまな事情がある中で、被災地を離れたいと考える人がいるのも自然なことだと感じています。一生懸命考え抜いて出した答えであれば、それは誰が何と言おうとその人にとっての正解です。そのことが見ている方にも伝わればと思っています。
――改めて本作をどのように楽しんでほしいですか?
「被災地に関心のない人も肯定したい」という思いがあります。被災地のことを毎日考えるのはときに心に大きな負担がかかるものですし、一人の力には限界があります。あまりの無力さに気が遠くなることもあると思います。だから「関心がない」のは、優しさの表れでもあると私は思っています。そんな方々に、どうかリラックスして能登を見て欲しい。それが私の一番の願いです。
今は能登は何の準備もなく気軽に旅行できるとまでは行かないかもしれませんが、それでも、料理は相変わらず美味しく、困難に直面したからこそひと際輝く人の心の美しさは揺るぎません。本作を、被災地の物語として構えることなく、カナデと松本功介(甲本雅裕)の課題解決バディものとしても、カナデとリクトの成長物語としても楽しめます。さまざまな視点で気軽に見てもらえればうれしいです。
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