ゲーセンに現れた謎の張り紙、その正体にギョッとした 良い意味で「頭おかしい」と話題に…
静岡のゲームセンターに出現した巨大な張り紙。その正体が「とんでもないアート」として、世の格闘ゲーマーに衝撃を与えている。
対戦格闘ゲームの世界的祭典「EVO2024」が米・ラスベガスにて、7月19日から21日(現地時間)にかけて開催された。この3日間はワールドクラスの猛者プレイヤーらによるスーパープレイが多数配信され、世界中の格ゲーマーらを今なお興奮させている。
さてそんなEVOに先駆け、日本は静岡のゲームセンターにて発見された「驚きのボード作品」が、格ゲーマーらに衝撃を与えていたことをご存知だろうか。
イラストの正体に目を疑う...
ことの発端は、格闘ゲーム『ストリートファイターIII 3rd Strike』(以下、3rd)プレイヤーのカミィさんが投稿した1件のポスト。
「これ作った人、頭おかしい!(褒め言葉)」と意味深な1文の綴られた投稿には、「スト3サード静岡大会」「2024/7/14 大井川道場」と記された大きなボードの写真が添えられている。
こちらの文言の上には、『ストリートファイター』シリーズを象徴するキャラクターのケンのイラストがプリントされているのだが...。写真を拡大すると、衝撃の事実が判明。
なんとこちらのケン、『3rd』のゲームプレイ動画を切り取り、非常に綿密に作り上げられたモザイクアートだったのだ。
そもそも『3rd』って何だ?
『ストリートファイター』シリーズ最新ナンバリングタイトルは、昨年6月にリリースされた『ストリートファイター6』(以下、スト6)。
一方の『3rd』は、1999年よりアーケードにて筐体稼働したタイトルだ。じつに25年前の作品ということで「レトロゲーム」の6文字を連想した人も多いかと思うが、現在も高い人気を誇る、由緒正しき「現役タイトル」である。
中でも、プロゲーマー・梅原大吾氏が2004年「EVO2004」の『3rd』で魅せたスーパープレイは「背水の逆転劇」として知られ、20年が経った今なお「世界で最も有名な格ゲー動画」の座に君臨している。
今年の「EVO2024」では最新作『スト6』と共に、『3rd』がメインタイトルに名を連ね、1,000名以上がエントリーしたのだから、世界規模での根強い人気が窺えることだろう。
そうした背景もあり、件のモザイクアートは世界中の格ゲーマーの間で大きな話題に。前出のポストは、投稿から数日足らずで3,000件近くものリポストを叩き出したのだ。
他のXユーザーからは「専用ソフトを使ってたとしても、愛を感じてすごい」「これはセンスの塊」「本当に頭おかしい(褒め言葉)」など、称賛の声が続出していた。
そこで今回は、話題のモザイクアートを作成した経緯について、静岡県静岡市のゲームセンター「アップル新北街道店」の店長・鈴木さんに話を聞いてみることに。
すると、ヒューゴーの「立ちギガス」に匹敵する、衝撃の舞台裏が明らかになったのだ。
それにしてもこのゲーセン、ノリノリである
https://twitter.com/ex_megane/status/1812058513373577453
ことの経緯をめぐり、鈴木さんは「お店では、毎月行われている対戦会(毎月第3土曜)に来店して頂いたプレイヤーにネームプレートを作って頂いています。『遊びに来て頂いた足跡を残してもらいたい』と考え、4~5年前から作成しているものです」と振り返る。
ユーザーから「サードの大井川道場」と呼ばれていることをヒントに、「道場=名札」というイメージで作成したボードには、200名以上のプレイヤーの名札が記録されているという。
そして今回、店舗にて『3rd』の大会を開催するに当たっても、同様に「参加して頂いた方に、何か足跡を残してもらいたい」と考え、メッセージボードとして今回の作品を作成したのだ。
すると、多くのプレイヤーが拡散することによって、予想外の大バズりを達成。しかし、鈴木さんは笑顔を浮かべつつ「作品がXでバズったことより、大会を無事終えたことの方が嬉しいです」と、謙虚なコメントを寄せてくれたのだ。
なお、本大会が開催されたのは「アップルグランリバー大井川店」で、鈴木さんは大会の準備や立ち会いなど、ヘルプとして駆けつけたそう。
令和の現代だからこそ『3rd』
『eスポーツ』という言葉が世に広まり、ゲームのバランスを調整する「アップデート」が常識となった現代では、格ゲーもまた「競技」として洗練された側面が強まった感が否めない。
もちろんそれはそれで喜ばしい進歩だが、そのマイルドな傾向に対し、漫画『HUNTER×HUNTER』のネテロ会長のように「そんなんじゃねえだろ!! オレが求めた武の極みは」という疑問を覚えている格ゲーマーも少なくないだろう。
まだ「eスポーツ」という言葉が生まれる前に誕生した『3rd』は、現在の格ゲーの常識から考えると、信じられないほど尖ったキャラ性能、技性能のオンパレードである。
過去作を知らない令和の格ゲーマーが3rdの強キャラを見たら、まるで年配世代から「昔は電車の中でも煙草が吸えた」と明かされた時にも似た衝撃を覚えるのではないだろうか。『カルピスウォーター』を飲んだ後で、カルピスの原液を舐めたときの衝撃にも似ていることだろう。
強キャラと弱キャラの差も激しく、人によっては「バランスが崩壊している」という印象を受けるかもしれないが、3rd固有のシステム「ブロッキング」が存在することで、高い読み合いとゲーム性、競技性を実現させている。
同システムは『スト6』の「ドライブパリィ」にも引き継がれており、やはり『ストリートファイター』シリーズを語る上で重要な作品であることは間違いない。
鈴木さんも「稼働から25年以上経ってもまだ多くのファンがいて、今年のEVO2024でも復活した『3rd』は、やはり完成された格闘ゲームだと思います」「ブロッキングからの返しや読み合い、ステータス的に低いとされているキャラでもそれらを駆使すれば勝てる醍醐味など、語りきれないほどの魅力があると思います」と、興奮した様子で語る。
家庭用ゲームにも移植された同作だが、大半のプレイヤーが「基板とブラウン管の筐体で遊べる環境とは別物」と認識しており、日夜ゲーセンにて多くのプレイターが鎬を削っているのだ。
そうした背景を踏まえ、鈴木さんは「昨今のゲームセンターでは生き残るため、プライズゲームや音楽ゲームを中心に導入し、古いビデオゲームがどんどん減らされている状況です」「しかし何とか、ビデオ筐体を残していければと考えています」と、昨今のゲーセン事情についてもコメント。
続けて「『3rd』トッププレイヤーの対戦動画を見ると、プレイした経験のない方でも『やってみようかな?』と思ってもらえるくらい、見入ってしまいます。マイナー競技で普段全く見ないスポーツでも、オリンピック中継をTVで放送していると、つい見てしまう現象に通じるものがあると思います」「これからも筐体、基板、交流の場を残せるように頑張っていきたいと思います」と、今後の展望を語ってくれたのだ。
今年のEVOにて『3rd』の覇者となったのが日本の選手・MOV氏であるように、日本の『3rd』勢は非常にレベルが高く、観客を「魅せる」プレイにも非常に長けている。
「立ちギガス」の第一人者であり生粋のエンターテイナー・はやお氏、日本原産「W吹上」の恐ろしさを世界に轟かせたトミナガ氏、中立実況「トミナガのターンです」があまりに有名なトクラ氏、レミーが弱キャラであること感じさせない驚異の制圧力を持つ厳密神・ピエロ氏、腕の靱帯と引き換えに世界最速の電刃波動拳を撃つ男・くに氏など、魅力あふれるプレイヤーに関しては枚挙の暇が無い。
日本が世界に誇る格ゲーの名作タイトル『3rd』を、ぜひプレイしてみてほしい。
※記事内の画像は全て「アップル新北街道店」提供
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執筆者プロフィール
秋山はじめ:1989年生まれ。『Sirabee』編集部取材担当サブデスク。
新卒入社した三菱電機グループのIT企業で営業職を経験の後、ブラックすぎる編集プロダクションに入社。生と死の狭間で唯一無二のライティングスキルを会得し、退職後は未払い残業代に利息を乗せて回収に成功。以降はSirabee編集部にて、その企画力と機動力を活かして邁進中。
X(旧・ツイッター)を中心にSNSでバズった投稿に関する深掘り取材記事を、年間400件以上担当。ドン・キホーテ、ハードオフに対する造詣が深く、地元・埼玉(浦和)や、蒲田などのローカルネタにも精通。
『3rd』ではレミーを使うが、メインでプレイするのは『ウルトラストリートファイター4』。
(取材・文/Sirabee 編集部・秋山 はじめ)
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