『海に眠るダイヤモンド』最終話 咲き乱れたコスモス、タイトルに隠された本当の意味
神木隆之介が主演を務めるTVドラマ『海に眠るダイヤモンド』(TBS系)の最終話となる第9話(2時間スペシャル)が、12月22日に放送された。なぜ鉄平(神木)は、朝子(杉咲花)に一言も告げず、夜逃げのようなかたちでリナ(池田エライザ)と一緒に端島を去ったのか。その真相が遂に明かされる。(以下、ドラマのネタバレを含みます)
リナを守るために進平(斎藤工)が小鉄(若林時英)を射殺したことが、全ての発端だった。小鉄からの連絡がパッタリ途絶えたことを不審に思い、兄貴分のヤクザ鋼市(三浦誠己)が端島に上陸。ヤクザから身を隠していたリナを発見し、まだ幼い息子の誠を誘拐するという暴挙に出る。
リナと誠を守るために単身乗り込んだ鉄平は、殺したのは自分だと偽りの告白をして、ボートで端島から脱出。各地を転々としながら、ヤクザから逃げ回る日々を送るようになる。並のドラマなら、ハリソン・フォード主演映画『逃亡者』のような逃亡劇をメインプロットに据えるはず。しかし『海に眠るダイヤモンド』は、「鉄平・逃亡編」をわずか20分程度の超ダイジェストでお届け。破格の構成である。その間に端島は閉山が決定し、朝子は虎次郎(前原瑞樹)と結婚。誰よりも端島を愛していた鉄平は、忸怩たる気持ちで日本各地を巡ったことだろう。
そして最終回になってやっと、我々は『海に眠るダイヤモンド』というタイトルの本当の意味を知ることになる。端島の象徴であり、「黒いダイヤ」とも称される石炭のことだと思い込んでいたのだが、それはポルトガル語でダイヤモンドを意味するガラス製品…ギヤマンのことだったのだ。
朝子にプレゼントすると約束していたギヤマンの花瓶を、鉄平は自分でつくって渡そうとしていた。だが運命の悪戯でそれは叶わぬ夢となってしまう。それでも鉄平は10年以上前に端島に上陸し、ギヤマンの花瓶をそっと部屋の片隅に置く。その場所は、世帯持ちだけが住居を許された上階の部屋。現実には実現しなかった鉄平と朝子との結婚生活を、せめて夢の中では叶えたいという想いだったのだろうか。『海に眠るダイヤモンド』は、「海の上の端島に眠る(=夢)ギヤマン」という意味とも読み取れる。
思えば第6話で鉄平は、「俺は気が長い。朝子と一緒にいつまでも、いつでも端島にいる。だからゆっくり長い目で見てほしい」と朝子に語りかけていた。彼はその言葉通り、ずっと彼女のことを思い続けていた。8年前にこの世を去っていた鉄平の家に、朝子と二人でで植えようと誓ったコスモスが咲き乱れていたのも、その想いの表われなのだろう。コスモスの花言葉は、“幼い恋心”だ。
コスモスという花には、おそらくもう一つ意味がある。第4話では故人の霊を弔うために行う伝統行事「精霊流し」が重要なモチーフとして使われていたが、それは和尚役を演じたさだまさしが、フォークデュオのグループ時代に発表した楽曲名でもあった。そして彼が山口百恵のために作詞・作曲をした楽曲が、1977年にリリースされた「秋桜」。これは嫁ぐ娘が母を思う気持ちを歌った曲であり、つまり「結婚」の暗喩として機能しているのだ。
物語のクライマックス、いづみ(宮本信子)の前にかつての自分自身が現れ、「朝子はね、きばって生きたわよ」とねぎらいの言葉を投げかける。そしてVRのように端島の風景が蘇り、若き日の鉄平が朝子にプロポーズ。この壮大なドラマは、朝子が鉄平と晴れて結ばれるという、マルチユニバース的な大団円を迎える。
筆者はずっと、『海に眠るダイヤモンド』がどのような終着点を目指しているのかが分からずにいた。だが、最後の最後でようやく分かった。このドラマは、現在の自分が、過去の自分をきちんと肯定してあげる物語だったのだ。そのために、鉄平への想いに決着をつける必要があったのだろう。
今を一生懸命、きばって生きる。この力強いメッセージが、昭和と令和という二つの時代を繋いで、我々の心を揺り動かしてくれた。
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