Z世代によるZ世代のための売り場 阪急うめだ本店「サムシング・グッド・スタジオ」 食もアートも全てファッション
阪急うめだ本店は3月末、3階エスカレーターサイドに売り場面積198平方メートルの新売り場「サムシング・グッド・スタジオ」(SGS)を立ち上げた。10代後半から20代前半の「Z世代」のファン化を狙いとする売り場だ。この目的を達成するために公募で選ばれたのが入社4年目を中心とする20代前半の女性4人。クリエイティブバイヤーの肩書で、企画から、仕入れ、運営、販促の全てを仕切る。それぞれがSNSの公式アカウントを持ち、〝販売前後〟の情報も発信する。従来型の売り場開発や販売促進策とは一線を画した手法で、Z世代によるZ世代のための売り場運営を開始した。
(吉田勧)
「うちらがヒロイン」
3月31日からの1週間、立ち上げ企画として提案したのは「うちらがヒロイン」だ。コケティッシュ・ガーリー、ジェンダーレス・多様性などバイヤーが思うヒロイン像を表した3体のアニメモデルを展示し、各ヒロインが好きだと思うモノ=バイヤーが気になっているモノを集積展開した。「ベリン」「ローズソーンズ」「ザ・ヴァージンズ」とそれぞれテイストの違う服や「フイウチ」のアクセサリー、「千馬ミヤビ」のフルーツサンドを揃えた。
普段は見かけないような大学生や学生服の高校生など「10代後半から20代前半のZ世代がピンポイントで来店した」(同企画のリーダーを務めたナミ)という。それぞれのブランドのファンが来店し、「多様な客層」となった。最も人気があったのがフイウチのアクセサリーで、初日から数日間は整理券を配って対応した。フルーツサンドも「連日ほとんど完売」状態。この1週間でSGSのインスタグラムのフォロワー数は約200人増えた。
続く4月7~13日のテーマは「バズるクリエイター」。Z世代が注目しているという「レッドフィッシュ」「可哀想に!」「ワンタン」のほか、専門店スピンズとの協業による5組を含め、クリエイターのアート作品や雑貨などを販売した。ツイッターで「10万人のフォロワーがいる」という可哀想に!は、1万円程度の原画のほか、キーホルダー、ステッカーなどの低単価商品を含め販売点数は約400点。リモートショッピングサービス「リモオーダー」で購入した北海道や関東在住の客もいた。
4月14日からの2週間はSNSで話題の「コテージコア」を開催。花畑や森の中のコテージでゆったり過ごすイメージだ。前半の1週間は、米ロサンゼルスの古着などを提案する「ミルウッドヴィンテージ」、アクサセリーを中心の「リリバイセリ」、カフェ「カフェナンバー」のトゥンカロンなどを揃えた。初日は、トゥンカロンが約300個売れ、リリバイセリの付け襟やシースルーチューブトップの反応が良かったという。いずれの企画も提案していたブランドは初耳ばかりだったが、Z世代にとっては注目ブランドなのだ。
「一人十色」と「等身大」
SGSのある3階は、モード、シスターズクローゼット、婦人肌着、コスメで構成する婦人ファッションフロア。にもかかわらず、スイーツやアート、今後は観葉植物などの販売も計画するなど、SGSで提案するものにカテゴリーの制限は設けていない。
「ファッションの捉え方が違う。ミレニアル世代より上はファッションと言えば服。インスタグラムを使いこなしているZ世代はSNSに映るもの全てをファッションと捉えている。食やカルチャーまでいろんな物を扱っていく必要がある」(平原瞳同店婦人ファッション営業統括部SGSバイイングマネージャー兼ディレクター)。ミレニアル世代の平原さんは、シスターズクローゼットのバイヤーを務めるなど「エントリー客」の獲得に取り組んできた。
「一人十色。一人の中にいろんな関心事が共存している」。それがより顕著なのがZ世代との見方だ。
20年10月に「Z世代コンテンテツ開発プロジェクト」が正式に立ち上がり、推進マネージャーとなった平原さんは、個々にインスタグラムの公式アカウントを持って、情報の受発信に取り組む新たな販促手法も提案した。「ミレニアル世代は憧れ消費が多いと思う。Z世代にも憧れはあるが、自分のリアルを映し出しているユーチューバーが支持されるなど等身大ということが響いている」。
インスタグラムの配信だけでなく、プレゼン会議や商談の様子、売り場作りといった「百貨店の裏側」を見せるユーチューブを配信しているのは、「等身大」がキーワードだからだ。
百貨店の長年の課題
「若い客層とのつながり」重視モード、紳士服洋品の売り場演出担当…。公募で決まった4人のクリエイティブバイヤーの出身はバラバラだ。「バイヤー希望で入社だったので、真っ先に応募した。いろんなモノをファッションと捉えることに共感している」「販売、バイヤー、販促、色々な経験が出来るのはすごく魅力。自分たちの好みに沿った提案が出来れば」などが開発プロジェクトへの応募理由だ。臆することのない積極性がうかがえる。「モードとシスターズクローゼットには境目がある。その中間服、どちらでも通用する服が世の中にたくさんある。個人的には(SGSが境目を)グラデーションになるような感じにしたい」との見方も興味深い。
SGSは「ユーザーとのつながり」をKPI(重要経営指標)に置いている。3月末の立ち上げからまだ3週間のため、来店のきっかけは、出店ブランドのSNSが大半を占めている。SGSの関心事を多様に提案し続けていくことで、SGS発、クリエイティブバイヤー発のSNSが来店・購買のきっかけとなるような拠点を目指している。
阪急うめだ本店は、キャリア、ミセスといった年齢軸分類の売り場からモード、コンテンポラリー、プレミアムへと婦人服の売り場分類を変え、一定の成果を上げてきた。SGSでは、同世代による売り場開発やコミュニティー作りという新たな手法で、百貨店の長年の課題である「若い客層」の顧客化に取り組む。また、阪急阪神百貨店は、OMO(オンラインとオフラインの融合)ビジネスモデルの確立を目指している。「長くつながり続けることがOMOのビジネススタイルの本丸」(山口俊比古社長)と見ており、OMOビジネススタイルの推進事例のひとつとも言えそうだ。
(繊研新聞本紙21年4月23日付)
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