2人に1人ががんになる時代、若年化の背景に食生活の課題も……がん治療を助ける食生活「ケトン食」とは
【内科指導医・ケトン食専門家が解説】著名人のがん報道が続き、日本でも若年層のがん急増が課題となっています。大きな原因の1つに食生活の変化が挙げられる中、糖ではなく脂肪をエネルギー源にする「ケトン食」の可能性について、分かりやすく解説します。(※画像:amanaimages)
最近、著名人の方々ががんで亡くなるニュースを多く目にします。超高齢社会を迎えたわが国において、がんの増加は「仕方がないこと」なのでしょうか。
一方で、若年層におけるがんも増加傾向です。私たちがいま取り組むべき「がんを遠ざける体づくり」の新しい方法について、ご紹介したいと思います。
50代以下の「若年性がん」が増えている? 統計が示す日本のがんの現状
最近、有名人の方のがんに関連する悲しい報道をよく目にします。2025年12月にはゴルフ界のレジェンドであるジャンボ尾崎さんが78歳でS状結腸がんにより逝去されました。また、最近ではLUNA SEAのドラマーの真矢さんが56歳という若さで大腸がんにより亡くなられました。こうした著名な方の訃報を聞くたびに、外来で向き合っている患者さんの顔が浮かび、恐れを抱かないでほしいと感じます。
現在、日本人の2人に1人ががんになると言われています(2021年、2023年国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」)。加えて、日本は超高齢社会を迎えています。高齢な方ががんで逝去された報を聞くと、多くの方が「残念だけど、年齢的にやむを得ない」と受け取る雰囲気もあるかもしれません。しかし、本当にそうでしょうか? 内科医として長年がん治療に携わってきた私は、あえて「新たな視点がある」ことをお伝えしたいのです。
実は、2021年に発表された人口動態調査を見る限り、明らかな傾向が見て取れます。かつて主流だった胃がんが徐々に減少する一方で、男性では肺がん、大腸がん、膵がん、女性では乳がんが急増しているのです。
さらに2025年11月の国立がん研究センターによる発表(Military Medical Research)では、日本を含む諸国で20歳から50歳未満の若い年代でがんの罹患率が増加していることが報告されました。特に大腸がんの増加は顕著であり、もはやがんは高齢者だけの問題ではなくなっているのです。
食生活の変化がもたらした健康への影響……「食の欧米化」ががんを招く?
なぜ、これほどまでに特定のがんが増えているのでしょうか。そのヒントは、日本から遠く離れた北極圏のグリーンランドにあります。グリーンランドは北極圏近くにあるデンマーク領の世界最大の島で、近年はアメリカのトランプ大統領の発言でも注目を集めました。
この地は氷に覆われ、農業がほとんどできません。数千年前から暮らすイヌイットの人々は、アザラシやクジラ、魚、キビヤック(海鳥をアザラシの皮に入れて発酵させた食品)などを食べる、低炭水化物・高脂肪の食生活を送っていました。
デンマークの研究者が彼らの独特の食生活に注目し、調査したところ、脂肪を多く摂取しているにもかかわらず、コレステロール値が低く、糖尿病や心筋梗塞、そして何より「がん」の発生率が極端に低かったのです。
当初は、極限の環境や独特の生活習慣にあると考えられていました。しかし、本当の答えは、思わぬ形でもたらされます。第2次世界大戦後から、イヌイットの人たちは、伝統的な食生活をする人たちと、都市化により食の欧米化、炭水化物や加工食品をとる食生活をする人たちに分かれていきました。
すると、伝統食を続けた人たちと比較して、食が欧米化した人たちでは、がんの発生数が激増したのです。(2008年:Lancet Oncology)。それもいわゆる欧米型のがんである肺がん、大腸がん、乳がん、前立腺がんなどが増加したことが報告されています。
これは、はるか遠い国の話ではありません。実は、イヌイットの人たちは私たちと同じモンゴロイドなのです。最近は交流が進み、欧米系の人たちも増えているようですが、写真を見るとなんとなく日本人によく似ています。
そして実は、日本の沖縄県でも同様の現象が起きています。沖縄はかつては世界でも有数の長寿地域として知られていましたが、戦後、ニンジンシリシリなどの伝統食が食べられなくなり、食文化が変化しました。そして、肥満が進み、糖尿病、心筋梗塞、そして何よりもがんの発生が増えているのです。これを「沖縄クライシス」と呼んでいます。食の変化が、体をむしばんでいる可能性は否定できません。
食事療法として注目される「ケトン食」とは……ステージIVからの長期生存という希望も
こうした背景から、にわかに注目を集めたのが、低炭水化物高脂肪食で肝臓でのケトン体産生を誘導する「ケトン食」です。ごく簡単にご説明すると、エネルギー源を「糖」から「脂肪」へと切り替える食事療法のことです。
ケトン食の歴史は古く、古代ギリシャの医師であるヒポクラテスの時代までさかのぼります。従来は、薬では治療の難しいてんかんの治療食として知られていましたが、1990年代にアメリカで再評価され、2010年代からは、がん治療の領域で新たなアプローチ法として注目されるようになりました。
私は2012年から日本の基幹病院で先駆けて、ステージIVのさまざまな進行がん患者さんを対象としたケトン食療法の臨床研究を開始しました。その成果は着実に現れています。
2020年の報告では、ケトン食を継続した37名を解析した結果、開始から1年後に3名が完全奏功(がんが消失)、7名が部分奏効(がんが30%以上縮小)となり、3年生存率は44.5%という結果が得られました。
さらに2023年の報告では、ケトン食を1年以上継続した患者さんの生存期間中央値は約4年7カ月。5年以上生存した患者が8名、最長では10年以上、生存されている例も確認されています。
これらの成果により、日本、アメリカ、シンガポールなどで「がんの食事療法」として特許を取得することができました。さらに2025年には、慢性腎臓病やMASH(旧称:NASH/脂肪肝)の食事療法としても特許を取得しています。
「日々の食事」が未来を変える! がん治療を支える新しい可能性
がん治療は時に過酷です。治療効果が得られていても、患者さんの生きる力が削られてしまうこともあります。しかし、長年の研究を通じて私が確信しているのは、ケトン食は患者さんの「生きる力」を高め、治療効果をサポートする土台になり得るということです。
著名な方々の訃報に接するたびに、この「ケトン食」という新たな視点がより広く知られる必要性を痛感します。食事という毎日繰り返される営みの中にこそ、未来を変えるチャンスがあります。明日を生きようとする方々の一人でも多くに、ケトン食の可能性を届けていきたいと考えています。
先端医学と食でレジリエンスを高め、健康寿命と成長を見守る内科医。大阪大学先進融合医学共同研究講座特任教授として先端医学から伝統医学、レジリエンス・ケトン食などの研究活動に携わった後、現在はそれらの社会実装に精力的に取り組んでいる。
執筆者:萩原 圭祐(レジリエンス医学と栄養・代謝ガイド)
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