「うるさい」と隣に苦情を入れ続けた私が、夏祭りで3歳の子に救われた話
苦情を入れざるを得なかった理由
夫は若い頃から長距離トラックの仕事を続けてきました。深夜から早朝にかけて高速道路を走り、午前中に帰宅して、昼間に体を休ませる生活が30年近く続いています。お隣の親子が引っ越してきた当初は、私も挨拶をして、穏やかに過ごせると思っていました。
けれども、3歳の男の子の元気な声は、日中の集合住宅では想像以上に響くものでした。夫が「眠れない」と言い始めた時、私は意を決してインターホンを押しました。「お子さんの声、何とかしてもらえませんか」。声が硬くなってしまったのは、自分でもわかっていました。
本心とは違う言葉
本当は、子どもが嫌いなわけではありません。姪っ子や甥っ子と遊ぶのは今でも何より楽しい時間ですし、近所の子どもたちが下校するのを窓から眺めるのが、ささやかな日課でもありました。
それでも、夫の体を守れるのは私だけ。インターホンを押すたびに、お母さんが小さな声で「すみません」と頭を下げる姿を見て、罪悪感が積み重なっていきました。 「子どもなんだから声を出すのは当たり前」とわかっているのに、夫が眠れない夜のことを思うと、優しく伝える余裕がなくなっていきます。鏡に映る自分の険しい顔を見るたび、こんな顔で隣の親子に向き合っていたのかと情けなくなりました。
夏祭りで差し出された小さな手
8月初旬、マンションの広場で夏祭りが開かれた夜。家にいるのも気詰まりで、私は紺色の浴衣を着て、ふらりと屋台の並ぶ広場に出ていきました。
金魚すくいのコーナーの近くで立ち止まっていると、青い浴衣を着た男の子がトコトコと走ってきました。お隣の3歳の息子さんでした。あの「うるさい」と苦情を入れていた、その声の主です。息子さんは私を見上げると、屈託のない笑顔でこう言ったのです。「おばちゃん、一緒に金魚すくいやろう?」。私は何度もまばたきをしました。
そして...
気づけば、私はしゃがんでその小さな手を握っていました。「ありがとう、嬉しい」。自分の声が、その夜初めて柔らかい音を立てていました。
駆け寄ってきたお母さんに、私はベンチで本音を打ち明けました。「うちの主人、長距離トラックの運転手なんです。昼間に寝なくちゃいけなくて」「本当は子どもの声が嫌いなわけじゃないの。むしろ、大好き」「ごめんなさい、強く言いすぎていたわね」。お母さんは「知らなくて、こちらこそすみませんでした」と頭を下げてくださいました。
あの日からお母さんは、息子さんが活発になる時間帯をメモにして渡してくれます。お祭りで一緒にすくった金魚を、今も大切に水槽で飼っています。夫が起きる夕方、息子さんが「金魚みせて」と来てくれる日が、私の楽しみになりました。
(50代女性・パート)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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