医学的に正しい「睡眠の質」を高める7つの極意【医師が解説】
睡眠不足も大きな原因となる「燃え尽き症候群」や「うつ病」。すでに多くの研究により、質の高い睡眠がうつ病予防に非常に重要であるとわかっています。睡眠の質を上げる方法は何か、医学的な根拠に基づいた7つのポイントをご紹介します。
筆者が働いていた救急現場では「激務」の状態になることも多く、周囲の同僚や知人の中には、睡眠不足が原因となり、「燃え尽き症候群」や「うつ病」に陥るケースも見られました。すでに多くの研究により、質の高い睡眠がうつ病の予防に非常に重要であることが示されています。
睡眠の質を向上させるためにはどうすればよいのでしょうか? 医学的な根拠に基づいた具体的な方法を、7つのポイントに分けてご紹介します。病気予防の一助になりましたら幸いです。
睡眠の質を上げる方法1. 睡眠リズムを整える
生体リズムの整理は、健康的な睡眠を促進する上で最も基本的かつ重要な要素です。毎日同じ時間に就寝、起床する習慣を守れば、体内時計が調節され、一日の終わりに自然と眠気を感じることができます。特に、朝の日光を浴びることは重要です。
夜のメラトニンの分泌を促進し、日中のエネルギーレベルを高める効果があります。昼寝も効果的ですが、あまり長くせず、15分程度に抑えることがオススメです※1。
睡眠の質を上げる方法2. 良質な睡眠環境を整える
良質な睡眠のためには、寝室の環境を整えることが大切です※1。特に、「温度」「湿度」「照明」は睡眠の質に大きく影響します。また、寝室は睡眠に集中できるよう、寝る目的以外には使わないようにしましょう。
寝る時の室温は17~22度程度、湿度は40~60%を保つようにしてください。乾燥しすぎても湿気が多すぎてもよくありません。
マットレスは体圧分散に優れ、体型にフィットするものを選びましょう。枕は頸椎のカーブに沿うものが理想的です。また、寝具は吸湿・放湿性に優れた天然素材のものがよいでしょう。
睡眠の質を上げる方法3. 就寝前のリラックスタイムを設ける
睡眠の質を左右する重要な要因の一つに「深部体温」の調整があります。体温は、24時間周期で自然に上下しますが、睡眠を促すためには、就寝前に体温を適度に下げることが効果的です。体温の自然な下降を助ける一つの方法が、適温のお風呂にゆっくりと浸かることです※2。
推奨されるのは、38~40度のぬるめのお湯に15~20分間程浸かることです。この程度の温度と時間で入浴することにより、体内の熱が表面に移動し、浴後に体温が自然と下がりやすくなります。
就寝前には、スマホやパソコン、テレビなどの電子機器の使用を控えることが大切です。また、就寝時にはスマホの通知を切って、不要な睡眠中断を防ぐようにしましょう。
電子機器から発せられる光が、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌を抑制し、睡眠を妨げる要因となる可能性があります※2。また、就寝直前にSNSをチェックしたりドラマを観たりすると、脳が興奮状態になり、寝つきが悪くなってしまいますので、注意が必要です。
睡眠の質を上げる方法4. 適度な運動習慣を身につける
日中に適度な運動を行うことは、睡眠の質を高めるのに効果的です。運動はストレス解消にもつながり、心身のリラックスに役立ちます。ただし、運動のタイミングや強度には注意が必要です。
運動の強度としては、ウォーキングやヨガなどの軽めの運動がおすすめです※3。激しすぎる運動は交感神経を刺激し、睡眠の質を低下させる恐れがあるので注意しましょう。
睡眠の質を上げる方法5. 食生活に気をつける
就寝前に重い食事をとると、胃腸に負担がかかり、質の良い睡眠が取れなくなります。就寝2~3時間前までに食事を済ませ、胃腸を休めましょう。また、就寝前のカフェインやアルコールの摂取量に注意が必要です。
カフェインには覚醒作用があり、寝つきを悪くしたり、夜中に目が覚めやすくなったりします。アルコールは入眠を促す作用がありますが、夜中に目が覚めやすくなり、睡眠の質を低下させてしまいます。
睡眠の質を上げる方法6. 自分なりのストレス対処法を身につける
日常のストレスは知らず知らずのうちに溜まっていきます。そのため、ストレスを適切に発散することが質の高い睡眠につながり、うつ予防に効果的です。
ストレス発散法は人それぞれ異なりますが、運動、趣味、リラクゼーション、良好な人間関係などが重要です。
睡眠の質を上げる方法7. 改善しない場合は、睡眠障害の可能性も考える
日常的な工夫では睡眠の質が改善しない場合、適切な治療が必要な、睡眠障害のケースもあります。一例としては、以下のようなものです。
・不眠症……寝付きが悪い、夜中に目が覚める、朝早く目覚めてしまう
・睡眠時無呼吸症候群……いびきが大きい、睡眠中の呼吸が止まる
・むずむず脚症候群……足に不快感があり、じっとしていられない
上記のような症状が続く場合は、自分の判断で対処せず、まずは専門の医師に相談することが大切です。医師の診断のもと、認知行動療法や薬物療法などを考えてみましょう。
以上、医学的な根拠に基づいて、睡眠の質を向上させるための具体的な方法を、7つのポイントに絞って、ご紹介しました。ぜひ皆様の生活に取り入れてみてください。
■参考文献
※1. Milner CE, Cote KA. Benefits of napping in healthy adults: impact of nap length, time of day, age, and experience with napping. J Sleep Res. 2009 Jun;18(2):272-81. doi: 10.1111/j.1365-2869.2008.00718.x. PMID: 19645971.
※2.Barcroft H, Edholm OG. The effect of temperature on blood flow and deep temperature in the human forearm. J Physiol. 1943 Jun 30;102(1):5-20. doi: 10.1113/jphysiol.1943.sp004009. PMID: 16991588; PMCID: PMC1393429.
※3. Shechter A, Kim EW, St-Onge MP, Westwood AJ. Blocking nocturnal blue light for insomnia: A randomized controlled trial. J Psychiatr Res. 2018 Jan;96:196-202. doi: 10.1016/j.jpsychires.2017.10.015. Epub 2017 Oct 21. PMID: 29101797; PMCID: PMC5703049.
※4.Banno M, Harada Y, Taniguchi M, Tobita R, Tsujimoto H, Tsujimoto Y, Kataoka Y, Noda A. Exercise can improve sleep quality: a systematic review and meta-analysis. PeerJ. 2018 Jul 11;6:e5172. doi: 10.7717/peerj.5172. PMID: 30018855; PMCID: PMC6045928.
予防医療・内科・救急を専門とする医師。救急医療や在宅医療の現場に従事する中で、予防の重要性や予防に取り組んでもらう難しさを痛感。マウスピース歯科矯正hanaravi(ハナラビ)を提供する株式会社DRIPSを創業。歯科と医科を繋げるリリモアクリニック内科歯科の院長を務めながら、予防医療について幅広い情報発信を行っている。
執筆者:各務 康貴(医師)
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