アンディ・ウォーホルが描き続けたセクシュアリティの集結(宮沢香奈)

2024.06.27 06:00
提供:繊研plus

ベルリンの「Neue Nationalgalerie (新国立美術館)」にて、6月9日から10月6日まで開催されているアンディ・ウォーホル(Andy Warhol)の回顧展「The Velvet Rage and Beauty」を訪れた。“非常に過激な描写の作品があるため、小さな子どもを同行させる際には気をつけて下さい。”と、注意事項が記載されるだけあって、想像を超えるセクシュアリティにフォーカスした展示となっている。

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「Neue Nationalgalerie」の1階フロアーには、1940年代から1980年代に制作された絵画、版画、ドローイング、写真、ポラロイド、フィルム、コラージュなど300点以上のアーカイブ作品が展示されており、マルクス・ナショナルギャラリー所蔵の《ダブル・エルヴィス》をはじめ、ボストン美術館、ニューヨークのムグラビ・コレクション、ウィーンのルートヴィヒ現代美術館、ピッツバーグのアンディ・ウォーホル美術館から貸し出された希少価値の高いものばかりが並ぶ。

エントランス付近のラウンジには、同展の作品集や過去の作品集のサンプルが置かれ、自由に閲覧することができる。また、地下フロアーの一角ではフィルム作品の上演が行われており、同フロアーに併設されているミュージアムショップも併せて見応えも充分だ。

ウォーホルといえば、2億ドルで落札されたことでも有名なマリリン・モンローやキャンベル・スープをはじめとする有名過ぎるポップアートやFACTORY時代の写真やフィルム作品が取り上げられることが多いが、同展では、初期のドローイングや金箔を使用したコラージュなど珍しい作品が多数展示されていた。ドローイングの中には消えそうなほど細い線で描かれた繊細なタッチの作品があり、のちに、あれほどカラフルでポップな画を描くようになるとは到底信じられない印象を受けた。

同展では、男性のヌードや性器、過激なセックス描写などをこれでもか!と言わんばかりに全面に打ち出しており、そういった描写が苦手な人にはあまりおすすめできない。ウォーホルが活躍した1940年代から80年代は、ノンケ=異性愛が当たり前の世界で、性的マイノリティの人々にとって生きにくい時代だったのは周知の事実だろう。そのため、同展に展示されている作品の多くは、アートとして認められず、不適切、不道徳、逸脱、ポルノ、違法などとみなされ、日の目を浴びることなく、遺作となってしまった。

ウォーホルは、ジャン=ミシェル・バスキアを発掘し、セレブリティに囲まれた華やかで贅沢なライフスタイルを送る誰もが憧れるスターアーティストというイメージが強いかもしれない。しかし一方で、整形するほど自分の容姿にコンプレックスを持ち、トレードマークとなった銀髪のウィッグにサングラスをかけ、聞き取りにくい独特な口調で語る姿には陰が付きまとう。58歳という若さでこの世を去り、生前には決して自身のセクシュアリティを明かすことはなかったと言われているが、長年のパートナーとして生活を共にしていたインテリアデザイナーのジェド・ジョンソンをはじめ、“ウォーホルの恋人だった”とされる多くの男性たちを被写体にした作品を観ながら、時代が違っていたらどうなっていたのだろうかと思った。

展示の最後には、時代背景とともにウォーホル年表が掲示されているが、ヴェルヴェット・アンダーグランドやバナナのアートワーク、イーディ・セジウィックなど、自分が好きなウォーホルの一部しか見ていなかったことを実感した。それでも多大なる影響を受けたアーティストの1人であり、カルチャーのすべてに興味を持たせてくれたアンディ・ウォーホルという偉大なる存在を改めて探求するきっかけとなった。

ちなみに、エキシビジョンのタイトル「The Velvet Rage and Beauty」は、異性愛者の世界で同性愛者として生きていく辛さを綴った臨床心理学者のアラン・ダウンズ著書『The Velvet Rage(ベルベットの怒り)』(2005年)へのオマージュとしてつけられている。

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長野県生まれ。文化服装学院ファッションビジネス科卒業。

セレクトショップのプレス、ブランドディレクターなどを経たのち、フリーランスとしてPR事業をスタートさせる。ファッションと音楽の二本を柱に独自のスタイルで実績を積みながら、ライターとしても執筆活動を開始する。ヨーロッパのフェスやローカルカルチャーの取材を行うなど海外へと活動の幅を広げ、2014年には東京からベルリンへと拠点を移す。現在、多くの媒体にて連載を持ち、ベルリンをはじめとするヨーロッパ各地の現地情報を伝えている。主な媒体に、Qetic、VOGUE、men’sFUDGE、繊研新聞、WWD Beautyなどがある。

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