

変なドラマかと思ったけど……。『おいハンサム‼︎2』に“人生の醍醐味”を教わった話
ドラマ『おいハンサム‼︎』(フジテレビ系)の魅力は、その“豊かさ”である。ごはん時に家族みんなで囲む食卓、お母さんがいってらっしゃいと送り出してくれる玄関先、会社の先輩とランチタイムに滑り込んだ人気の洋食屋さん。なにげない日常のふとした瞬間に、豊かさを感じる。
■恋と家族とご飯をめぐるホームコメディ
娘たちの幸せを願ってやまない父(吉田鋼太郎)、恋愛運がイマイチな長女・由香(木南晴夏)、モラハラ夫と離婚して自由の身になった次女・里香(佐久間由依)、ヒモ同然の彼氏が売れっ子漫画家に進化した三女・美香(武田玲奈)、そんな家族のドタバタを見守る母(MEGUMI)を描いた『おいハンサム‼︎』は、恋と家族とご飯をめぐるホームコメディだ。タイトルの“ハンサム”とは、父がちょっと良いことを言った際に用いられる。いうなれば伊藤家の中で最上級の褒め言葉が“ハンサム”なのだ。
漫画『おいピータン‼︎』(講談社)を中心に複数の作品で構成された本作は、原作者・伊藤理佐のユーモラスな世界観を存分に味わえる実写化作品になっている。2022年1月期に放送された際には、コアなドラマ好きからジワジワと評判が広がり、最終的にはそのクールを代表する作品の一つとなった。
そして今年の4月には『おいハンサム‼︎2』が放送され、6月にはまさかの劇場版が待っている。ドラマシーズン2の放送が終わった今、やっぱり好きな作品だなぁ……としみじみ思う。
■変なドラマだけど、どこか居心地が良い
思い起こせば『おいハンサム‼︎』の第1話はすごく奇妙だった。というのも、卵かけごはんに黄身だけを使っても許されるような自由(どんな自由?)を求めた美香が、一人暮らしをゴネるシーンから唐突に始まったのだ。夢の一人暮らしはスタートするものの、これからは食器などもこだわってみようと意気込んでいた矢先に、沸騰するとピーピー音が鳴る実用的なやかんを携えた父が新居を訪れる。
この時点で、変なドラマかもしれないと思った。そして次のシーンでは、夕飯時にリクエストされたタンメンを作っていた里香が、タンメンを“ワンタン麺”と勘違いしていた夫(桐山連)に逆ギレされていたのである。
その時私は確信したのだ、これは変なドラマなのだと。不貞腐れた夫がその後「タンメン」でしか会話しなくなったのも変だったが、初回の放送にも関わらず、家族の紹介はサラッと触れた程度で、まるで私たち視聴者がすでに伊藤家のことを知っているとでもいうように、物語はどんどん進んでいったのである。
けれど、その違和感はわりと早い段階で薄まっていった。独特の空気感に慣れたというか、例えるならば「友達の家に遊びに行った時お父さんとお母さんもいて緊張したけど、30分も経てば慣れてきた」あの感覚と同じ。
私の日常にドラマが入り込んだのではなく、私が伊藤家の日常におじゃまさせてもらっていることに気がついたのだ。この家族のちょっと屈折したところも、どこか居心地が良かった。
■誰しもが共感する日常生活のちょっとした場面
『おいハンサム‼︎』が他より群を抜いているところは、なんといっても日常生活の解像度の高さだ。“あるある”と“ないない”が混在した伊藤家の日常は、一風変わったエピソードも飛び出てくるが、それでもどこか自分にフィットするような感覚がある。
例えば恋愛に悩んだ時、似たようなシチュエーションを描いた少女漫画に助けを求めたことはあるなとか。深夜のスーパーを梯子して自家製ホットドッグを作ったことはないけど、やってみたいなとか。恋人が浮気相手との別れ話の際に、コーヒーではなく、コーヒーゼリーを食べてたらそりゃあムカつくだろうなとか。伊藤家と自分を重ねては、つい思いを巡らせてしまう。
本作への“好き”を自覚した状態で始まった『おいハンサム‼︎2』は、伊藤家のことをより身近に感じるようになっていた。恋愛もご飯もおいしいところをちょこちょこ食べた方がいいと思っていた不倫体質の由香が、お腹いっぱいになること、つまり“満たされること”は幸せなのだと気づいた第3話は、大袈裟ではなく、日本中すべての人に見てほしいエピソードである。
■『おいハンサム‼︎2』が教えてくれた人生の醍醐味
さらに最終回一歩手前、第7話も紹介したい。伊藤家の日常の“象徴”である母が、体調を崩してしまう回だ。神妙なトーンの父から連絡を受けた娘たちは、すぐさま病院に駆けつける。これまで当たり前のようにあった伊藤家の日常が、初めて揺らいだ瞬間だった。
家族で無事を祈る中、母がよく作ってくれたサンドイッチのことを思い出す。一人前にしてはいつも多めの量だった。紫蘇やチーズが入ってて、どこを食べてもおいしいようにバターやマヨネーズを隅々まで塗ってくれて、パンの耳もきれいに切られていた。もしかしたら、おいしいサンドイッチを家族に食べさせるために、母はひたすらパンの耳だけを食べていたのだろうか。
娘たちが母の深い愛情に涙していると、そのサンドイッチ美談を横で聞いていた父から真実を告げられる。実は大量に余ったパンの耳を、オーブンでカリッと焼き、ラスクのようにして酒のつまみにすることが、母の楽しみだったのだ。むしろそれを食べたいがために、サンドイッチを作っていたのだと。端っこまで具を詰めていたのは、ラスクにした時によりおいしくなるからだ。
他人からはムダだと思われていたものが、実はメインディッシュだったーーそんなことが、人生にはあるのかもしれない。いや、むしろ人生の醍醐味ってそういうことなのかも。無事に退院した母を囲み、白ワインと”いつもの”ラスクを嗜む伊藤家を眺めていると、暖かい気持ちがじんわり広がってくる。その時、私のなにげない日常にも”豊かさ”を感じたのだ。
(文:明日菜子、イラスト:タテノカズヒロ)
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