「トイレの神様」英訳した渋谷トイレ、予想外な意訳が「素晴らしすぎる」と話題 管理者に事情を聞いた
渋谷の公衆トイレに書かれた「トイレの神様」の英訳が「お見事すぎる」と話題に。管理者は「国の文化ごとに表現方法を変えた」と説明する。
翻訳者を悩ませるのが「ニュアンス」の存在。たとえ原文に忠実に訳したとしても、書き手の意図が読み手に伝わらなければ意味がない。
現在X上では、東京都渋谷区のトイレで発見された注意書きの英訳が「お見事すぎる」と話題になっているのをご存知だろうか。
「トイレの神様」、どう英訳する?
ことの発端は、とあるXユーザーが投稿した「渋谷のトイレ、意訳が京大レベルすぎる」という内容のポスト。
当該のポストにはトイレ壁面を写した写真が添えられており、かわいらしいキャラクターが「トイレの神様に、顔向けできる使い方、できていますか?」と、マナーあるトイレ利用を呼びかけている。

そしてその下には「If you keep our toilet clean, you're a hero protecting this city's environment.」という英訳が記されていた。
これは直訳すると「トイレを清潔に保てば、あなたは街の環境を守るヒーローです」といったところだろうか。
「トイレの神様」に「ヒーロー」と、登場人物は全く異なる2つの文章だが、「トイレを綺麗に使おう」と呼びかけている点では共通である。
当該の光景は瞬く間に話題となり、Xユーザーからは「なるほど。トイレの神様は英語圏の国にはいないもんな」「これは紛うことなき京大英語」「この英訳、素晴らしすぎる」「『翻訳とは』ということを考えさせられるな」「文化の多様性を感じる」といった称賛の声が相次いでいた。

そこで今回は、話題の啓発マッピングが掲出された渋谷駅東口地下広場の公衆トイレをめぐり、「渋谷駅前エリアマネジメント事務局」に詳しい話を聞いてみることに。
「道徳観や情緒」を大事に
掲出の経緯について、担当者は「今回のラッピングではマナーを押し付けるのではなく、『感謝の気持ち』を前面に出すことで、利用者が自然と丁寧に使いたくなる気持ち(心理的抑止力)を引き出すことをコンセプトとしています」と、説明する。
男子トイレの小便座前の多言語表記については「直訳ではなく、利用者に向けられたメッセージとして道徳観や情緒に訴えかける表現を選定いたしました」とも説明していた。
「神様」という言葉は宗教的な印象を抱きやすいものだが、多くの日本人は「トイレの神様」という表現から、「物や場所に神仏が宿る」「お天道様が見ている」といった、古来より日本文化の根底にある感覚に連想することだろう。
当該のマッピングもそうした感覚に着想を得たもので、担当者は「2010年に流行した楽曲でも『トイレの神様』という表現が用いられ、細かな説明がなくとも多くの人がそのニュアンスを自然に理解していたように、日本国内では比較的共有されやすい価値観だと考えています」と、頷いていた。
一方で世界に目を向けると、国や文化によって信仰や神に対する捉え方は大きく異なるものである。
そうした背景を踏まえ、担当者は「海外利用者に向けた英語表現においては、公共空間をきれいに使う行動を 『hero』(ヒーロー) という、より普遍的で前向きな価値観へ置き換えることで、公共マナーに共感して頂くための入口としました」と、説明していた。

文化ごとに表現方法は変えながらも、「清潔に使うことは、誰かのためになる良い行動である」というメッセージを共通の軸とし、日本における「神様」という表現のニュアンスと、海外での受け取られ方の違いに配慮した、見事なコピーライティングと言えるだろう。
トイレ内の啓発文は日本語 、英語 、中国語 、韓国語 の4言語でメッセージを表記しており、いずれも日本語をそのまま表現すると伝わらない可能性もあることから、今回の「トイレの神様」のように、文化ごとに表現方法を変えた表記を採用しているという。
「美しいトイレは日本の誇り」
当該のマッピングが話題となったことについて、事務局担当者は「世界中に様々な公衆トイレがある中で、日本の公衆トイレが美しいことは国の誇りであり、多くのインバウンド観光客にも日本の文化や心が素晴らしいものだと感じてもらえると嬉しいです」と、笑顔を見せる。
また「当初より、このラッピングに効果があるのであれば、他の公衆トイレなどに展開できると良いのではないかと構想しております。現にラッピング掲出後はトラブルも減少している傾向にあり、今後も引き続き、効果を検証してまいります」と、今後の展望を語ってくれた。
なお、ユニークな啓発文が採用されたラッピングを見て、思わず写真を撮りたくなる人もいるかと思うが、掲出箇所はトイレ内。周囲の利用者へ配慮のうえ、撮影はなるべく控えるように。
トイレの清潔さは、利用者の心を映す鏡のような存在。渋谷から世界に「日本のトイレの誇り」が広がっていくことを願いたい。
執筆者プロフィール
秋山はじめ:1989年生まれ。『Sirabee』編集部取材担当サブデスク。
新卒入社した三菱電機グループのIT企業で営業職を経験の後、ブラックすぎる編集プロダクションに入社。生と死の狭間で唯一無二のライティングスキルを会得し、退職後は未払い残業代に利息を乗せて回収に成功。以降はSirabee編集部にて、その企画力・機動力を活かして邁進中。
X(旧・ツイッター)を中心にSNSでバズった投稿に関する深掘り取材記事を、年間400件以上担当。道路・鉄道ネタに関する取材で、国土交通省や都道府県警、全国の道路事務所、鉄道会社に太いパイプを持つ。
(取材・文/Sirabee 編集部・秋山 はじめ)
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