『不適切にもほどがある!』公式HPより

Z世代が観た『不適切にもほどがある!』、新・SNS時代に考えたい"想いが宿る"コミュニケーション

2024.03.01 12:11
提供:ENTAME next

宮藤官九郎と阿部サダヲがタッグを組むドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS系)。第4話ではSNSに翻弄される市郎(阿部サダヲ)の様子が描かれた。世界中の人々と簡単につながれるSNS。今回は、SNSの在り方の微々たる変化に着目しながら第4話・5話を振り返ってみたい。

2017年(平成29年)、”インスタ映え”という言葉が「ユーキャン新語・流行語大賞」の年間大賞を受賞した。この頃のSNSの中心はインスタグラムで、若者はこぞって”映える”景色やスイーツ、華々しい日常の様子をアップしていたのだ。より映えるものを載せている人は憧れの的となり、いつしかインフルエンサーと呼ばれるようになった。フォロワー数の多さはステータスの象徴で、”つながり”の数が充実度に比例していると誰もが思っていた。

またメールにはなかった、LINEの既読機能に一喜一憂する人も多く「既読スルー」「未読スルー」といった言葉が誕生。何となく「既読スルーはNG」という風潮があり、目上の人とのLINEが自分のターンで終わるのはもってのほかだった。好きな人から既読スルーをされたら大層落ち込み、スマホを握りしめて眠った経験がある人もいるだろう(そして「ごめん、寝てた」と返信があり飛び上がる)。

第4話の市郎は、まさにそんな一昔前のSNSの世界をさまよっていた。既読スルーが許せず、LINEグループから勝手に抜けるなんて非常識だという感覚は、当時ならば強く共感されていただろう。しかし、時代は令和に移り変わり、学生時代からSNSに向き合ってきた人たちがだんだんと「SNSは本気で打ち込むものじゃない」ことに気づき始めたのだ。

そして現在のSNSは、以前よりもクローズになった。映えを狙った投稿よりも身内だけに伝わる小ネタの方が盛り上がるし、高級レストランの写真よりも夜中に一人でカップラーメンを食べている写真の方が何だか”エモい”感じがする。YouTubeやTikTokでも、ありのままをさらけ出す日常系の投稿が人気を集め、憧れの存在であったインフルエンサーは、いつのまにか暴露系YouTuberの餌食になっていたりするのだ。

LINEの既読機能は「読んだのに返信してない」よりも「読んでくれたんだな」の意味合いの方が強くなり、一昔前よりも友人関係や恋人関係における「既読スルー」は重視されなくなった気がしている。SNSでの交流を一通り経験した人たちは、一蹴周って「SNSだけで人は図れない」という価値観にたどり着いているのかもしれない。

情報が増えすぎたことで、私たちは自然と取捨選択せざるを得なくなった。指一本でスワイプできる大量の投稿に対して、いちいち背景や思いを考える暇はない。その結果、SNSはつながる場所から、自分自身を表現する場所へと変化しつつある。

だがこの微々たる変化に対応するのは、よっぽど普段からSNSを使いこなしていないとかなり難しいだろう。第4話の放送を見て「今の時代はこういうものなのか」と気づかされた人や、連絡を取り合うためにSNSをしているのに返信をしないとはどういうことなのか、と理解に苦しむ人もいたかもしれない。一つ言えるのは、もう、誰もSNSの正しい使い方なんて分からないということだ。

生まれた時からスマートフォンの存在があり、幼い頃からSNSに触れている世代は「SNSの正しい使い方」を改めて考える機会は少ないだろう。SNSによってチャンスをつかんだ人もいれば、デジタルタトゥーに苦しめられている人もいる。だが、SNSという大海原の中で「チャンスをつかむ投稿」と「デジタルタトゥーとなる投稿」はおそらく紙一重であり、その違いを根拠を持って説明できる人は少ないはずだ。

そんな混純したSNS時代を過ごしてきたキヨシ(坂元愛登)は、昭和にタイムスリップしSNSのない時代で暮らしている。早々に「面白くない」とスマホを手放し、黒電話、駅の掲示板など昭和ならではのコミュニケーションツールを使うようになった。「スマホがなくても純子に会えた」と興奮する姿は、この時代の”待ち合わせ”にある運命的な要素を感じさせた。

そんな中、不登校のクラスメイトとのコミュニケーション方法に頭を悩ませたキヨシは、ラジオへハガキを送ることを思いつく。せっせとハガキを書くキヨシに純子(河合優実)は思わず「ものすごく効率悪いぞ」とツッコんだが、キヨシは「インスタとかXみたいに向こうの負担にならない連絡の取り方って思いつかなくて…」と呟くのだ。

「インスタとかXは向こうの負担にならない連絡の取り方」というかなり令和的な価値観を持つ少年が考えた「ラジオにハガキを送る」というコミュニケーション方法。正直「間接的すぎて負担にならないどころか伝わらないのでは」と斜に構えてしまっていた。だが、机に並べられた大量のハガキを見ていると、公共の電波を使って特定の一人にメッセージを伝えるなんて、これこそが真の”エモさ”なのかもしれないと思ってしまった。

そしてなんだか、ハガキを書いてポストに投函するという行為は、実はSNSよりもとても密で直接的なコミュニケーションなのではないかと感じた。どうかあの人が出てくれますようにと願いながらダイヤルを回す瞬間、手紙が届いていないかと郵便受けを確認する時など、メッセージを届けるまでの時間や、受け取るまでの時間に想いが宿っている気がするのだ。

手先を動かせば気軽に言葉を届けられるこの時代。誰に見られるか分からない駅の掲示板や、親が出るかもしれない家の電話に比べ、メッセージを伝えるというハードルはグンと低くなった。その気軽さがSNSの魅力でもある。でも、大切な人に本当に大切なことを伝える時、SNSは少々頼りないときもあるのかもしれない。

今から10年、20年経てば、新たな価値観の元、今とは違うコミュニケーションツールが生まれているはずだ。もしかしたら、過去や未来とつながれる、そんな魔法みたいなツールが生まれているかもしれない。それがどんなものであれ、どうか伝えたい人に伝えたいことが真っ直ぐに伝わるツールであってほしいと思う。

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