「saku saku」で16年ぶりにMCを務めた木村カエラにインタビュー

木村カエラ「saku saku」16年ぶりに一夜限りの復活「大切にしてきた場所にまた集まれることが何よりも幸せ」

2022.07.25 10:00
「saku saku」で16年ぶりにMCを務めた木村カエラにインタビュー

木村カエラ、トミタ栞ら若手の女性モデル、アーティスト、タレントがMCを務め、2000年10月から16年半にわたって放送されたtvkの音楽情報バラエティー「saku saku」が、8月28日(日)にtvk開局50周年特別番組「saku saku 2022 ~復活の呪文 らえからむきとんせんぃゔいらし~」(夜11:00-11:55)として一夜限りの復活を果たす。今回の特番は、18歳でMCに抜てきされ(2003年3月31日~2006年3月31日)、その天真爛漫なキャラクターが世に広まり、アーティストデビューのきっかけにもなった木村が出演。“黒幕”こと菊谷宏樹ディレクターが操るパペット・白井ヴィンセントと、懐かしの屋根トークで当時と変わらない軽妙なやり取りを見せた。木村は、tvk開局50周年ソングに「Color Me feat.マヒトゥ・ザ・ピーポー」を提供している他、10月29日(土)に神奈川・ぴあアリーナMMで開催される「tvk・ぴあ 50th anniversary LIVE 2022~感謝のカタチ~」にも出演する。特番の収録を終えたばかりの木村と、抜群のトーク力と手腕で彼女の魅力を引き出した菊谷ディレクターの二人に、収録の感想や「saku saku」の思い出、当時の互いの印象などを振り返ってもらった。

16年ぶりの屋根の上「時が戻ったような感覚」

――木村さんがMCを“辞職”して16年、その後にゲスト出演もありましたが、久しぶりの「saku saku」はいかがでしたか?

木村:ゲストで出るのとはまた感覚が違って、屋根の上に座ったら全然ブランクを感じることもなく、当時と変わらない状態のまま出られた感じがしました。時が戻ったような感覚で。

菊谷D:とにかく楽しかったですね。「俺の青春が帰ってきた」みたいな。

木村:たしかに。お互いに年を取ってはいるんだけど、すごく楽しい時間でした。

――16年たってもお互いの変化はあまり感じないものですか。

菊谷D:カエラちゃんは全然変わってないですよ。さすがに16年たって、大人たちに揉まれて、こういう場でふてぶてしい態度を取らないようにはなりましたけど(笑)、根本的には何にも変わってないです。

木村:その通りだと思います(笑)。もちろん大人になっている部分もあるとは思うんですけど、根本的にはみんな変わっていないなと思いました。人間ってそう変わらないじゃないですか。

菊谷D:ちなみに俺は、小学校5年の時から全く変わってないです。11歳にして全盛期だったので。

――5年生ですでに完成していたんですね(笑)。菊谷さんは今でこそ表に出るお仕事もされていますが、当時はディレクターでありながら黒幕として番組に出演することをどう感じていたのでしょうか。

菊谷D:もともと表に出ていたわけじゃないし、表に出るとか出ないとかの感覚すら当時はよく分かっていなかったと思います。とにかく一生懸命に「なにか面白いことができないか」と思っていました。表に出るとか裏方だとか、そういうことよりも「この画面が面白ければそれでいい」という気持ちで毎日やっていて、それがいつの間にか、何年もやっている内になんとなく浸透して今に至っている、みたいな感じですかね。

「音楽番組」と聞いていたはずの「saku saku」出演…出てみたら?

――木村さんは歌手デビューをされる前からこの番組に出演していました。「saku saku」には特別な思いもあるのではないでしょうか。

木村:私は本当に小さい頃から歌が歌いたかったんですが、最初は「音楽番組がMCを探しているよ」と聞いたんです。私はとにかく歌いたかったので「音楽の仕事がしたい」という思いがきっかけで「saku saku」に出られることになったんですけど、出てみたら全然音楽番組じゃないんです。

菊谷D:おかしいぞ、と(笑)。

木村:「マジで?」ってなりました。

菊谷D:たしかに“音楽情報バラエティー”とは言っていたよね。

木村:「あれ、これは?」とはなったんですけど、「saku saku」に出ている時間がすっごく楽しくて、自分のままでいられる感じもあって。結果的にはたくさんの人が見てくれたから良かったです。菊谷さんががむしゃらに頑張ったからね。

菊谷D:いやいや木村さんが頑張った。

木村:私はただ座っていただけだから。

菊谷D:俺だってしゃべっていただけだよ(笑)。

木村:(笑)。たくさんの方が見てくれて、結果的にデビューにつながっていった部分もあるので、そういった意味では「出会いって大事なんだな」とすごく思います。私の歌手としてのスタートはここからなので、すごく大事な場所です。

木村カエラの歌手デビューも「saku saku」から

――デビューシングルも「saku saku」の企画で制作されたんですよね。

菊谷D:あれは企画というよりも、カエラちゃんが歌を歌いたいからプロデューサーとかを「ふざけんじゃねぇ、音楽情報バラエティーやないんかい」って締めあげたんですよね、おそらく。

木村:そう、呼び出してね。それでこういうことになったんです (笑)。

――今回はtvkの開局50周年記念特番ということですが、開局50周年ソングも木村さんが歌う「Color Me feat.マヒトゥ・ザ・ピーポー」が起用されています。

菊谷D:最初に「saku saku」をやっていた頃は、カエラちゃんは友達というか、本当に“そこら辺の人”みたいな感じだったんですよ。「こんな番組、誰が見ているんだ」くらいの感じでやっていたのが、今では俺が普通に「うぇい」って話し掛けていると「なんで木村カエラとあんな普通にしゃべれるんですか! すげえ!」と言われる。自分としては「そんなにカリスマでもないだろう」というくらいの感覚なんですけど、そんなに急激に登っていった人を見たのはカエラちゃんがたぶん初めてだったし、そういう姿を間近で見られたのは一生忘れられないような出来事ですね。だから、今回50周年の歌をカエラちゃんが快諾してくれたのは、本当に奇跡的な話だと思うんです。いまだに、当時出会って、今こうしていることが信じられない。

木村:「開局50周年ソングをお願いしたい」とtvkからお話があった時に、私含め、周りの人たち全員が「やるやる!」という状態でした。やらないという選択肢はなくて、「じゃあ、どんな曲がいいかな」とすぐに考え始めていました。想像を膨らませている中で、今回の「saku saku」の話もあって、どんどんつながっていく感じと、「戻っているんだけど戻っていない」というような感覚がすごく居心地いいなと思っていて。自分が大切にしてきた場所に、こうして時がたってもまたみんなで集まれる、ということが何よりも幸せなことだと思います。

菊谷D:当時も「これ笑ったなー」みたいなことはいっぱいあったんですけど、改めて今日やってみて思うのは「今回の収録が一番良かった」ということですね。本当に最高の出来だと思いました。俺がどうというより、おこがましいようだけどカエラちゃんの成長と言うか。足立区のチンピラだった子が、いろんなことを吸収してナチュラルに話している姿を見て、ちょっと感動しました。冗談で「さらに16年後にまたやれたらいいな」と言っていたんですけど、本当に楽しみ。それまでに糖尿病にならないように気をつけないと。

木村:本当だね。

木村カエラ、MCなのに「番組で一言もしゃべらなかったことも」

――木村さんは菊谷さんに対してどういう印象を持っていたんですか?

木村:チンピラですよ。ワンカップとか持って、パチンコ屋とかにいる感じ。でも、おしゃべりの天才だと思います。天才って寡黙な人が多いイメージがあるんですけど、めちゃくちゃしゃべる。

菊谷D:そんなことないですよ。普段はめちゃくちゃ寡黙。今は追い込まれて、こういうことになっているけど。

木村:それが面白いですよね。当時もそうですけど、次から次へと言葉がバーっと出てくる。それで、みんなのことをすごくよく見ているんです。目がいっぱいあるのかなと思ったりもします。

――「saku saku」は木村さんのルーツとも言える番組かと思いますが、この番組から受けた影響はやはり大きいですか。

木村:かなりあると思います。そんなに器用な人間ではないので、昔は番組で一言もしゃべらなかったこともあるんですけど、それって普通だったら良しとはされないじゃないですか。

――MCなのに一言もしゃべらなかったんですか?

菊谷D:たぶん皆さん信じてないと思うんですけど、本当にあったんですよ。

木村:ただ座っているだけ。

菊谷D:伝説ですよね。

木村:後になれば「なにをやっているんだ」ともちろん思いますけど、全部受け入れてくれたことがすごく居心地いいんです。実家にいる感じというか、ずっとこたつの中にいてみかんを食べていていい、みたいな。「ありのままの私」というような表現の仕方はそこで開花したんじゃないかなと思います。

木村カエラのブレイクで菊谷D「ちゃんとしたことをやらなきゃ」

――「saku saku」の影響で、その後も自然体なスタイルが確立されていった、と。

木村:それはやっぱりあると思います。

菊谷D:台本とかは全く作らずにアドリブでやっていたので、当時カエラちゃんが何もしゃべらなかったのは、おそらくカエラちゃんなりの「しゃべることが分かんねぇ」っていう生き様だったんだと思います。アドリブというのは、一番その人の生き様が出るのでたまらないんですよね。

――ほとんどテレビに出始めたばかりで、ほとんどアドリブの番組って難しくないんですか?

菊谷D:難しいのかも分からないですけど、そういう恐れすら当時は全く意識していなかったので、いい意味で突っ走っていたんですよね。

――反響の大きさはどう感じていたんでしょうか?

菊谷D:見てくれている人がメールとかをくれて、それを見て初めて「こういうふうに思ってくれる人がいるんだ」というのは分かるんですけど、やっぱり当時はよく分かっていなかったですね。カエラちゃんがブレイクしたことで戸惑った、というのはありました。あまりにも注目されるとちょっと怖いというか、「ちゃんとしたことをやんなきゃいけないじゃないか」と、俺だけじゃなくてテレビ局としてみんな思うじゃないですか。

――木村さんも、声を掛けられることが増えていったんじゃないですか?

木村:デビューする前もした後も、いつも東横線に乗って行き帰りしていたので、よくサクサカー(「saku saku」視聴者)の人たちとお話しながら帰っていました。座席に座って、前の席の人と。

――そんなことあるんですか?

木村:それはそれで楽しかったですね。東横線に乗っていて「カエラちゃんでしょ、あなた」って話し掛けられたんですけど、話していたら「私も見ています」というふうに人が増えていくんです。毎回じゃないけど電車も長くて暇なので「いい時間だな」と思いながら話していました。

木村カエラ「あの時の楽しい時間に戻された感じ。楽しく収録」

――最後に改めて、今回の特番の見どころをお二人の視点からそれぞれ聞かせてください。

菊谷D:やっぱりカエラちゃんの成長ぶりというか、器がでかくなったというか、引き出しがむちゃくちゃ増えたところですかね。ワンピースでいうと“四皇。ビッグマム”みたいな感じ。

木村:ビッグマムやだ(笑)。

菊谷D:じゃあ、カイドウかな。とてもじゃないけど、当時の俺なんかじゃ全然太刀打ちできねぇ、というくらいのすごい成長を感じています。俺もとりあえずレイリーのところに行って修行し直して、ギア4くらい身につけてこないと倒せねぇぞと思って、逆にそれがすごく楽しかったです。番組をずっとやっていると、良い意味でも悪い意味でも安定するじゃないですか。だから、久々にすごく刺激を受けて「くそ、カイドウぶっ飛ばす!」みたいな気持ちになっています。

木村:もうジャンルが変わっちゃった(笑)。私は、自分の成長とかは全く感じていなくて、むしろあの時の楽しい時間に戻された感じ。あの頃に戻ったような感覚で楽しく収録ができました。屋根の上に16年ぶりに座って、見た人もきっと「あの時の『saku saku』だ」という感じがするんじゃないかな。

菊谷D:「当時の『saku saku』を見たい」という気持ちはすごくあると思うんです。それで俺もできるだけ、画面のサイズを4対3にしたりして忠実に再現しようと思ったんですけど、やっぱりみんな16年間生活をしているわけだから、新しいことも見せていかなきゃいけないと思って、新しい歌を作ったりもしました。それよりもやっぱり木村さんの成長。パンチが重たくなった。俺も鍛え直して、もう一回けんかし直してぇなという気持ちがあります。

木村:しましょう、けんか(笑)。

◆取材・文=山田健史

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