「ビルボード・ミュージック・アワード2019」でトップ・デュオ/グループ賞を受賞したBTS/photo by Getty Images

BTS(防弾少年団)がワールドスターになった理由 ARMYが語る<6周年記念ファンインタビュー前編>

2019.06.13 07:00

6月13日はBTS(防弾少年団)のデビュー記念日。2019年で6周年を迎えるが、彼らはなぜ、この6年間で世界に名を轟かせる大スターになれたのか。彼らを最も深く支え続けるファン達=ARMYに尋ねた。<ファンインタビュー前編>

この1年間にも、米ビルボードチャートの制覇、国連本部でのスピーチ、グラミー賞授賞式出演、音楽の聖地でもある英ウェンブリー・スタジアムでの公演など、数々の快挙を成し遂げ続けたBTS。最近一部では「21世紀のザ・ビートルズ」とまで言われるようになった。彼らの前代未聞の記録を共に作り上げてきたのが、強力で献身的で、愛に溢れるファンたち、ARMYだ。BTSは何度「これは僕らでなくARMYが貰った賞」という言葉を数々の授賞式で繰り返しただろう。砂漠をさまようときも、海を悠々と渡っていくときも、ARMYはいつもBTSの原動力となってきた。

BTS(提供写真)
BTS(提供写真)
今回話を聞いたのは、漫画「新大久保で会いましょう」(講談社『BE・LOVE』連載中)や「僕のランチを邪魔するな!」(スクウェア・エニックス)の著者・香穂さん、ダンスカバーグループ“防面少年団”に所属し、「DREAM ON!」などカバーダンスフェスにも出演するぽぽさん(20代)、デビュー当初から姉妹で彼らを応援してきたみずさん(20代)とモグァさん(20代)、母親も揃ってARMYだという姉妹のマミさん(20代)とエミさん(20代)、現在エンタメ業界で働く会社員のハルさん(20代)、シンガポールの某ホテルでカジノホストを務めているNORIKOさん(30代)、新大久保のアイドルショップに勤める韓国出身のジャヨンさん(30代)、同じく韓国出身で現在日本の貿易会社で働くボンスンさん(20代)の10人。

彼女たちの話から、なぜBTSがこれほどまでに成功を収めたのかを紐解いてみたい。

圧倒的なパフォーマンスが彼らに興味を持つきっかけに

世界中のメディアでBTSが紹介される際、やはり1番に取り上げられるのはパフォーマンスのレベルの高さではないだろうか。一糸乱れぬダンス、一瞬で見る人を魅了してしまうステージアティテュードが注目される中、実際にARMYになった人々の多くも、それがBTSに“興味を持つきっかけ”になったと話す。

香穂さんは「数年前、偶然引っ越してきたのが新大久保でした。最初はコリアンタウンだということも知らず、ただ道を歩いていたら色々な店でBTSの映像が流れていて、『こんなにかっこいい人たちがこの世の中にいるんだ』と思ったのが好きになったきっかけです」と回顧。

またNORIKOさんは「友人に勧められ『DOPE』のパフォーマンス動画を見たのですが、踊っているジョングクくんに一目惚れしました」と明かし、ハルさんは「『FIRE』のダンスを見たとき、こんな風にダンスで魅せるアイドルグループがいたのかと鳥肌が立ちました」と振り返る。

マミさんとエミさんは、2017年12月に出演したテレビ朝日系「ミュージックステーション スーパーライブ」での『DNA』のパフォーマンスを見て彼らに興味を持ったそうだ。

「ビルボード・ミュージック・アワード2018」で披露された“ジョングクの腹筋”/photo by Getty Images
「ビルボード・ミュージック・アワード2018」で披露された“ジョングクの腹筋”/photo by Getty Images
彼らのパフォーマンスは、世界中の人々の視線をくぎ付けにする力がある。昨年5月のビルボード・ミュージック・アワード(以下:BBMAs)で『FAKE LOVE』を初披露した際に、ジョングクが腹筋を露出する振り付けがあったことで“ジョングクの腹筋”が同授賞式の「最高の瞬間」に選出されたほどだ。

しかし、ダンスに定評のあるK-POPグループは他にも大勢いるのも事実。と言うよりも、K-POPアイドルにとってダンスの水準が高いことは基本的な要素だ。パフォーマンスで興味を持った人々を強固なファンにするには、他にも多様な理由があるはずだ。

人々を魅了する音楽への情熱

「ビルボード・ミュージック・アワード2019」に出席したBTS/photo by Getty Images
「ビルボード・ミュージック・アワード2019」に出席したBTS/photo by Getty Images
楽曲についてはどうだろうか。米ビルボードのメインアルバムチャート「Billboard 200」で3作連続1位を記録し、トップ30までに入るだけでも選ばれし者と言われるメインシングルチャート「Billboard Hot 100」で最高8位を記録しているBTS

ハルさんは「やはり彼らの楽曲がK-POPの枠だけでなく、世界のメインストリームの土俵でも違和感なく聞けることも大きかったと思います」と語る。彼らの知名度を一般層に広めるきっかけにもなった『Blood Sweat & Tears』(2016年10月)について、ハルさんは「当時欧米で流行っていたムーンバートントラップをK-POPにいち早く取り入れ、キャッチーながらどこか怪しげで叙情的な雰囲気で勝負を仕掛けた彼らに脱帽しました」と話す。

またNORIKOさんは、彼らの人気が爆発的に高まった2017年を振り返り「『DNA』(2017年9月)あたりからでしょうか。より欧米、世界を意識したサウンドになったな、と感じました」と回想。確かに最近では「Billboard Hot 100」で1位を獲得した歌姫・ホールジーとのコラボなど、より欧米へのアプローチの積極性も感じる。しかしこれは彼らが世界をフィールドにするようになったこと、彼らが歌を届けるべきARMYの存在が全世界的になったことを考えれば自然なことだろう。

「第61回グラミー賞授賞式」でプレゼンターを努めたBTS/photo by Getty Images
「第61回グラミー賞授賞式」でプレゼンターを努めたBTS/photo by Getty Images
ハルさんは続ける。「チャートではこれほどまでの快挙を打ち立てた彼らですが、リーダーのRMは『数字を気にせず自分たちのやりたい音楽をやるだけ』という言葉も残している。楽曲に関しては彼らの音楽への情熱を信じ、新作を楽しみに待つだけです」

BTSのメンバーは、デビュー以前からトラック制作を行っていたRMやSUGAだけでなく、メンバー全員が楽曲制作ができるほどとなっている。それぞれが自作のソロ曲を発表したり、ラッパー陣に関してはトラックリストを配信したり、他の歌手に楽曲を提供するなど音楽への熱意はいくらビッグになっても変わらないことを感じさせる。

デビュー曲『NO MORE DREAM』から彼らを見てきたモグァさんも「彼らが成功したのは、彼ら自身が音楽を愛しているから」と話す。楽曲の素晴らしさも然ることながら、音楽に向き合う彼らの姿勢が多くの人々を惹きつけるのではないだろうか。

運も味方に

一方でボンスンさんは「タイミングや、運がよかったこともあると思う」と冷静に分析する。BTSがアメリカで知名度を上げるきっかけとなったBBMAsやアメリカン・ミュージック・アワード(AMAs)に出演した2017年は、彼らと同年代で世界を熱狂させていたワン・ダイレクションの活動休止から1年が経ち、若者たちの大スター、ジャスティン・ビーバーもワールドツアーを突然休止しステージを後に。そんな中で若者のニューアイコンとしてBTSに世界が目を付けたという見方もある。

またボンスンさんは、K-POPにおける“投票文化”の力も大きいだろうと言う。「韓国では自分の好きなアイドルを応援するために、ネット上などでファンが一丸となって投票する文化が根付いています。それでネット上での影響力が世界的にも顕著だと注目され、BBMAsの『トップ・ソーシャル・アーティスト』にもノミネートされた。ソーシャルでの人気が問われる賞ですから、そこでもやはりファン達は必死に投票を行いました。他のノミニーたちに大差を付けて受賞することができて、それが欧米での認知にもつながったのだと思います」

「第61回グラミー賞授賞式」に出席したBTS/photo by Getty Images
「第61回グラミー賞授賞式」に出席したBTS/photo by Getty Images
またみずさんは「事務所のマネジメント能力も大きいのではないかな。周りにすごく支えられてここまで来たと思います」と、長年K-POPに注目してきた経験ももとに振り返る。「ファンを巻き込んでのオンライン企画も多いし、MVの世界が壮大な物語となっていて、小説や漫画と連動しているのもすごい。そしてSNSやYouTubeの使い方が上手だと思います」と続けた。

BTSを語る上で、SNSでの成功は度々取りざたされる。確かにテレビを中心に活動してきたこれまでのアイドルとは違い、BTSは新興の事務所出身ということもありTwitter、YouTubeを用いて自分たちのコンテンツを自主的に配信するという形を取ってきた。

SNSは1つのツール 本質は彼らの“人となり”か

「MAMA FANS’CHOICE in JAPAN」に参加したBTS(C)モデルプレス
「MAMA FANS’CHOICE in JAPAN」に参加したBTS(C)モデルプレス
デビュー当時から彼らの活動の裏側、本音をYouTubeで無料で配信してきた「BANGTAN BOMB」や「LOG」によって、彼らの魅力に惹き込まれた人々は多いだろう。ARMYたちは、そこで見たBTSの“人となり”の素晴らしさを強調する。

「普通アイドルというと“裏”はある程度謎に包まれている印象です。だからこそ活動の裏側まで、惜しげもなく見せてくれる彼らには感動します。未熟な部分や、辛い思いをしている場面、とても人間的な部分まで隠さずファンに見せてくれて、大スターとして輝いている彼らも、舞台を降りれば私たちと同じように世代なりの悩みを抱えているんだと実感する。住む世界が違う人たちですが、一緒に時代を歩んでいる感覚でいられるところが世界の人々を惹きつける理由なのではないかと思います」と香穂さん。

SNSやYouTube動画も大きな要素だが、結局、それらのコンテンツを通して垣間見える彼らの“人としての魅力”が大きな求心力となっているようだ。

BTSはなぜここまで成功したと思う?」と聞くと、モグァさんは「メンバー同士の相性が良いのが1番大きいと思います。それが曲にも、目指している方向性にも表れている気がする」とメンバーの仲の良さを挙げ、エミさんは「彼らが常に謙虚で、人気を当たり前に思わないことや、名声の為ではなく、自分たちが何の為に活動しているのかを常に見失わないようにしている姿勢が伝わるからだと思います」とその謙虚な人間性を挙げた。

ハルさんは「正直理由を上げたらきりが無いと思います」としつつ「“カッコいい”、“パフォーマンスが素晴らしい”だけではなく、全ての人々の心を揺さぶる人間力がある人たちです。そういう人たちが7人も、同じ時期に同じグループとして集まったことが奇跡を起こしたんじゃないかな」と思いを馳せる。

彼らの歴史がARMYに夢を与える

「ビルボード・ミュージック・アワード2018」に出席したBTS/photo by Getty Images
「ビルボード・ミュージック・アワード2018」に出席したBTS/photo by Getty Images
そしてジャヨンさんは、彼らが成功した理由について、BTS自体が“青春ストーリー”だからと話す。「彼らを見ていると、まさに青春ドラマみたいだと思わされます。大きい会社出身ではなく、みんな地方出身で、全員が最初からダンスが上手かったわけでもなかった。それでも今は、パフォーマンスや楽曲でこれだけ注目される存在になり、世界一にもなってしまった。この彼らのストーリー、歴史に、世界のARMYは惹きつけられるのだと思います」

BTSが順風満帆にここまで上り詰めたわけではないことは有名な話だろう。名もないところからスタートし、“10代20代に向けられる抑圧と偏見から自分たちの音楽を守り抜く”というある意味強すぎるグループテーマが大衆にすぐに受けられたわけではなかった。一方で「アイドルなのだからヒップホップグループを名乗るな」と界隈のラッパーからバッシングにあったり、アンチに苦しめられたこともある。ようやく歌番組で1位を取れたのは2015年の「I NEED U」。デビューからは約2年が経っており、トップアイドルとしては遅咲きとも言える。多くの逆境を切り抜け、まさに砂漠を海にした彼らのストーリーがARMYたちの希望となっているのだ。

欧米のARMYたちがインタビューに答えている様子を見ても、ある人は「BTSは人生の先生だ」と言い、ある人は「彼らが人生を変えてくれた」と話す。それだけ彼らの<夢、希望、前進>(『EPILOGUE:Young Forever』の歌詞)のストーリーは、この世界で苦悩と共にありながらも前に進んでいく若者たちを惹きつけるのだろう。

「アメリカン・ミュージック・アワード2017」に出席したBTS/photo by Getty Images
「アメリカン・ミュージック・アワード2017」に出席したBTS/photo by Getty Images
マミさんはこう語る「『EPILOGUE:Young Forever』を聴いたとき、自分と同世代の彼らが、もがきながらも夢に向かって前に進み続けるこの歌がとても心に染みてARMYになりました。当時自分は夢という夢もないまま社会人になり、時間に流されるように生きていたんです。でもARMYになって、気付いたら自分も『私の夢はなんだろう』と考えたり、自分自身に耳を傾ける時間を設けるようになっていました。流れに身を任せることが楽だと思い、そうしてきた自分が、『自分がしたいことは何か、自分は誰といたら自分らしくなれるのか、何をしていたら自分らしくいれるのか、そもそも自分らしさとはどういうことなのだろう』と深く考えるようになったんです」

香穂さんは、BTSの存在が希望と夢に繋がった。「BTSを好きになった当時、かなり精神的に落ち込んでいて『彼らの新曲が出るまでは生きてないと』と思ったこともありました。でもそれからはカバーダンスを習い始めたり、韓国語を勉強するようにもなって、人生の楽しみが増えました。BTSを好きになって、希望ができたんです。そして仕事がうまくいかなかった時、たまたま彼らの握手会に行くことができたのですが、自分の漫画を持って、メンバーに『これを描いてる者です』と伝えたら、『漫画家さん!?応援してます!!』と反応してくれたんです。それにすごく感動して、ブースを出て泣きながら、『頑張らないと』と思いました。今でもそれを思い出して『いつか彼らに漫画を読んでもらえるよう頑張ろう』と自分を奮い立たせています」

“防面少年団”のメンバーとしてJBJ95のケンタ、公園少女のミヤらを輩出したK-POPカバーダンスフェス『DREAM ON!』や、5月に行われた世界最大級のK-カルチャーフェス『KCON JAPAN』のカバーダンスステージにも出演したぽぽさんは「彼らが心の支えです」と話す。カバーダンスチームに所属する彼女にとって、BTSは生活の中心だ。「彼らの曲を聞くだけで元気付けられますし、彼らのダンスを踊ることでストレス発散にもなり、自然とダンスの実力も上がりました。彼らの活動を見守ることが生き甲斐になっています」

ハルさんは2016年8月にラッパーのSUGAが出したミックステープ(オンライン配信の作品集)『Agust D』に人生を変えられたと話す。「私は学生時代に心のバランスを崩して親にカウンセリングに連れて行かれたことがありました。『Agust D』の中の『The Last』という曲に、対人恐怖症やうつ病で親と精神科に行った話が出てくるんです。苦悩した彼が『たった2人の前で公演してたカスも、東京ドームが目の前だ』と歌うこの曲が、私にとってかけがえのない曲になりました。本当に東京ドームに立ってしまった彼らにずっとついて行きたいと思います」

「ビルボード・ミュージック・アワード2018」でトップ・ソーシャル・アーティスト賞を受賞したBTS/photo by Getty Images
「ビルボード・ミュージック・アワード2018」でトップ・ソーシャル・アーティスト賞を受賞したBTS/photo by Getty Images
ここまで話を聞いて、BTSとARMYの関係の強固さを考えずにはいられない。BTS はARMYの人生に希望を与え、生きがいとなり、救いとなってきたのだ。

そして最新アルバム『MAP OF THE SOUL : PERSONA』収録の『HOME』という楽曲でBTSは「君さえいれば全てが僕の家になる」と歌う。世界中のどこでもARMYはBTSにとって“家”であり続ける。

お互いがお互いの希望であり、心落ち着ける家である。そんな信頼関係が作ったこの歴史ではないだろうか。


――――――後編では、これだけ大きな存在になったBTSをARMYはどう感じているのか、「ARMY交流はすでに国際交流の領域」と語るARMYたちが繋げる世界について考える。(modelpress編集部)
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