広尾のフレンチ『Ode(オード)』は絶対に行くべき! 生井祐介シェフのイノベーティブフレンチ

あのアニメを連想させる球体の正体は? 期待をはるかに超越する「イノベーティブフレンチ」が広尾に誕生

2018.01.17 11:03

感性が研ぎ澄まされる無彩色の“シェフズキッチン”へようこそ

東京メトロ日比谷線・広尾駅から優雅な広尾散歩通りを進むことおよそ7分。都内屈指のおしゃれ商店街の一角に、フレンチレストラン『ode(オード)』は店を構える。

オーナーシェフを務めるのは、八丁堀にあるフレンチの名店『シック プッテートル』(現在は『ステッソ・エ・ マガーリ・シック』)で腕を振るっていた生井祐介さん。名だたる料理人からの評価も高い生井シェフの料理に、オープン当初からグルマンたちのざわつきが絶えない。

扉を開くと、見事なまでに美しいグレーの世界が広がっている。ステージとなる調理台を取り囲むように作られた13席のコの字カウンターに、2つの個室、スタッフのコスチュームも全てグレー。濃淡のきいた無彩色の異質な空間には、生井シェフの“大好き”が詰まっている。

ミニマルな設えは、一体どう彩られていくのだろうか。期待と少しの緊張のなか、ステージの緞帳があがっていく。

アミューズは世界的に愛されるアニメから飛び出したあの“星球”


グレーのキャンバスを最初に彩るのは、金の宝珠に見立てられた小さな器(写真上)。黄金のフタを開けると……

どこか見覚えのある球体が鎮座する(写真上)。世界的人気アニメ漫画に出てくる、あの”球体”をイメージした印象的なフィンガースナックの登場に、さっきまでの緊張は霧散して、胸が高鳴る。

カカオバターでコーティングされた球体は、「ジュ・ド・オマール」を作る要領でオマール海老の甲羅の色素と香りをバターにうつし、鮮やかな橙を生む。中にはオマール海老のだしに生クリームを合わせたムースが。古典フレンチの技法で作られた球体は、前店の頃よりユニークに姿を変え、まるでアニメーションの世界から飛び出してきたかのよう。

「ひと口でどうぞ」と生井シェフ。口元に近づけると、まず感じるのはエビの香り。幻じゃないことを再認識し、舌の上にそっと置く。

ペアリングに供されるのは、ブラッドオレンジ味の「コアントロー」(写真上)。口に含むと、柑橘の妖艶な香りに包まれた途端、パキッという微音とともに球体が溶けてオマールのうまみが可憐に舞う。溢れだした濃厚なムースが華やかな柑橘香とマリアージュすると、一瞬にして儚く消える。微かな残香に浸りながら、7つ集まったら何を願おうかと、想像が掻き立てられる。

骨の髄まで余すことなく食される『ode』のシグネチャー


カウンターから、皿、料理と全てが同化した季節の前菜「サンマ ブータンノワール 尾崎牛」(写真上)は、グレーが好きすぎるゆえに生まれた『ode』のシグネチャーメニュー。

詳細は食べてからのお楽しみだが、サンマの頭と骨、アンチョビで作られたメレンゲが、低温でコンフィしたサンマのフィレを秘めるように覆い隠す(写真上)。噛むと極薄でグレーの破片はサクッと響き、サンマの風味が弾けてなくなる。

刺激的な食感の奥に忍んでいるのは、2つのうまみ。豚の血と脂、キャラメリゼしたタマネギに、サンマのワタを加えて炒めたブータンノワールのほろ苦いクリームが官能をくすぐり、軽く炙られた尾崎牛のタルタルがフィレにねっとりと絡んで、うまみを深く協調させる。

大きな葉で覆われた「ケール 牡蠣 豚の耳」(写真上)もまた、好奇心をくすぐる仕掛けが詰まっている。宝石のように煌めく深緑色が美しいケールは、乾燥させてサッと揚げたもの。下にはパリパリの食感と相反するように、トロトロになるまで煮込まれた豚の耳が、皿の主役となる牡蠣をまとう。シェリービネガーの酸やハーブの香り漂う豚と、ぷっくりと甘みだけが情調された牡蠣。仲を取り持つのは、軽く泡状に仕立てられたカリフラワーのムースだ。

「実は、ケールの下にクルトンを忍ばせているんですよ。口の中にリズムができて、楽しくないですか?」と、生井シェフは問う。“食感フェチ”のシェフが作る料理はどれも、咀嚼のたびにアクセントが入って、一度きりのセッションが奏でられる。

アマゾンカカオの個性溢れる、究極のデザート


『ode』のデザートは奥が深い。三軒茶屋にあるイタリアンレストラン『NATIVO(ナティーボ)』のシェフ・太田哲雄さんから仕入れた“アマゾンカカオ”の「フォンダンショコラ」(写真上)は、ローストの具合やカカオそのものの個体差によって風味が変わる。

この日のカカオは、酸が特に強いそう。その個性を活かすため、カカオにスモークをかけてみる。燻製香と酸の組み合わせは、唯一無二の深みを生み出す。同じく太田さんからいただいたという、カカオの親戚“マッカンボ”でプラリネのパウダーを作り、苦味と香ばしさを足していく。

ショコラに添えられたバニラアイスは、鼻腔に近づけると甘みの奥からスモーキーな薫香を放つ。訊くと、アイスを作る途中、藁で香り付けされていた。温かいフォンダンショコラと一緒に食べると、初めに藁の薫香を感じて、後半の余韻で酸が現れる。完ぺきな温度差の妙によって、不思議と素材すべての香りがたつ。

卓上のブルースは、一期一会の心地よいセッション


生井シェフが料理人を目指したのは、25歳の頃。アートや音楽を愛する青年のそれまでの夢は“ミュージシャン”だったと言う。きっかけとなったのは中学3年生のときに観たローリング・ストーンズのライブ。彼らのルーツを探ろうと、たどり着いた原点は“ブルース”だった。

「気の合う仲間が集まって奏でる気軽さや、その臨場感が好き」。そう話す生井シェフのブルース愛は、お皿の上からも感じられる。咀嚼のたびに変わるリズムや、相性のよい食材が集まって奏でるうまみ。卓上のセッションも一期一会なのだろう。そこにある緻密な計算を意識させないナチュラルな味わいだから、なんだかホッとさせられる。そのワケは、グレーがもたらす鎮静効果と、心地よく体幹を流れゆく“食感のハーモニー”にあるのかもしれない。

(撮影/佐々木雅久)

【メニュー】
ランチ 6,000円
ディナー 13,000円
※価格は税込み
※サービス料10%別
※ランチ時にディナーメニューを予約することも可能

Ode オード

東京都渋谷区広尾5-1-32 ST広尾2F
050-3373-6553(お問合わせの際はぐるなびを見たというとスムーズです。)
月~土
ランチ 12:00~15:00
(L.O.13:00)
ディナー 18:30~23:00
(L.O.20:00)
日曜日
http://r.gnavi.co.jp/p1det9hf0000/

この記事の筆者:植木祐梨子(ライター)

関連リンク

関連記事

  1. お餅で作れる「揚げないドーナツ」が簡単モッチモチ!余った切り餅が生まれ変わる「餅スイーツ」レシピ3選
    お餅で作れる「揚げないドーナツ」が簡単モッチモチ!余った切り餅が生まれ変わる「餅スイーツ」レシピ3選
    dressing(ドレッシング)
  2. 正月は特別料理も食べられる?初詣スポット「鎌倉」で愛され続ける、人気「和食店」まとめ
    正月は特別料理も食べられる?初詣スポット「鎌倉」で愛され続ける、人気「和食店」まとめ
    dressing(ドレッシング)
  3. 【お菓子作り初心者でもOK】ケーキ型を使わずに作れる「プレゼント型クリスマスケーキ」の簡単レシピ
    【お菓子作り初心者でもOK】ケーキ型を使わずに作れる「プレゼント型クリスマスケーキ」の簡単レシピ
    dressing(ドレッシング)
  4. メキシコ発祥の元祖「シーザーサラダ」が世界レベルのうまさ!週2日ランチだけ営業の『シーザーズカフェ』
    メキシコ発祥の元祖「シーザーサラダ」が世界レベルのうまさ!週2日ランチだけ営業の『シーザーズカフェ』
    dressing(ドレッシング)
  5. さといもで作る「ニョッキ」がモチモチねっとりで超おいしい! 基本の作り方と簡単アレンジレシピ
    さといもで作る「ニョッキ」がモチモチねっとりで超おいしい! 基本の作り方と簡単アレンジレシピ
    dressing(ドレッシング)
  6. 今までの水炊きはなんだったのか…! 鶏肉のうまみを最大限に味わう、究極の「博多風水炊き」の作り方
    今までの水炊きはなんだったのか…! 鶏肉のうまみを最大限に味わう、究極の「博多風水炊き」の作り方
    dressing(ドレッシング)

「グルメ」カテゴリーの最新記事

  1. 【関西・四国限定】売り切れ御免!モスバーガーが今年も期間限定で「淡路島産たまねぎバーガー」を発売
    【関西・四国限定】売り切れ御免!モスバーガーが今年も期間限定で「淡路島産たまねぎバーガー」を発売
    anna
  2. 野菜が食べたいときはコレ 体も喜ぶ「鬼ウマ野菜レシピ」3連発
    野菜が食べたいときはコレ 体も喜ぶ「鬼ウマ野菜レシピ」3連発
    fumumu
  3. これは絶対に試してもらいたい… 新商品『堅あげポテト 香ばしほたてバター味』が酒のツマミにピッタリ
    これは絶対に試してもらいたい… 新商品『堅あげポテト 香ばしほたてバター味』が酒のツマミにピッタリ
    Sirabee
  4. 【手土産にも】2024年トレンドの予感!進化系スイーツ「クッキーフラン」
    【手土産にも】2024年トレンドの予感!進化系スイーツ「クッキーフラン」
    Sheage(シェアージュ)
  5. モスバーガー、一部ドリンク値上げへ オレンジジュースはプラス40円
    モスバーガー、一部ドリンク値上げへ オレンジジュースはプラス40円
    モデルプレス
  6. 【サーティワン新作メニュー】「ボーノ!クアトロフォルマッジ」4種チーズを使用した本格的な味わい
    【サーティワン新作メニュー】「ボーノ!クアトロフォルマッジ」4種チーズを使用した本格的な味わい
    モデルプレス
  7. 復活した「東京チカラめし」は何か変だ… 約150人の客席、ガリなし、そして値段に変化も
    復活した「東京チカラめし」は何か変だ… 約150人の客席、ガリなし、そして値段に変化も
    Sirabee
  8. 紅茶風味と喫茶店で飲むミルクセーキのようなホッとする味わい!「リプトン エモミルクティ~ミルクセーキ味」40周年記念の味わい
    紅茶風味と喫茶店で飲むミルクセーキのようなホッとする味わい!「リプトン エモミルクティ~ミルクセーキ味」40周年記念の味わい
    Emo! miu
  9. 旬のとっておきレシピ!新玉ねぎのチーズソテーの作り方
    旬のとっておきレシピ!新玉ねぎのチーズソテーの作り方
    michill (ミチル)

あなたにおすすめの記事