幸せは強く願うほど遠ざかる? 引き寄せの法則と真逆の「幸福のパラドックス」とは【脳科学者が解説】
【脳科学者が解説】「もっと幸せになりたい」と強く願うほど、かえって不幸を感じやすくなる……。心理学で「幸福のパラドックス」と呼ばれる現象です。日本人の幸福度ランキングは世界55位。幸福感を高めるヒントをご紹介します。(※画像:Shutterstock.com)
「願えばかなう」と言われますが、これは脳科学的にも一定の裏付けがあると考えられています。人生には、部活や進学する学校、就職先、結婚など、多くの「選択」を迫られる岐路があります。そうした場面で満足のいく選択をするためには、そもそも自分がどうしたいのかという、自分なりの軸や考えを持っていることが大切です。
いわゆる「引き寄せの法則」のように、明確な希望やイメージを持っていれば、自ずと「進むべき方向」に導かれていくものかもしれません。明確な夢や目標を持つ人ほど、その後の行動が望む方向に進みやすいというのは、脳科学的にも事実です。
しかし、夢や目標に対する思いが強過ぎると、逆効果になることもあります。特に「もっと幸せになりたい!」と漠然とした幸福を強く願うことは、かえって不幸を招くことがあると考えられています。心理学の領域で、「Happiness Paradox(幸福のパラドックス)」と呼ばれるものです。分かりやすく解説します。
幸福を強く願うほど、疲弊して不幸に? 「幸福のパラドックス」とは
2025年に学術誌「Applied Psychology: Health and Well-Being」に発表された論文では、「幸福」をテーマにした4つの実験結果が紹介されています。そのうちの1つが、188人の参加者に「アイスラテと緑茶」のような関連する25組の言葉を提示し、どちらか一方を選んでもらうという実験です。
参加者は2つのグループに分けられ、一方は「自分が幸福になれる方を選ぶ」、もう一方は「自分の好きな方を選ぶ」よう指示されました。
課題終了後、別のパズルに時間無制限で取り組んでもらったところ、「幸福を基準に選んだグループ」の方が、パズルに粘り強く取り組む時間が短いという結果になりました。
時間制限がないため、本来はやる気や興味があれば続けられる課題です。しかし幸福を重視したグループは、途中でやめてしまう傾向が高かったのです。「もっと幸せになりたい」と考えることで精神が消耗してしまい、さまざまな課題に取り組む力も低下する可能性があると報告されています。
「幸福」は追い求めると際限がありません。小さな幸せでは満足できず、求め続ければ雪だるま式に膨らんでいきます。その結果、「もっと幸せになりたい」と願い、努力することで心が消耗してしまい、かえって不幸を感じやすくなってしまうことがあるのです。
幸福度ランキング1位のフィンランドに学ぶ、「足るを知る」幸せの感じ方
毎年「世界幸福度ランキング」という調査が発表されているのをご存じでしょうか。2025年の1位はフィンランドで、8年連続のトップです。一方、日本は55位でした。
しかし考えてみると、フィンランドは日本より寒く、日照時間も短く、決して過ごしやすい環境とは言えません。経済的にも必ずしも豊かではなく、生活は厳しい側面もあるようです。それにもかかわらず、フィンランドの人々は、高い幸福感を得ているのです。
その理由の1つとして、環境や経済的に厳しくとも、日々の暮らしの中にある「ささやかな恵み」を大切に感じている点が挙げられるでしょう。長く続く、寒くて暗い季節にも、温かなスープに幸せを感じること。短い夏には、太陽の温かさや生命の息吹を感じること――そうした小さなことの積み重ねが、結果として大きな幸福感につながっているのかもしれません。
幸せは「追うもの」ではなく「気付くもの」……今あるものに目を向けて
「もっと幸せになりたい」「ほしいものを全部手に入れたい」――幸せを願うあまりに、ある意味では欲張りな考えにとらわれ、持っていない現状を悲観しては本末転倒です。ありのままの自分がすでに持っているものに目を向け、幸せに気付くことが大切です。
人生には自然な浮き沈みがあります。向上心や夢を持つことは大切ですが、幸福感に関しては今ある幸せに気付き、さまざまな変化もそのままに受け入れる方が、結果的に穏やかな「幸せ」につながるのではないでしょうか。
薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。
執筆者:阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者)
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