「シャイニング」より

上司にはしたくない!? 完璧主義のマイクロマネジメント監督 “鬼才”キューブリック傑作映画5選

2024.11.05 10:00
「シャイニング」より

多くの人の心に衝撃を与えるような作品を数多く生み出してきたスタンリー・キューブリック監督。天才的な独創性を持つ彼は、映像に一切妥協を許さない仕事ぶりで知られている。そんなキューブリック監督の25回忌を記念し、CS映画専門チャンネル「ムービープラス」では厳選5作品を放送する。本記事では、キューブリック監督の経歴を振り返るとともに、作品の見どころにも迫っていく。

“完璧主義者”として、ハイクオリティを求めたキューブリック監督の作品づくり

キューブリック監督は、もともと雑誌のカメラマンとして働いており、その後数本の短編ドキュメンタリーと初の長編映画「恐怖と欲望」(1953年)の制作を経て、本格的に映画監督としてデビューする。

そしてスリリングな犯罪映画「現金に体を張れ」(1956年)や戦争映画「突撃」(1957年)で注目を集めると、自身初の長編カラー作品「スパルタカス」(1960年)で高い評価を受けることに。それ以降、キューブリック監督の勢いはとどまることなく、「2001年宇宙の旅」(1968年)や「時計じかけのオレンジ」(1971年)、「シャイニング」(1980年)などの名作を世に送り出していった。

そんな彼は映画製作において、アートセンスあふれる映像や新しい撮影技法を積極的に取り入れており、“完璧主義者”だったことでも知られている。典型的なワーカーホリックだったキューブリック監督は、電話やメモ書きを通して、スタッフに細かく仕事の指示を出す「マイクロマネジメント上司」だったそうで、演出はもちろん脚本や映像技術、製作プロダクションにいたるまでを自らが管理し、出演する俳優とは積極的に関係性を構築。演出では細かい指示を出し、やり直しも多かったという。

このように高いプロ意識を持って仕事を突き詰めるキューブリック監督の作品はどれも完成度が高く、特に各作品で見られる“映像美”は多くの人から高い評価を得ている。

ベトナム戦争の“リアル”を描いた「フルメタル・ジャケット」、前後半で異なる物語構成にも注目

ムービープラスでは、11月13日(水)夜9時と11月22日(金)昼3時45分から「フルメタル・ジャケット」(1987年)を放送。ベトナム戦争が舞台となる本作は、新兵の厳しい訓練と戦場での体験が描かれる。

ベトナム戦争のさなか、南カロライナ州の合衆国海兵隊新兵訓練基地では新兵たちが8週間にわたる地獄の特訓を受けていた。鬼教官にしごかれていた新兵の中には、次第に精神に異常をきたしてしまう者もあらわれる。そして一人前の海兵隊員となった新兵たちは、それぞれの部隊に配属されるのだが――。

本作でキューブリック監督がこだわりを見せたのは、物語が前半と後半に分かれている点だ。新兵たちが鬼教官から訓練を受け一人前になるまでを描いた前半は、可能な限り戦争の“リアル”を描くためドラマティックな展開は避け、淡々とその事実のみを描いていく。一方で従軍中の新兵が戦地で仲間に再会し、地獄のような戦場を必死に生き抜く姿を描く後半は、本格的な戦闘シーンを交えながら、ドラマティックで没入感あふれるシーンが多く織り交ぜられている。

緊迫感と映像美が共存する「シャイニング」、副音声解説は必聴!

11月18日(月)夜9時からは、キューブリック監督の代表作の一つとも言われているホラー映画「シャイニング」(1980年)の北米公開版を放送。小説家志望のジャック(ジャック・ニコルソン)は、ロッキー山上のリゾートホテルの管理人として妻子とともに住み込むことに。しかしそのホテルは“前任の管理人は家族を斧で惨殺し、自殺した”といういわくつきの物件だった――。

スティーヴン・キングの同名小説を映画化した本作。“ホラー映画の金字塔”と言われており、インパクトと美しさを兼ね備えたこだわりの映像シーンが数多く散りばめられている。双子の姉妹が廊下に佇むシーンや、ジャックがドアの割れ目から顔を覗かせるシーンはあまりにも有名だが、今回注目したいのはジャックが食糧庫に閉じ込められるシーン。狂気じみた表情のジャックを下から見上げるようなアングルで映し出しており、それによって視聴者にかつてない緊迫感と迫りくる恐怖感を与えている。

なお、本作の放送では映画雑誌やイベントで活躍するライターの多田遠志氏、高橋ターヤン氏、てらさわホーク氏の3人による副音声解説「副音声でムービー・トーク!」も楽しめる。

映画界を変えた? 特撮技法“スリットスキャン”を採用したSF超大作「2001年宇宙の旅」

11月22日(金)朝5時30分からは、「2001年宇宙の旅」(1968年)を放送。アーサー・C・クラークの原作小説をもとに映画化した作品で、人間とAIの戦いを描いたSF超大作だ。2001年、月で謎の物体が発見され、その物体は木製へ強烈な放射能を発射していた。科学者たちが人工知能型のコンピュータ「HAL 9000」を搭載した原子力宇宙船・ディスカバリー号に乗って木星へ調査に行くと、宇宙船の故障を予言するコンピュータの注意信号を受信する――。

本作の特徴は、当時CGがない中、非常にイノベーティブな特殊効果を使用している点だろう。例えば宇宙船のシーンでは、キューブリック監督は直径10mもの「回転するセット」を制作し無重力の映像表現を実現した。その他にも、宇宙ステーションの登場シーンについてはカメラと被写体の位置をプログラム化して撮影するという、のちの「モーションコントロールカメラ」技法の基となる合成撮影法でミニチュアを大迫力の映像に仕上げた。さらに本作を代表するシーンのひとつ“スターゲート”では、スリットの向こう側を長時間露光で撮影することで時空の動きを感じるような複雑な模様を生み出す「スリットスキャン」という画期的な技法が採用された。

これらの技法は当時の映画界に大きな影響を与え、「第41回アカデミー賞」にて特殊視覚効果賞を受賞。のちに多くの作品に取り入れられることとなった。

英テレグラフ紙が発表した「宇宙が舞台の映画トップ40」でも、見事第1位に輝いている本作。ちなみに同放送でも、「シャイニング」と同様にライター3人による副音声解説を楽しむことができる。

R指定の、官能サスペンス「アイズ ワイド シャット」&暴力SF「時計じかけのオレンジ」

11月20日(水)夜11時40分と11月30日(土)深夜1時15分からは当時夫婦だったトム・クルーズとニコール・キッドマン共演「アイズ ワイド シャット」(1999年)を、11月25日(月)深夜0時からは青年の異常な残忍さを描く「時計じかけのオレンジ」(1971年)を放送する。

「アイズ ワイド シャット」はキューブリック監督が最後に挑んだ作品でもあり、性的な精神世界への旅立ちと緊迫のサスペンスを融合させた官能サスペンスとなっている。物語の主人公は、ニューヨークで何不自由なく生活する医師のビル(トム・クルーズ)。ある日、ビルはアリス(ニコール・キッドマン)から衝撃的な告白を聞いたことで“性の妄想”にとりつかれ、友人に誘われた秘密のパーティに潜入する――。優雅な雰囲気と卓越した色彩、そして息を飲むような美しい映像は彼の遺作にふさわしいものと言えるだろう。

そして「時計じかけのオレンジ」は、キューブリック監督作品の中でもカルト的な人気を誇る傑作SF。舞台は荒廃した近未来のロンドン。悪友と暴虐の限りをつくしていたアレックス(マルコム・マクダウェル)は、ある時手下の裏切りで警察に捕まり、凶悪犯罪者の人格を改造する治療を受けることになる――。ティーン・エイジャーの暴力を風刺的に描き、当時模倣犯罪が起きたり、キューブリックに殺人予告が届いたりしたことで、英国ではキューブリックの意向により死後1999年まで映画館での上映が禁止になったほどだ。

異色のテーマを扱い、斬新な撮影技法によって見る者を魅了するキューブリック監督作品。印象深い映像やストーリーに触れることで、彼の“鬼才”ぶりに改めて気づかされるかもしれない。

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