“万博ロス”はなぜ起きた? 旅行専門家が再発見した、SNS時代の旅では得られない「旅の原点」

2025.11.11 20:50
提供:All About

逆風の中で開幕し、終盤にかけて盛り上がりを見せ、惜しまれながら閉幕した「大阪・関西万博」。閉幕から1カ月。自身も通期パスで万博に通い、全パビリオンを訪れた旅行ジャーナリストが、万博を振り返り、旅の専門家視点で万博の成功要因と見えた課題を解説します。

工事の遅延、参加国の辞退、会場や大屋根リングの膨大な建築費などなど、逆風の中でスタートを切った大阪・関西万博。

集客が伸び悩んだ時期もありましたが、周知の通り、終盤にかけては予約が困難なほどの盛り上がりを見せ、2025年10月13日にフィナーレを迎えました。「早く行けばよかった」「延長してほしい」「万博ロスが心配……」と、惜しまれながら閉幕し、関係者や運営者に称賛や感謝の声が多く寄せられたのも記憶に新しいことでしょう。

閉幕から1カ月。通期パスで万博に通い、全パビリオンを訪れた旅行ジャーナリストが、万博を改めて振り返りどのような成果や課題があったのかを、旅の専門家としての視点から解説します。

想像を超えたリアル――関心薄から好奇心に変わった瞬間

筆者は関西に住みながら、万博への関心は決して高くはありませんでした。開幕前はネガティブな報道を見て、むしろ「食わず嫌い」の状態だったのですが、大阪・関西万博のPRブロンズパートナーだったホテル「OMO7大阪 by 星野リゾート」のイベントへの参加がきっかけで、気持ちが一変しました。

万博の最新情報やツールを初めてじっくりと眺め、スタッフの熱意ある話を聞き、さらに“万博マニア”としてイベントに登壇した二神敦氏の話を伺うことで、好奇心の火が付いたのです。

開幕前の報道向けプレスレビュー(4月9日)で、初めて大阪・関西万博の会場へ足を踏み入れた時のことは今でも忘れられません。

大屋根リングの美しく壮大な姿に感嘆し、会場の広さに驚き、多種多彩な建物に目を輝かせ、さまざまな国のスタッフが行き交う様に心が躍る……。想像をはるかに超える世界が目の前に広がり、ネガティブな報道も実際に訪れるうえで障害にはならず、「多少未完成でも楽しみには支障ない」ということを実感したのです。

万博の象徴となった大屋根リング。眺めてよし、登ってよし、休んでよし。夏の猛暑は大屋根リングなしでは乗り越えられなかったと筆者は思います
万博の象徴となった大屋根リング。眺めてよし、登ってよし、休んでよし。夏の猛暑は大屋根リングなしでは乗り越えられなかったと筆者は思います


万博のリアルを多くの人に伝えたいと、最初の記事をAll Aboutで執筆したのが4月28日のこと。ただ、世の中の万博への関心は薄く、転載されたニュースサイトには批判的なコメントも多く寄せられました。

転機が訪れたのは、GWも終わり、開幕1カ月を迎える5月中下旬頃。日を追うにつれ、実際に訪問した人のリアルな情報や感想がSNSなどで拡散。少しずつ万博の楽しい情報、ポジティブな意見が大きくなり始めたのです。

共感がつながり、未知の世界を協力して切り開く様は、見ていて感動を覚えたほど。SNS時代になり、旅の情報は知っていて当たり前が常の中、万博は訪れるたびに発見がある、本来の旅の楽しさを実感する機会になったと感じます。

ここからは筆者の独自視点で、万博の成果と見えた課題を振り返っていきます。

万博で再発見した旅の本質――3つのキーワード

1. 未知との出会いと多様性
万博は“未知”との出会いそのもの。世界各国の文化、価値観、アート、テクノロジー。それらに触れるたび、自分の中にある「世界の解像度」が上がっていく感覚を持った方も多かったのでは?

一人ひとり響く観点も違い、例えば「万博のおすすめランキング」も媒体により結果は全く違いました。同行者とパビリオンの評価が分かれることも日常茶飯事で、意見を交わすことで、多くの発見がありました。「楽しみ方は十人十色、違っていい」という多様性を地でいくイベントが万博なのだと感じます。

大学院生の息子と訪れる機会もあったが、パビリオンの評価が本当に違うのに驚く。ガンダムパビリオンは息子はハマり、筆者は世代的にはあっているはずだけれど……
大学院生の息子と訪れる機会もあったが、パビリオンの評価が本当に違うのに驚く。ガンダムパビリオンは息子はハマり、筆者は世代的にはあっているはずだけれど……


また、日本語で世界の人とコミュニケーションができるのも貴重な機会でした。特に会期前半は来場者数が落ち着いており、海外スタッフとのちょっとした会話も新鮮で印象的でした。(来場者数が増えた後半には、そんな余裕はなくなったのが少し残念ではありました)

ペルーパビリオンの入口にて。館内にはキッチンもあり時間によってはペルー料理やお酒の振る舞いもあった
ペルーパビリオンの入口にて。館内にはキッチンもあり時間によってはペルー料理やお酒の振る舞いもあった


2. 来場者が主役、リアルが共感を築く
近年の旅は、SNSが発展したおかげで「行く前に得た情報を確認・実践する」機会が多いように感じます。今回の万博は「そもそも何があるのか? できるのか? どう楽しむのか?」が確立されておらず、訪れた人が手探りで発見を重ね、自らがシェアする側となり、その蓄積が“知”を創り出しました。

ご存じの方も多い、公式Webサイトよりも分かりやすいと評判になった「つじさんの地図」もその1つ。未知の世界との出会い共有することで生まれる一体感――これはまさに旅の原点であり、多くの方が万博で実感する機会を得たといえるでしょう。

3. IT時代でも、「本物」「体験」は人の心を動かす
多くのパビリオンに最新テクノロジーが搭載され、その技術や未来像には目を見張るものがありました。

一方で、人気を集めたのは「本物」や「体験」。例えば、イタリアパビリオンでは歴史的価値のある本物の作品が次々と展示され、多くの人が足を運びました。ヨルダンや関西パビリオンの「鳥取県」は、実際に「砂漠の砂」に触れられる体験が注目されました。

イタリア館の国宝級の展示「ファルネーゼのアトラス」。360度どこから眺めてもため息がでる精巧さ<span
イタリア館の国宝級の展示「ファルネーゼのアトラス」。360度どこから眺めてもため息がでる精巧さ 


ヨルダンパビリオン~本国から運んできた砂漠の砂が話題に。筆者は白い服で砂漠に座るのをためらったのですが、実は砂はさらさらで全く汚れないことにびっくり
ヨルダンパビリオン~本国から運んできた砂漠の砂が話題に。筆者は白い服で砂漠に座るのをためらったのですが、実は砂はさらさらで全く汚れないことにびっくり


公式スタンプラリーも人気でしたが、実はデジタル版のスタンプラリーもあったのはご存じでしょうか? 万博に限りませんが、スタンプラリーは総じて自らの手で押す昔ながらの「紙のスタンプ」が人気。かすれたり傾いたりというリアル感、自ら手を動かすことが達成感に関係しているのかもしれません。IT時代だからこそ「本物」「体験」がより貴重な機会となっていると感じます。

国際的なイベントで見えた課題――3つの問題の難しさ

万博では、課題も見えました。こちらも少し振り返っておきましょう。

1. 「並ばない万博」が「並べない万博」へ
筆者の感覚では、万博は1日の来場者数が10万人前後であれば「並ばず快適」、15万人前後なら「混雑を感じながらも楽しめる」キャパシティ。会期終盤の9月以降、平日も20万人を超える日が続き、通路に面したパビリオンでは並ぶことを制限する「並べない万博」となりました。

特に深刻だったのがトイレ問題。開幕当初は十分と思ったトイレでしたが、9月に入ると女子トイレはどこも長蛇の列で、来場時の懸念事項になりました。万博来場者数目標が2820万人(1日平均約15万3000人)だったことからも、基本的には15万人前後が妥当なキャパシティだったのでしょう。9月に入ってからはキャパシティを超えた状況だったと感じます。

数は十分だったはずのトイレは9月になり深刻な問題に
数は十分だったはずのトイレは9月になり深刻な問題に


苦渋の判断だったと思いますが、4月に通期パスの利用範囲が、会期中全日程、入場時間の規制なしへ緩和がされた点も、(筆者も通期パスホルダーではありますが)混雑や予約の公平性に影響が出たと感じます。

また十数万人の来場者を見込んでいるわりには、体験できる人数が極端に少ない、あるいは回転率の低いパビリオンが意外と多く、入場者数に見合った受け皿を計画する、入場者数の適正化を図るなど、工夫の余地があったかと感じます。

2. 優先入場にみた利用モラルと相互理解
万博では、ベビーカーや車いすなどの優先入場が多く設けられていました。ただ「大切なことは分かりつつ、モヤっとすることもある」という声が噴出。優先入場を目的に、普段は利用しない人がベビーカーや車いすを借りる、多人数が同行者として優先入場をするなどがモヤモヤの原因となりました。

こうした事態も影響してか、優先入場の基準が徐々に厳しくなり、実施を取りやめたパビリオンもあります。結果として、せっかくの配慮が必要な人に届きにくくなったことは残念に思います。

万博での車いすの貸出は長い待ち時間が発生するように
万博での車いすの貸出は長い待ち時間が発生するように


列が多くなるにつれ、割り込み問題も発生。代表者だけではなく全員そろって並ぶという、非効率とも思えるルールを採用するパビリオンが増え、割り込みがないようにとスタッフや警備の方の負担も大きかったと思われます。

配慮やルールに関するマナーやモラル、多様性を認め、互いを思いやる――そうした共存の意識が改めて問われる場ともなりました。

3. 国際イベントの予約システムの在り方
チケットと予約の連動、アクセスやパビリオンの事前予約の公平性など、利用者サイドから見ると、より丁寧な説明や配慮が必要に思われる点もありました。

例えば、チケットとIDの連携、夜中に始まるパビリオンの3日前先着予約、会場にいながらスマホとにらめっこする当日予約。それでも思うように予約が取れず、システム不具合なども重なり不満も多く聞かれました。

筆者としては、日本人の旅計画が1カ月前前後なのを考えると、2カ月前の抽選予約は機会を逃した人も多かったと感じます。「料金を払っているのなら、1つくらいは事前予約枠を確保したい」と考えるのは自然な心理。皆が利用できるような工夫や配慮があってもよかったと思います。

そもそも価値観や習慣の違う国をまとめることは難しい
そもそも価値観や習慣の違う国をまとめることは難しい


ただ、世界的な大規模イベントを事前に予測して計画を立てることは、並大抵のことではなく、運営サイドの苦労は、われわれ利用者の想像を超えていたのは間違いないことでしょう。

万博に通い感じたのは、価値観も習慣も異なる多様な国々が集まる中、そもそもまとめる、管理するというのは困難だということ。やってみないと分からない、都度対応をしていくしかないことも多かったと推測します。利用者側も国際的なイベントでは「日本での当たり前」にこだわり過ぎず、寛容な気持ちを持つことも大切かもしれません。

万博のレガシーを胸に、次の好奇心あふれる旅へGO!

終了後、パビリオンの一部は移設され新たな役割を与えられたり、会場で出会った見慣れない地域の食文化は、街中でレストランを開いたりと、新たな広がりを見せています。また万博を機会に興味を持った国へ、実際に訪れたいという、海外旅行の機運の高まりも感じます。

開幕前には「ネットで情報も得られる今、万博は時代遅れでは?」という声もありましたが、実際に足を運んでみると、空間・音・匂い・人々の営み――時代が変わっても、旅に求める本質は変わらないということを再確認する機会になりました。

万博のレガシーを胸に、芽生えた好奇心や探究心を満たす旅へ出掛けることは、個人にとっても社会にとっても、大きなプラスになるに違いありません。

筆者はウズベキスタンに行くのが目標になった(写真はウズベキスタンのナショナルデー)
筆者はウズベキスタンに行くのが目標になった(写真はウズベキスタンのナショナルデー)


筆者も今回を機に、機会があれば他の国で開催される万博も訪れてみたいと思うようになりました。そして再び世界博覧会が日本で開催される日を、終わったばかりですが願わずにいられません。

ちなみに次回の世界博覧会は、サウジアラビア・リヤドで開催されるExpo 2030 Riyadh(2030年10月1日~2031年3月31日)です。2027年にはスペシャルエキスポとして、セルビア・ベオグラードでExpo 2027 Belgrade(2027年5月15日~8月15日 )が開催されます。

同年には横浜で国際園芸博覧会(2027年3月19日~9月26日)も、「幸せを創る明日の風景」をテーマに開催され、自然との共生を通じ未来を考える機会となりそうです。

次回の世界博覧会は2030年サウジアラビアにて開催!
次回の世界博覧会は2030年サウジアラビアにて開催! 大阪・関西万博ではパビリオンもレストランも大人気に


最後になりますが、逆風の中で万博の企画・設営に関わられた関係者の皆さま、雨の日も混雑する日も運営を支えてくれたスタッフ、ボランティアの皆さまにお礼を申し上げます。感動をありがとう!


執筆者:村田 和子(旅の準備・お得・便利ガイド)

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