歴史的建造物の面影を残しつつ、現代的に。一人旅でゆったり訪れたい「京都市京セラ美術館」
約90年の時を経て、2020年春にリニューアルオープンを遂げた「京都市京セラ美術館」。創建当時の優れた建築意匠を残しつつも、現代的な要素が加わり、さらに魅力が増しています。一人旅の旅先にもぴったり。
1933(昭和8)年、「大礼記念京都美術館」として開館。第2次世界大戦をくぐり抜け、現存する国内最古の公立美術館建築として愛されてきた「京都市美術館」。
2020年春に新たな通称「京都市京セラ美術館」を得て生まれ変わり、新たなページを刻み始めました。そして同年8月には、本館の建物のほか正門など6カ所が国の有形文化財に。開館直後から気になっていた美術館でしたが、ようやく来訪が実現しました。
創建当時のデザインを活かしつつ、現代的な要素も兼ね備えた建物
「平安神宮」や「京都国立近代美術館」を有する左京区の岡崎公園内にあり、建築家・前田健二郎が手掛けた建物は、鉄骨鉄筋コンクリート2階建ての帝冠様式を代表する建築。
創建当時のデザインを最大限に活かしながら、2017(平成29)年から約3年をかけて建築家・青木淳氏と西澤徹夫氏の設計のもと大規模改修・増築工事が行われました。
神宮道からのタイル張りの景観と前広場は踏襲され、エントランスを地下に移し、新たに「ガラス・リボン」というガラス張りの空間を設置。エントランスの両脇に設けられたカフェとミュージアムショップは、チケットなしでも自由に利用できるようになりました。
意匠的価値が高いことから保存されている旧西玄関ロビーは、自由に見学できます。大理石の壁面や柱、天井の漆喰(しっくい)、玄関の床を覆う京都産美術タイルの最高峰と名高い「泰山タイル」のモザイクタイル、そしてステンドグラスの窓や照明器具。
創建から90年以上の年月を経てもなお、重厚感を保ち続ける空間に圧倒され、うっとりと見入ってしまいます。
大理石の壁や柱にはアンモナイトの化石を見つけることもできるそう。
チケットを購入したら大階段を上り、1階の中央ホールへ。白で統一されたホールは天井高16メートルある吹き抜け空間で、2階部分の窓から光が差し込む明るい空間。大階段脇の螺旋(らせん)階段を上ると、2階の廊下に出られます。
こちらの階段は見方によっては巻貝のようにも見え、開館当初はフォトスポットとして行列ができるほどの人気だったとか。
2階の西広間も京都市美術館から引き継がれた歴史的意匠が存分に楽しめる空間。床のモザイクタイル、大理石の壁面、ベランダや階段の手すりの意匠、照明器具など見どころが多い中、誰もが思わず息をのむのが、漆喰(しっくい)の格天井にはめ込まれた美しいステンドグラス。
社寺建築で目にする格天井の花の絵を思い起こさせ、カメラを向けずにはいられませんでした。
現代アートに対応した新館「東山キューブ」には屋上テラスも
企画展は本館1・2階の北回廊、南回廊のほか、新館として新たに建設された東山キューブで開催されます。北回廊と南回廊はロの字型の展示空間となり、北回廊の中央にはガラスの大屋根を被せた「光の広間」、南回廊の中央にはオープンスペースの「天の中庭」が設けられ、展覧中に日差しや空気に触れることで、リラックスできます。
訪れた時は、北回廊と東山キューブで、日本上陸60周年を迎えるイタリアのラグジュアリーブランド・グッチの世界巡回展「GUCCI COSMOS」が開催されていました(~2024年12月1日)。東山キューブへと移動する際、ガラスウォール越しに日本庭園が映え、ほっと心が和みました。
東エントランスからは外にも出られるので、鑑賞の合間に庭園を散策するのもいいでしょう。
新館・東山キューブの上部は広々としたテラスになっており、ここから眺める日本庭園と岡崎公園周辺の風景が大変美しく、癒されました。
琵琶湖疏水の水を引き込んだ池泉回遊式庭園は、七代目小川治兵衛が作庭に関わったとされる日本庭園が前身。美術館創設時(1933年)に藤棚などが新たに設けられたそう。四季折々の花木や紅葉が目を楽しませてくれます。
一方、南回廊では、美術館のコレクションも多数展示される企画展「巨匠たちの学び舎 日本画の名作はこうして生まれた」が開催されていました(~2024年12月22日)。
1880(明治13)年に開校した京都府画学校を前身とする京都市立芸術大学が、2023(令和5)年に全面移転した記念に開催される特別展。学校の歴史をめぐりながら、研さんを積んだ47人の画家を一堂に紹介しています。
主な作家は、竹内栖鳳、菊池契月、木島櫻谷、都路華香、村上華岳、土田麦僊、小野竹喬、堂本印象、徳岡神泉、山口華楊といった、近代京都の画壇をけん引してきた、そうそうたる顔ぶれ。彼らの若き日の初期作品から代表作に至るまで、幅広い作品を鑑賞できました。
「巨匠たちの学び舎 日本画の名作はこうして生まれた」
・会期:2024年10月11日(金)~12月22日(日)
<前期10月11日(金)~11月17日(日)、後期11月19日(火)~12月22日(日)※会期中、一部展示替えあり>
・観覧料:一般 1800円(1600円)、大学・高校生1300円(1100円)、中学生以下無料
※()は前売り。京都市内に在住・通学の高校生は無料
アート鑑賞の合間には、ミュージアムカフェでランチやお茶を
企画展の充実した作品内容を鑑賞した後は、地下1階の南側のミュージアムカフェ「ENFUSE(エンフューズ)」でランチタイムに。全面ガラス張りの明るい店内は、地元の一人客も多く、気軽に過ごせる雰囲気。
数あるメニューの中から、人気の「京の素材のおかずプレート」をオーダー。ワンプレートに京都の素材を用いた季節替わりのおかずが彩りよく盛り付けられ、赤米ごはんおにぎりorパン、本日のスープを追加料金でプラスしてセットにできます。
この日は銀鮭の西京漬、西京味噌のラタトゥユ、半兵衛麩 生麩のグリル 赤ワイン田楽味噌、鶏とひじきのおからコロッケなど15種。京都のおばんざいに創意工夫がなされた総菜はどれもおいしく、野菜たっぷりで女性にうれしい内容でした。
ランチ利用だけでなく、プリンアラモードや季節替わりのケーキのほか、企画展にちなんだ和菓子なども提供されるので、カフェ利用もおすすめです。
ミュージアムショップでとっておきのアートグッズを探す
おなかが満たされた後は、地下1階北側のミュージアムショップ「ART RECTANGLE KYOTO(アート レクタングル 京都)」へ。
美術書籍やポストカード、展覧会グッズ、京都の伝統工芸品など、幅広い品ぞろえの中で特に人気なのが美術館オリジナルアイテム。ロゴ入りトートバッグ(2200円)やマグカップ(1980円)のほか、ステンドグラスのデザインをモチーフにしたマグネット(660円)やブックマーカー(935円)などが販売されていました。
他にも目を引いたのは、カラフルさとフォルムのかわいさで外国人にも人気の高い「BUNZABURO KYOTO」のプチバッグ。絞り染めの特性を活かしたユニークなデザインが魅力のポリエステルサテンのバッグで、コンパクトなのに伸縮性抜群で容量は多め。ツンツンした唄(ばい)絞りのほか、丸っこい三浦絞りのシリーズもあります。
京都市美術館を受け継ぐ建築美はもちろんのこと、館内随所で陽光や風、緑の息吹が感じられ、心地よいアート鑑賞が楽しめた「京都市京セラ美術館」めぐり。カフェやショップも洗練されていて、居心地のよい空間でした。
月1回程度、建築的な魅力をガイドが案内する建物ツアーも開催されているので(要予約<先着20名>。15:00~、40分間。1人500円)、タイミングが合えば参加するのもいいでしょう。秋から冬の京都旅。紅葉の寺社めぐりの合間には、京都の名建築とアートを楽しむひとときも加えてみてはいかがでしょうか?
「京都市京セラ美術館」
・住所:京都府京都市左京区岡崎円勝寺町124
・TEL:075-771-4334
・開館時間:10:00~18:00(最終入場時間は展覧会により異なる)※カフェは10:30~19:00(18:00LO)、ミュージアムショップは10:30~18:30
・休館日:月曜(祝・休日の場合は開館)、年末年始(12月28日~1月2日)
・料金:企画展ごとに異なる(コレクションルームは一般730円)
・交通アクセス:地下鉄東西線東山駅より徒歩8分、または市バス5系統・86系統「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ
執筆者:塩田 典子(一人旅ガイド)
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