日本上陸60周年の「グッチ」、世界巡回展の見どころは? 美術館の所蔵作品とのコラボが斬新
世界的ラグジュアリーブランド・GUCCI(グッチ)が日本に上陸して60年。その節目を記念して、「京都市京セラ美術館」(京都市)で世界巡回展「GUCCI COSMOS」が開催されています。
1921年にイタリア・フィレンツェで生まれ、世界をけん引するファッションブランドとなったグッチが日本に上陸したのは1964年のこと。日本上陸60周年の節目となる2024年は、日本各地でさまざまなイベントやプロジェクトを展開。現在、その集大成となる展覧会「GUCCI COSMOS」が京都市京セラ美術館(京都府京都市)で開催され、世界的に話題を集めています(2024年12月1日まで)。
100年以上にわたるブランドの歴史と時代ごとのクリエイティビティの軌跡をたどる、大規模な世界巡回展が、上海(中国)、ロンドン(イギリス)に続き、京都(日本)で開催されることに驚きと興奮を覚え、早速足を運びました。日本の首都・東京ではなく、京都で開催されるのにはきっと理由があるはず。それも知りたかったのです。
グッチの歴史をひもとく「TIME MAZE - 時の迷宮」
まず、京都の美しい風景もちりばめられた、グッチの歴史を映し出す約1分30秒のプロローグ映像を鑑賞。期待感がMAXになったところで扉が開き、年表をモチーフにしたオブジェを経て、1つ目の展示室に誘われました。
「TIME MAZE - 時の迷宮」は、グリーンで統一された同心円状の空間に、引き出しや棚の付いたショーケースがずらりと設置され、まるで迷宮に迷い込んだかのよう。内装はフィレンツェにあるグッチ アーカイブコレクションの収蔵庫の本質を表した展示になっています。まるで現地の収納庫を訪れたかのようで心が躍りました。
ブランド創設時の1921年から、年代やクリエイティブ・ディレクターごとにセクションが分かれ、その時代のアイテムとともに懐かしい写真や広告、デザイン画などが展示されています。グッチのこれまでの歩みや世界観が丁寧に解説されているのです。
日本での歴史のスタートとなる1964年のセクションでは、梅や桜、盆栽、東洋風の花器が描かれた、日本的なデザインのスカーフが目を引きました。傍らには1974年にアジア初のショップとして開業した、銀座・並木通りのショップのモノクロ写真も配されています。現在も国内の旗艦店のひとつが、この並木通りにあります。
引き出しや棚は自由に開けて中身を見ることができます。引き出しを開けると、ブランドの代表格であるホースビット ローファーが現れました。
ダブルリングとバーからなるホースビットがあしらわれた、洗練されたデザインとバイカラーのローファーは長い時を経ても全く色褪せることがありません。70年も昔の作品とは思えない、恒久的なデザインに改めて驚かされました。
この展示室では主にグッチコレクションの中核となるハンドバッグに焦点を当て、初期の作品から最新作までが一堂に紹介されています。バンブーハンドル、ホースビット ハードウエアといった、グッチを象徴するディテールを用いながらも、時代の変遷や歴代のクリエイティブ・ディレクターにより、進化を遂げていく軌跡を目の当たりにでき、大変見応えがありました。
世界観に影響を与えた乗馬にフィーチャー「ZOETROPE - 乗馬の世界」
次の「ZOETROPE - 乗馬の世界」では、バンブー、ホースビット、ウェブ ストライプ、鎧(あぶみ)といった、グッチの伝統的なデザインや素材にインスピレーションを与えてきた、乗馬の世界をテーマにしたインスタレーション。
円形の空間に配された大型スクリーンに、疾走する馬の映像が映し出され、馬の蹄(ひづめ)の音や馬にまつわる朗読も相まって五感が揺さぶられます。
展示ケースの中には、乗馬から着想したファッションアイテムでコーディネートされたマネキンがずらりと並び圧巻!
ホースビットや、馬にサドルを固定するための腹帯からインスピレーションを得たグリーン・レッド・グリーンのウェブ ストライプといったグッチの伝統的なモチーフが、歴代のクリエイティブ・ディレクターにより再解釈され、最新のファッションアイテムに反映されています。
過去から未来へ進化を遂げつつも、グッチの世界観から逸脱しない確固たるポリシーが感じられました。
ファッションでたどるブランドの変遷「Echoes クリエイティビティの系譜」
寄せては返す波をイメージした舞台に、1970年代から現在までのグッチのコレクションに身を包んだマネキンが今にも動き出すかのように並び、ミラーに映し出されています。年代に関わらず、カラーやインスピレーションによって並べられることで、常に時流を創り出し、クリエイティブを追究し続けていることを表現。
時代を越えて、グッチのファッションアイテムで着飾ったモデル達がパーティーに集ってきたような華やかな空間です。
トム・フォード、フリーダ・ジャンニーニ、アレッサンドロ・ミケーレ、サバト・デ・サルノといった歴代のクリエイティブ・ディレクターが手掛けた作品群の中には、海外の有名アーティストが授賞式に着用したドレスや日本文化を取り入れたキモノドレスなど貴重な作品も多く、一見の価値があります。
美術館の所蔵作品とのコラボ展示「LEISURE LEGACY - ライフスタイル賛歌」
こちらはさまざまなレジャーやスポーツシーンにまつわるアイテムが、京都市京セラ美術館のコレクションと呼応するように展示されており、斬新。
例えば、1970年代に誕生したGGパターンのゴルフバッグ&シューズと丹羽阿樹子(にわあきこ)の日本画《ゴルフ》(昭和初期)、1960年代のレオナルド プリントをあしらったヘンプ製のピクニックセットと中村研一(なかむらけんいち)の《瀬戸内海》(1935年)など、グッチのアーカイブピースと、余暇や屋外の楽しみにちなんだ絵画作品とともに鑑賞することができます。
そして、1988年製作の乗馬のサドルと黒栗毛の馬の姿を優美に描き出した菊池契月(きくちけいげつ)の《紫(しりゅう)》(1942年)との競演。和と洋の垣根を越えたアートとブランドの融合は、時代や国籍を越え、レジャーやスポーツの楽しさを伝えてくれるようでした。
日本の伝統工芸が新たな息吹を吹き込む「BAMBOO - バンブーの世界」
次の展示室では、馬のサドルの輪郭を模した曲線を描くシルエットが特徴的な、グッチの最も象徴的アイコンである〔グッチ バンブー 1947〕をフィーチャー。まず目を引くのが、月明かりの夜、竹林に風がそよぐ映像に、光るように浮かび上がるコレクションたち。まるで「かぐや姫」の世界を思わせるよう。
自然竹を用いたバンブーバッグと竹林が相まって、日本人にとってはどこか懐かしく、外国人にとっては日本との親和性を感じさせるような幻想的な空間でした。
対面する展示台では、ヴィンテージの〔グッチ バンブー 1947〕バッグに、日本の伝統工芸作家とコンテンポラリーアーティストが新たに命を吹き込んだ作品の一部を展示。
職人が上質な竹に熱を加え手作業で半円形に加工する、バンブーハンドルの作品群が並ぶ中、ハンドルとフックの部分が陶器製となる陶芸家・中里博恒(なかざとひろつね)氏とのコラボ作品(写真下)は、幽玄で特に目を引きました。
これらの作品の背後には、京都市京セラ美術館のコレクション、井上流光(いのうえりゅうこう)の屏風作品《籔(やぶ)》(1940年)が配され、日本との絆をより明確に伝えてくれます。
日本の赤い糸伝承に思いを込めた「RED THREADS - グッチの絆」
日本の「赤い糸」からインスピレーションを得たこちらの展示室は、空間全体が深みのあるレッドで彩られており、この色は本展のメインビジュアルにも使用されています。
これが現クリエイティブ・ディレクター、サバト・デ・サルノが提唱する新たなシグネチャーカラー「グッチ ロッソ アンコーラ」であり、これからのグッチのビジョンを表しています。
この空間には長い歴史の中で培われてきた、ウエア、バッグ、アクセサリーといった多種多様なレッドアイテムが整然と展示され、それぞれのもつブランドの伝統を物語るエレメントが「赤い糸」のように結ばれていることに気付けるはず。
1999年秋冬コレクションのパテントレザー ジャケット、〔グッチ ホースビット 1955〕バッグと同じハードウエア(金属)を飾ったアーカイブバッグなどは必見。レッドの作品たちを通して、時代を越えて連綿と受け継がれるクラフツマンシップやエレガントさを再確認でき、グッチの自由な精神や未来への揺るぎない挑戦が感じられるはず。
ブランド創設の地・フィレンツェと50年以上にわたり姉妹都市である京都。本展を企画した英国のコンテンポラリー・アーティスト、エス・デブリンいわく、昨年、京都市京セラ美術館の回廊を歩いた際、フィレンツェとを結ぶ赤い糸を感じたそう。
また所蔵作品もグッチのクリエイションとの共鳴を感じ、バンブーハンドルにも日本とのつながりを感じたのだと言います。本展を鑑賞してその思いが理解できました。
歴史と伝統に裏打ちされた世界的ラグジュアリーブランドでありながら、展示室では自由にスチール・動画撮影ができる「GUCCI COSMOS」。観る者全てを受け容れる懐の深さを感じました。
京都を訪れる外国人観光客も多く来場していましたが、日本の芸術×GUCCIのコラボレーションが互いを昇華させ、国内外の鑑賞者を強く惹きつける、大変価値のある企画展でした。
グッチ日本上陸60周年記念展「GUCCI COSMOS」
・会場:京都市京セラ美術館 本館 北回廊1階、新館 東山キューブ
(京都府京都市左京区岡崎円勝寺町124)
・開催期間:2024年10月1日(火)~12月1日(日)
・開館時間:10:00~18:00(最終入場は17:00 まで)
・休館日:月曜(祝日の場合は開館)
・観覧料: 一般2200円、大学生1500円、高校生1000円、中学生以下は無料
※予約優先制。美術館ウェブサイトより事前の来館予約(日時指定)
執筆者:塩田 典子(一人旅ガイド)
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