モデルプレスのインタビューに応じた増本淳氏(C)モデルプレス

「THE DAYS」福島原発事故を今ドラマで描く理由 「コード・ブルー」にも共通点<増本淳プロデューサーインタビュー>

2023.06.24 17:00

役所広司主演のNetflix シリーズ『THE DAYS』(6月1日よりNetflixにて世界独占配信中)。配信直後から、作品の完成度の高さと圧巻のリアリティが話題を呼び人気急上昇。Netflix週間グローバルTOP10では非英語シリーズで5位を記録。今日のシリーズトップ10では、日本で1位を獲得したほか、アメリカを含む77の国・地域でトップ10入りしている。 (6月7日時点)

今回、モデルプレスでは企画・脚本・プロデュースを手掛けた増本淳(ますもと・じゅん)氏にインタビュー。フジテレビ在籍中『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』シリーズや『白い巨塔』『はだしのゲン』を世に送り出してきた増本氏が、『THE DAYS』を通して伝えたいこととは。

役所広司主演『THE DAYS』

全8話からなる同作は、入念なリサーチに基づき3つの異なる視点から事故を克明にとらえた重層的なドラマ。2011年3月11日、その日からの数日間(THE DAYS)に何があったのか、ジャーナリスト・門田隆将の徹底した取材による『死の淵を見た男―吉田昌郎と福島第一原発』(角川文庫)を原案に、政府、会社組織、そして原発所内で事故に対峙する者たち、それぞれの視点から実話に基づいて描いた。

『THE DAYS』を通して感じてもらいたいこと

Netflixシリーズ『THE DAYS』より/提供画像
Netflixシリーズ『THE DAYS』より/提供画像
― 2011年3月11日から12年、今作品を通じて発信したいこととは?

1番は「まだ終わってない」ということです。キャッチコピーとして「これは天災か、それとも人災か」と銘打ったのですが、誰かが悪いんじゃなくて僕ら全員が悪いというか、視聴者であれ、我々であれ、当時は日本の明るい未来がきっと来るんだろうと思ってやってきたことが、結果的に今暗い影を落としている。それは誰かのせいではなくて、選挙でその政権を選んだとか、電気を使ってるとか、小さい関わり方ですけど全員で選んだ未来が今なので、そういうことを感じ取ってもらえたらいいなと思ってます。

― 選択の積み重ねが今であると。

2011年当時の政権だけに限らず、あそこに原発を作ろうと決めたのは数十年前なわけで、その政権を選んだのは我々の親の世代ですから、そう考えるとこの事故はいくつもの世代に渡って全員で招いたものだよねって。そして、僕らが選んだ選択のツケを福島に住んでいる人たちが払っていて、僕らはそのメリットだけを享受している。

福島の人たちは福島第一原子力発電所の電気を使っていません、だけど彼らも別のところで作られた電気を使っているわけです。結局、誰がその不幸なしわ寄せを受けるかは運に近いものがあるかもしれないです。今回、日本全体の不幸せな部分を彼らが一身に引き受けて、僕らはそのメリットだけもらってるっていうことが、ちょっとでもドラマで感じてもらえればいいかなって思っています。

Netflixシリーズ『THE DAYS』より/提供画像
Netflixシリーズ『THE DAYS』より/提供画像
― なぜ12年経った今この作品なのでしょうか?

「なんで今?」と聞かれるということはやってよかったなと思っています。あの事故が「もう終わったものだ」と思われているということですから。その認識をちょっとでも変えてもらえれば。原子炉の中には12年経った今も数百トンのデブリが残っていて実はまだ1グラムも取り出せていません、そういうことを知ってほしいです。

― 主演の役所広司さんとはどんなやりとりをしていましたか?

「できる限り事実に忠実に」「誠実に」ということをお互いに確認する程度でした。脚本を渡すこと以外に私が伝えることと言えば、当時の原発の様子や作業に当たった方たちの実際の様子を説明するくらいで、あとは役所さんによって確実なお芝居で表現していただけました。

― 配信後、どのような反響が届いていますか?

反響を見ていると、中には「ひどい政権だった」みたいなことを書いてる人はもちろんいますけど、一方で「結局自分たちなんだなって思った」っていう感想を持ってくださった方たちも結構な数いて、自分では伝わっているんじゃないかなと思っています。

『コード・ブルー』で形に 増本淳氏が考える役割

増本淳氏(C)モデルプレス
増本淳氏(C)モデルプレス
― フジテレビ在籍時から数々の作品を手掛けていて、『THE DAYS』はフリーになって最初の作品になりました。ご自身のキャリアの中で転機になった作品をあげるとしたら?

1番はやっぱり『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』かなと思っています。ヒットしたということもありますが、自分のスタイルというか、元々こういうものを作りたい、と思っていたものがある形として上手くいったものではあります。

― 思い描き、実現出来た“形”とは。

本当はみんな知らなきゃいけないし、自分たちでも知った方がいいなって気がついてること、でも面倒くさくて、もしくは敷居が高すぎて勉強したくないってことっていっぱいあるじゃないですか。僕は、それを身近に、みんながちょっと興味持つものに料理して、もしくはアレンジして世の中に出せたらと。それができれば自分が世の中の役に立ててるかも、と思えます。

例えば『コード・ブルー』だと“医療の不確かさ”。

そこに行き着くまでは前段があって、『救命病棟24時』だったり『Dr.コトー診療所』を作ってきて、あれはもう理想のお医者さんですよね。難しい病気に対してみんなが諦めた時でも、天才的な技術や強いメンタルで救ってくれる。“医療の希望”を描いてきたんですが、現実の医療界が疲弊していたんです。「なんでコトー先生みたいに治療してくれないんだ」「治療がうまくいかないのは医者のせいだ」と理想とギャップが生まれてしまい、医療界を攻撃する医療訴訟が起きてたわけです。医者にとっても私たち患者になりうる人々にとっても不幸な状況を招いていました。その一端を僕らが担ってしまったのかなと。あまりにも理想を描いたことで、理想と違うことに対して、頑張ってくれた人に対しても攻撃してしまうみたいな世の中ができてしまいました。

そこで、そもそも医療は不確かなものなんだよねと、ベストは尽くすけど結果は保証できないのが医療の根本的なところだよ、ということを描きたいんですけど、これを真面目にやっても1番伝えたい興味のない人には全然響かないんです。だからこそ、例えば山下(智久)くんのような人気者が医師役をやってくれて、彼らが失敗して非難されながらも医師として頑張っていく姿を描いたら「医療ってこういうもんなのかも」ってちょっと伝わるかなって思ったんです。

本来世の中の人がもっと知った方がいいと薄々分かっていながらなかなか手が出せないことに手を出しやすくする仕事がやれたらな、という思いが上手く形になったのが『コード・ブルー』でした。

増本淳氏(C)モデルプレス
増本淳氏(C)モデルプレス
― その思いやプロセスは『THE DAYS』にもつながるものがありますね。

僕自身3・11が起きてから1ヶ月後ぐらいに石巻へボランティアに行ったんですが、そこでそれなりに自分として思うことがあって。何らかの形でここに関わりたい、役に立ちたいなって思っていたんですけど、それがどういう形かはすぐには思いつきませんでした。

今、こうして徐々に忘れられていくというか、まだ解決してない問題が山積みなのに、そこに住んでいる人以外の世の中はもう終わったこととしている。そこを自分が「いや、まだ始まったばっかりだよ」っていうことを伝えられたらいいなと思ったんです。

それを声高に言っても響かないのでこういう形で、言い方が難しいですけどエンターテイメントの形で見せれば、皆さん単純に面白いとか、怖かったとか、そういう自然と湧き上がる感情をモチベーションに視聴を進めてくれると思います。それで結果的に、勉強になったと感じ取ってもらえれば自分も少しは役に立てたかなと思います。

増本淳氏、入社時は「ちょっと違う教育番組を作りたかった」

増本淳氏(C)モデルプレス
増本淳氏(C)モデルプレス
― “自分のスタイル”はフジテレビに入社するときから考えていたことなのでしょうか?

入社面接で「どんなものを作りたい?」と聞かれたとき、ずっと僕は「教育番組を作りたい」って言ってたんですよね、本当に青臭かったんですけど(笑)。「教育番組を作りたい」「じゃあNHKに行けば?」みたいな感じだったんですけど、普段から教育に興味があったり意識していたりする人が見るような教育番組とはちょっと違う教育番組を作りたかったんです。

「面白いモノがみたい」、「ゲラゲラ笑いたい」、もしくは「感動してボロ泣きしたい」っていう人がドラマやバラエティー番組を見ていたら、たまたま教育番組でもあったみたいな。

― 気づきのない学びのような?

見終わってみたら気付きがあった、みたいなものを作りたいとずっと思っていたんです。やっぱり勉強しようと思ってする勉強って面白くないじゃないですか。面白いから見てみようとか、カッコいい男の子が出てるから、可愛い女優さんが出てるから見てみようって思って見て、そこで学びがあったらそれが1番残ると思うんです。そういうものを作れたらいいなと思っています。

増本淳氏の悲しみの乗り越え方

増本淳氏(C)モデルプレス
増本淳氏(C)モデルプレス
― モデルプレス読者の中でもいま様々な困難に直面している方もいると思います。今までの人生で怒りや悲しみを乗り越えたエピソードを教えてください。

新型コロナ禍で行われた『THE DAYS』の撮影は本当に困難の連続でした。1年半の撮影休止期間ではキャッシュフローの目処が立たず途方に暮れたときもありました。ただ、近くに同じ苦しみを感じ、協力しあえる先輩、後輩、同僚たちがいたので、1人で抱え込まずに乗り切ることができました。困難というものは肉体的にも疲れますし、心もすり減ります。ですが、同じ志を持つ仲間の存在を強く感じられる瞬間でもあると思います。

増本淳氏の夢を叶える秘訣

増本淳氏(C)モデルプレス
増本淳氏(C)モデルプレス
― モデルプレス読者の中でもいま様々な夢を追いかけている方もいると思います。夢を叶える秘訣を教えてください。

私自身、夢半ばですから叶える秘訣はわかりませんが、生涯をかけて夢を追いかけ続ければ、上手く前へ進める時期もあれば、停滞し沈み込む時期も必ずあると思います。そのときに諦めないことはもちろんですが、焦らずやれることをやる、ということが大切な気がします。その瞬間は遠回りだと感じることもコツコツやっていると、前進するタイミングが訪れたときに一気に跳躍できた、という経験が何度かあります。停滞しているときは、「今は次に訪れるであろう前進のときのための準備期間だ」と信じて時間を過ごすようにしています。

― ありがとうございました。

(modelpress編集部)

増本淳氏(C)モデルプレス
増本淳氏(C)モデルプレス

『THE DAYS』概要

Netflixシリーズ『THE DAYS』より/提供画像
Netflixシリーズ『THE DAYS』より/提供画像
未曽有の原子力災害が発生した福島第一原発。責任を問う批判の声と英雄としての称賛を浴びながら、日本政府、巨大企業、福島の現場はどう対峙したのか—?入念なリサーチに基づき、あの日、あの場所で何があったのかを克明に描く、強靭なリアリズムと極限のサスペンスがみなぎる重層的なドラマ。

出演:役所広司、竹野内豊、小日向文世、小林薫、音尾琢真、光石研、遠藤憲一、石田ゆり子

企画・脚本・プロデュース:増本淳

監督:西浦正記、中田秀夫

原案:門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発」(角川文庫刊)

エグゼクティブ・プロデューサー:高橋雅美 高橋信一

プロデューサー:関口大輔 増子知希 髙田良平

製作:ワーナー・ブラザース映画 制作:リオネス
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