芳根京子×髙橋海人が語る「本当の自分」と「演じる自分」の境界線
取材・文・編集:杉田穂南/マイナビウーマン編集部
心と体が入れ替わったまま戻れない男女の切ない15年を描く映画『君の顔では泣けない』。
「戻りたい」ではなく、「戻れない理由」「戻りたくない想い」に焦点を当てた本作は、“自分らしさ”とは何かを静かに問いかける物語です。
今回は、本作で入れ替わってしまうふたり、坂平陸(さかひら りく)と水村まなみを演じた芳根京子さんと髙橋海人さんに、作品に込めた想いや役作りの裏側、そして「本当の自分」と「演じる自分」の間でどう向き合っているのか――等身大の言葉で語っていただきました。初共演とは思えない2人の自然な掛け合いにも注目です。
■「入れ替わりもの」だけど、その先を描く物語に惹かれた
――最初にオファーを聞いた時、どんな印象を持ちましたか?
芳根さん(以下、芳根):一言で言えば“入れ替わりもの”だけど、入れ替わったことで何かが起きるということよりも“入れ替わった後の話”というのが、今までの作品と違うなと思いました。
入れ替わってしまったら「戻りたい」って思うものと思っていましたが、それだけ(15年)の時間が経つと戻れない事情があったり、戻りたくない事情があったり……。そんな複雑な時間の経過に惹かれながらも、最初は「さあ、どうやって演じよう」という挑戦の気持ちでした。
髙橋さん(以下、髙橋):本作は、入れ替わることが一番のイベントではなく、そこから二人がどうやってお互いを思いやりながらも自分を大切にして生きるかに焦点があるのが印象的でした。静かにぶつかり合う二人の思いがすごく美しいなと。
僕自身、“入れ替わりもの”に挑戦するのは初めてで、しかも入れ替わってから15年間という長い月日を背負うというのはハードルが高い印象でしたが芳根さんに支えられながら楽しく臨めました。
――お二人は今回が初共演とのことですが、お互いの印象はいかがでしたか?
芳根:髙橋さんは才能豊かでお芝居もすてきな方。テレビなどで拝見して“ちょっと不思議な方なのかな?”と思っていたのですが、実際はやっぱりすごく不思議な方でした(笑)。柔らかくて掴めない。でも見ていて面白い。
とにかくこの作品は陸とまなみの話なので、共に戦える方だとうれしいな~と思っていた中で、陸を演じるのが髙橋さんと聞いた時は率直にうれしかったです。
髙橋:芳根さんは、ご自身のエネルギーが自然に出ている方だなと思っていました。その共演前のイメージは現場に入っても変わらず、ずっと太陽の光を浴びているような感覚でした。
■“入れ替わり”を超えて、ひとりの人間として向き合う
――複雑な役どころでしたが、どんな風に作っていきましたか?
芳根:入れ替わったまま(陸という)一人の人間と向き合っていくので、役作りの面では他の作品と大きく違うことはなかったのですが、今回は性別が違う点で自分の主観だけは乗り越えられない部分も多かったです。なので、リハの映像を見させていただいたり、話し合いを重ねながら、見た目よりも“陸という人間の中身”が大切だなと考えると気持ちが軽くなりました。
髙橋:僕も役作りをする中で、表面的なものや見た目にとらわれて苦しくなる瞬間がありました。現場では「仕草を意識しすぎないようにしよう」と話し合いながら、感情に正直に演じました。
芳根:15年も経ってますからね。だんだん慣れてくる部分もあるじゃないですか。周りに(入れ替わっていることが)バレないように振舞おうとか。
髙橋:そうそう。月日が経つのと一緒に感情も変わっていくから、その感情に沿って自由に演じることを意識しました。
――お互いのお芝居を見てどうでしたか?
髙橋:芳根さんの演じる陸は、目が合う時とそうでない時の差がすごく繊細で、すごみを感じる瞬間がありました。そういう細かいところまで意識しているのはすごいなと思いながらも、自分もそれに応えたいなと思いました。
芳根:髙橋さんは“間”が絶妙なんです。車の中で話すシーンとかも「気まずっ」みたいな(笑)。でもその空気感が本当にリアルで、自分も陸としてブレずにいようと思えました。
■「戻れる」と言われた瞬間に込み上げる葛藤
――まなみから陸に「戻る方法が分かったかも」と告げた瞬間、二人の中にはどんな感情が生まれたと思いますか? また、その思いをどんな風に受け止めて演じられましたか?
髙橋:陸に対して「戻りましょう」ではなくて「戻れる方法が分かったって言ったらどうする」という言葉を選んだ理由が、きっとこの15年間にあるんだと思います。戻りたい気持ちも戻りたくない思い出も混ざっている。それに、まなみは陸の積み重ねてきたことを知っているから強くは言えないんですよね。でも、同じ気持ちであってほしいと思いながら告げたんだと思います。
芳根:15歳から30歳の間で作られたことって壊せないことがたくさんあると思うんです。仕事とか結婚とか。30歳になって「戻れる」と言われても、簡単な話ではなくなっているところがこの作品の面白いところだなと感じます。
髙橋:選択することってホントにつらいですよね。“入れ替わっちゃいました”っていう瞬間だけだったら、もしかしたら気持ち的にはまだラクかもしれない、というか。
芳根:15年間入れ替わっていたという事実は変わらないから、辛いですよね。
髙橋:ただ、2人で取った選択や向き合ってきたことは、人生において絶対に悪いことじゃないと思うんです。なので2人には幸せになってほしいなと思います。
■二人が考える“本当の自分”と“演じる自分”の境界線
――陸とまなみは、お互いの人生を生きる中で、“本当の自分”と“演じる自分”の間で揺れ動く姿が印象的でした。俳優というお仕事もまた、さまざまな場面で“自分を演じる瞬間”があると思います。お二人は、そんな“ギャップ”をどう受け止めていますか?
芳根:確かに撮影現場ごとに求められることが違うので、私はその瞬間ごとに“その場に合う自分”でいるようにしているのですが、それは“偽物の自分”というわけではなくて。テレビに出ている自分も、家でリラックスしている自分も、どれも本当の私なんです。昔はその差に悩んだこともありましたが、全部自分でいいじゃんって思えるようになってから、すごく楽になりました。
それを高校の同級生に話したことがあるのですが、彼女も同じように会社にいる時の自分と家族や友人といる時の自分にギャップを感じると言っていて。でも、全部“本当の自分だよね”と分かり合えた時に二人ですごくすっきりしました。
髙橋:人は誰でも自分の中の一部だけを見せて生きていると思うんです。今、世間の皆さんに知ってもらっているのは、自分の100%ではなくて一部分。それだけで自分がどんな人間か判断されるのはもったいないけれど、誰だって相手のことを100%知ることはできないし、分かろうとするのには時間がかかる。それに自分でも自分が分からないことだってありますよね。
他人からの評価や印象に揺れることもあるけれど、自分だけは自分のことを愛していようと思っています。自分が今まで歩いてきたことや、経験したこと、選択してきたことを信じていれば周りにも徐々に伝わっていくんじゃないかなと思います。
『君の顔では泣けない』
高校1年生の坂平陸と水村まなみは、プールに一緒に落ちたことがきっかけで心と体が入れ替わってしまう。いつか元に戻ると信じ、入れ替わったことは二人だけの秘密にすると決めた二人だったが、“坂平陸”としてそつなく生きるまなみとは異なり、陸はうまく“水村まなみ”になりきれず戸惑ううちに時が流れていく。
もう元には戻れないのだろうか。“自分”として生きることを諦め、新たな人生を歩み出すべきか――。迷いを抱えながらも二人は、高校卒業と進学、初恋、就職、結婚、出産、そして親との別れと、人生の転機を経験していく。
しかし入れ替わったまま15年が過ぎた30歳の夏、まなみは「元に戻る方法がわかったかも」と陸に告げる……。
原作:君嶋彼方「君の顔では泣けない」(角川文庫/KADOKAWA 刊)
監督・脚本:坂下雄一郎 音楽:Inyoung Park
製作幹事・配給:ハピネットファントム・スタジオ
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(日本映画製作支援事業) 独立行政法人日本芸術文化振興会
©2025「君の顔では泣けない」製作委員会
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