

戦後80年、つなぐ平和への思い。『長崎ー閃光の影でー』菊池日菜子&小野花梨&川床明日香インタビュー
原爆が投下された長崎で、傷ついた人々を救おうと戦地で救護活動に奔走した看護学生たち。その姿を描いた映画『長崎―閃光の影で―』に出演している菊池日菜子さん、小野花梨さん、川床明日香さんにインタビュー! ※写真:Kaori Saito(All About)
映画『長崎―閃光の影で―』は太平洋戦争で原爆を投下された長崎を舞台に、負傷者の救護に奔走する看護学生たちの活動を描いた作品。多くの人の死に向き合った彼女たちは何を思いながら看護活動をしていたのか。
原案は、日本赤十字社の看護師たちが被爆後の救護活動を記録した手記『閃光の影で―原爆被爆者救護 赤十字看護婦の手記―』(日本赤十字社長崎県支部)。この手記をもとに若き看護学生の視点で戦後の長崎を描いたのが本作です。
看護学生を演じた菊池日菜子さん、小野花梨さん、川床明日香さんにお話を聞きました。
菊池日菜子さん、小野花梨さん、川床明日香さんにインタビュー
――長崎の日本赤十字社の看護師さんの手記を脚色した本作ですが、脚本を読まれたときの気持ちと、それぞれが演じた役について教えてください。
菊池日菜子さん(以下、菊池):最初にこの作品のお話をいただいた際、長崎に投下された原爆とその場所で救護にあたられた看護学生の方々のお話だと伺いました。私自身、戦争映画はよく見ていたのですが、だからこそ、戦争映画がもたらす影響力も理解していたので、私にそんな大きな役が演じられるのだろうか……と不安な気持ちもありました。
出演が決まってから、田中スミという役をつかもうと追いかけても、なかなかつかみきれず「まだまだ足りない」と自分では思っていましたが、スミ自身も悩み苦しみながら生きていたので、とにかく精いっぱいに演じました。
小野花梨さん(以下、小野):これまで戦争をテーマにした作品にメインキャストとして参加させていただく機会がなかったのですが、「いずれはきっとそういう機会があるだろう」と思いながら俳優業を続けてきました。
今回お話をいただいて「あ、いよいよそのときが来たか」と。脚本を拝読し、事実から目をそらさずにあの日々を描こうとされている松本准平監督の思いや、私が演じる大野アツ子の責任感のある強さにとても惹かれ、覚悟を持ってこの作品に挑まなければならないと思ったことを覚えています。
川床明日香さん(以下、川床):脚本を読んだとき、長崎で起こったことから目をそらさずに、責任と覚悟を持って取り組まないといけないと思いました。岩永ミサヲ役については、ミサヲが生きた時代の生活環境や人間関係など、現代とは違うことも多いだろうなと、不安な気持ちもありましたが、次第にミサヲと私の距離が縮まっていった感覚がありました。撮影期間は、ずっと心の中でミサヲを追いかけていましたね。

――本作に出演するにあたって、長崎に落ちた原爆や太平洋戦争について、改めて調べたりしましたか?
菊池:私は過去に学んできたことを踏まえ、多角的に考えたりしたのですが、さまざまな考えがあり、調べれば調べるほど何を信じたらいいのか分からなくなりました。一番頼りになったのは、この映画の原案となった手記です。看護師の方々の生の声を逃さないようにすることが、彼女たちへの敬意だと思い、撮影の間もずっと手放さずに持っていました。
小野:原爆ドームに行ったり、資料を読んだりしました。戦争の悲惨さは前にも勉強していましたが、当時、被爆者救護にあたった方を自分が演じるという視点で見ると、新たな発見もありました。
川床:どれだけ調べたり、資料を読んだりしても、今の時代を生きる私たちが完全に理解できるかといえば、それは無理なのかもしれないと思います。しかし、ミサヲになるためにも、戦争について考え続けることはやめてはいけないと思いましたし、演じ切るためにはやれることは全てやるという気持ちで臨みました。
なので、撮影が始まった後も、長崎で起こったことを調べたり、映像を見たりということは続けていました。
戦争映画の撮影は想像以上に過酷。その中でも和んだ出来事

――本作は、原爆が投下される前は、看護学生の皆さんの穏やかで温かい時間もありましたが、原爆が投下された後は、過酷な状況が目の前で広がり、演じていても大変だっただろうと思います。そんな中でも少し心が和らいだりするような印象深い出来事はありましたか?
菊池:濃い時間を過ごすことができましたが、明るい気持ちにはなれなくて……。むしろ安心したり、和んだりする時間を作るのは危険だと自分に課して、スミとして最後まで駆け抜けたという感じです。全ての撮影が終わってから少しだけ「頑張ったな」とホッとしました。
小野:薄暮の撮影が印象的でした。映像では夜に見えるけれど、実際は夜でも昼間でもない本当に数十分限りの時間を狙った撮影で。ただでさえ松本組はリハーサルやテストを行わないため、緊張感が続くにもかかわらず、そこに時間制限も加わってくるという……(笑)。
あの時間はみんなが一体化していて、緊張感はありつつもどこかワクワクしているような雰囲気を感じました。「もうやるしかない!」と、全員で撮影に立ち向かう時間には特別な濃さがあったと思います。
川床:メインのロケ地・滋賀県に行くのが初めてでした。私は福岡県出身なのですが、ロケ地は自分の生まれ育った場所と少し似ていたので、撮影は大変でしたが、どこか安心感もありました。
福山雅治さんの歌唱指導に熱狂
――本作では3人が歌う主題歌『クスノキ ー閃光の影でー』がエンドロールに流れますが、この楽曲は福山雅治さんがプロデュース&ディレクションを担当しています。レコーディングにも立ち合ってくださったそうですが、いかがでしたか?
※本作の主題歌『クスノキ ー閃光の影でー』は、2014年に福山雅治さんが発表した『クスノキ』を福山さんがプロデュース、ディレクションし、菊池さん、小野さん、川床さんの3人が歌唱したバージョン
菊池:福山さんは私にとって、スーパースターなので、まず目の前にいることが信じられず、同じ床の上に立っていることに驚いていました(笑)。「一回歌ってみようか」と言ってくださったのですが、緊張し過ぎて声が震えてしまって。心の中で「落ち着け、落ち着け」と何度も自分に言い聞かせました。
そんな私に福山さんは優しくアドバイスしてくださって……。器の大きさを感じましたし、福山さんのアドバイスのおかげで、最終的には「大胆だね」と驚かれるくらい、のびのびと歌うことができました(笑)。
川床:私は日菜子ちゃんと同じ日のレコーディングだったので、ブースの中で歌っている日菜子ちゃんを見ながら緊張していました。実際にブースに入ったときは緊張し過ぎてあまり覚えていないです。でも音程が分からなくなったとき、福山さんが優しく教えてくださったことがうれしくて、お母さんに報告したいと思いました(笑)。
それから、福山雅治さんの楽曲『クスノキ』は松本監督が大好きな歌で、打ち上げ時に行ったカラオケでも歌っていらっしゃったんです。撮影の間も「主題歌にしたいんだ」と話されていたので、主題歌に決まったと聞いてうれしかったです。

小野:私は1人でレコーディングをしたのですが、ブースに入ったらギターを持ったTシャツ姿の福山さんがいらっしゃって、その時点で「え~!」と感動しました。
菊池、川床:私たちも同じです(笑)。
小野:レコーディングという行為そのものが初めてなうえに、福山さんが作詞作曲されて普段歌われている楽曲を、ご本人の目の前でご指導いただきながら歌う、というのが本当に信じられない気持ちで。そんな緊張感の一方で、福山さんの優しさと温かさがスタジオを安心感で満たしていた記憶があります。
完成したスミ、アツ子、ミサヲ3人の歌唱を聞いて「あ、こんな歌になるんだ」と、魔法のようなものを感じましたし、私にとって宝物と言える時間になりました。
戦後80年、それぞれの平和への思い
――今年は戦後80年ですが、戦争を知らない世代が増えていく中、私たちなりに戦争で何があったのかを伝えていかなくてはいけないと思います。この映画で戦時中苦しんだ人物を演じて、改めて、戦争、平和、命というものにどう向き合っていこうと考えますか?
菊池:時代が変わっていく中で、身近に感じる痛みや苦しみが変化していくのは仕方のないことだと思います。しかし、戦時中の方々が体験した苦しみが、美化されたり、価値観の違いから当時の思いとは違う形で伝わってしまったりすることだけはしてはいけないと思いますし、撮影中もその点はすごく気を付けていました。

例えば100年後に生きる人が、100年前のことを知りたいと思ったら、映像や読み物として残されている100年前の人の言葉に耳を傾けてほしいと思います。そのために長崎原爆資料館などが大切にされていますし、私たちも『長崎―閃光の影で―』のような映画を作っています。ずっと残り続ける世界であればいいなと思います。

小野:戦後80年と言えることのありがたさを強く感じました。戦争を知らない私たちと言えることがどれだけありがたいか。その80年という数字がどこまでも大きなものになってほしいですし、こういう作品はそのためにあるのだと思いました。

川床:戦争を知る人、体験した人が少なくなり、語れる人がいなくなっていくからこそ、『長崎―閃光の影で―』のような戦争を題材にした映画が制作される意味があるのではないかと思います。これから世界がどう変化していくのか、誰も分からない中、俳優という仕事を通して伝えられることがあるのではないかと、この映画に出演して強く思いました。
語り継がれる作品になってほしい!

――最後に完成した映画を見た感想をお願いします。
菊池:私の場合は客観的に見ることができなかったです。スミを演じた自分として主観的に鑑賞してしまったので、撮影当時のスミの苦しみが心の中でよみがえり、それが109分に凝縮されたような感覚でした。
小野:みんなで支え合いながら撮影した日々を思い出したのと同時に、作品が完成してホッとしました。これから映画をご覧になった方々からたくさんのご意見をいただくと思うのですが、どのような世代の方からどのような感想がいただけるのか興味深いです。
川床:私は作品が完成したことが何よりうれしかったです。この映画は戦争を描いているので、亡くなる人もいます。でも時間は止まることなく進んでいくので、置いていかれてしまうことの残酷さも感じました。
それでも、この映画に出演したからこそ、そんな感情になったのかと思うと気付きの多い作品だったのだと思います。長くさまざまな年代の方に見ていただける作品になればいいなと思います。
菊池日菜子さんのプロフィール
2002年2月3日生まれ。福岡県出身。2020年より俳優活動を開始。主な出演作『私はいったい、何と闘っているのか』(2021)で映画初出演を果たし、『月の満ち欠け』(2022)では第46回日本アカデミー賞新人俳優賞受賞。近年は『か「」く「」し「」ご「」と「』(2025)に出演。
小野花梨さんのプロフィール
1998年7月6日生まれ。東京都出身。数々の映画、ドラマで活躍。映画『ハケンアニメ!』(2022)の演技が評価され、第46回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。近作は『52ヘルツのクジラたち』『ミッシング』(いずれも2024)『片思い世界』(2025)。最新作は『みんな、おしゃべり!』(2025年公開予定)。
川床明日香さんのプロフィール
2002年7月10日生まれ。福岡県出身。2014年雑誌『ニコラ』(新潮社)の第18回モデルオーディショングランプリを受賞し、同誌のモデルとして活躍。その後、映画、ドラマ、CMなどで活躍している。主な作品は『沈黙のパレード』(2022)『室町無頼』(2025)NHK連続テレビ小説『虎に翼』(2024)など。
『長崎―閃光の影で―』公開中
原案:『閃光の影で―原爆被爆者救護 赤十字看護婦の手記―』(日本赤十字社長崎県支部)
監督:松本准平
脚本:松本准平、保木本佳子
出演:菊池日菜子、小野花梨、川床明日香、水崎綾女、渡辺大、田中偉登、呉城久美、坂ノ上茜、田畑志真、松尾百華、KAKAZU、加藤雅也、有森也実、萩原聖人、利重剛、池田秀一、山下フジヱ、南果歩 、美輪明宏(語り)
主題歌:『クスノキ ー閃光の影でー』(アミューズ/Polydor Records)
作詞・作曲:福山雅治
編曲:福山雅治、井上鑑
歌唱:スミ(菊池日菜子)、アツ子(小野花梨)、ミサヲ(川床明日香)
撮影・取材・文:斎藤香
菊池日菜子さん
ヘアメイク:猪股真衣子 (TRON)
スタイリスト:石川淳
小野花梨さん
ヘアメイク:森下奈央子
スタイリスト:伊藤彩香
川床明日香さん
ヘアメイク:吉田美幸
スタイリスト:中井彩乃
執筆者:斎藤 香(映画ガイド)
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