二人の男から愛された女優の魅力。歪な三角関係を描いた映画『ゆきてかへらぬ』インタビュー【広瀬すず×岡田将生×木戸大聖】

二人の男から愛された女優の魅力。歪な三角関係を描いた映画『ゆきてかへらぬ』インタビュー【広瀬すず×岡田将生×木戸大聖】

2025.02.26 11:10

取材・文:ミクニシオリ

撮影:渡会春加

編集:杉田穂南/マイナビウーマン編集部

2025年2月21日公開の映画『ゆきてかへらぬ』は、大正時代の京都と東京を舞台に、実在した3人の男女の恋愛と青春を描いたヒューマンドラマ・ラブストーリー。

主演として往年の女優・長谷川泰子役を務めたのは、広瀬すずさん。そして泰子を愛した詩人・中原中也を演じた木戸大聖さんと、文芸評論家・小林秀雄を演じた岡田将生さん。情熱的でありながら、少しいびつな三角関係を表現した3人に、作品の見どころと、本作の見どころでもある「愛」について、お話をお伺いしてみました。

■稀代のアーティストを虜にし、三角関係を作り上げた女優の魅力

――大正時代を生きた3人のアーティストの大恋愛を描いた本作ですが、皆さんそれぞれ、ご自身が演じた役柄にどんな印象を抱きましたか?

木戸大聖さん(以下、木戸):中原中也は現代も支持を集め続けている天才詩人ですが、傍若無人ではありながら、孤独を抱えていた人なんだと思います。そんな時に自分を理解してくれた泰子と、転がるように恋に落ちていく。繊細で、ストレートで、とても人間らしい人なのだと考えています。

広瀬すずさん(以下、広瀬):泰子は家庭環境が複雑で、子どもの頃から近親の人とあまり関われず育ったのに、2人の天才に挟まれながら女優を目指すことになり、なかなか難しい20代を過ごしたのではないかと思います。不器用な人ですが、上手に生きられなかったところも色気につながっていて、不思議な魅力を感じさせる女性でしたね。

岡田将生さん(以下、岡田):色々と資料を読んだのですが、小林秀雄という人はなかなか掴みきれない人でした。役作りの中では、とにかく常に中也を目線の中から外さないことに気をつけていました。異性として愛していた泰子だけでなく、小林にとっては中原も本当に大切な存在だったのだと思うので。

――中原中也と小林秀雄は、どちらも稀代の文化人だったと思うのですが、そんな2人の心を掴んでしまった、泰子の魅力も本作の見どころの一つですよね。

木戸:中也にとっては、自分の詩を肯定してくれた人としても泰子の存在が大きかったのだと思います。中盤、泰子が小林のところに行ってしまった後にも、その喪失感が原動力となって天才的な詩が生まれたのだそうです。中也にとっては、生きて詩を制作し続ける上で、必要不可欠な存在だったんでしょうね。

岡田:小林は中也の才能を評価した上で、泰子と中也の関係を崩すことが、二人の才能が開花すると思っていた部分もあったのかもしれません。だけど、小林が彼女にのめり込んでいってしまったのは、それ以上に泰子が魅力的だったからだと思います。

広瀬:泰子の魅力は一筋縄ではなくて、すごく多元的なんですよね。押し付けがましいところもあるし、本人が言うように育ちが悪いところや、品がない部分もある。だけど、常に危ういんですよ。情緒次第で物の見方が一気に変わって、色々な表情を出すことができるんです。

――品性のなさ、危うさ、色気……相反する側面を持っているからこそ、タイプの違う2人の男性を虜にできたのかもしれませんね。

広瀬:そもそも2人の天才に挟まれておきながら、2人に勝ってやると言わんばかりの強気を発揮できちゃうところも、すごいところなんですよね。あれくらいの気持ちがないと、現実離れしている2人との恋は出来ないでしょうね。欠点もたくさんあるのに、どこか清々しさを感じさせる女性でしたね。

■『ゆきてかへらぬ』ほどの愛を、スクリーンから感じて

――そして、3人は世にも奇妙な三角関係にのめり込んでいきますよね。愛なのか憎悪なのか分からなくなるほど、感情を全面に発散するようなシーンも多く、ハッとさせられました。

木戸:終わってからどっと疲れを感じたシーンもありましたね。特に、評論家である小林との関係の中では、中也は“彼に認められたい”という思いもあったはずなので、泰子が嫉妬するほどの、ブラザーフッドを越えた愛も生まれていたのかもしれません。

広瀬:泰子の感情はとにかく出てきたものを投げつける感じだったので、多分受け取る側の方が大変だったんじゃないかと思います。

岡田:小林はたしかに感情を受け止める側になるシーンが多かったので、そこに渦巻いているであろう感情を出すべきか、出さないべきかは悩みましたね。言葉には出さずひょうひょうとしているように見えるかもしれませんが、本当はセリフにはないようなことを、色々考えていたんだと思います。

――中也と小林、元恋人と3人でつながり続ける関係は一見いびつに見えますが、広瀬さんご自身はどう感じましたか?

広瀬:女優という仕事は、人の感情で心を埋めることがあると思うんです。泰子は自身の満ち足りなさを、演技で埋めている部分があったのかもしれませんし、中也や小林も、最初は泰子に巻き込まれているようにも見えていました。ただ、中也も小林も思った以上にぶっ飛んでいたので、みんなで少しずつ自分たちの穴を埋め合っているんじゃないかなと。

――依存や執着といった感情が垣間見えるシーンもありながら、互いに補い合うような特別な関係に、尊さを感じさせられたのも確かです。私たちの日常とはかけ離れた恋愛譚ではありますが、映画を通してどんなことを伝えたいですか?

岡田:撮影中はずっと「愛ってなんなんだろう」と考えていました。それは人によって変わるのかもしれないですし、正解はないのかもしれませんが、伝え方、受け取り方で形が変わっていくのだと改めて考えさせられました。ご自身にとっての愛とはなんなのか、再考するきっかけになったらと思います。

木戸:今ってSNSとかネットがあって、自分の感情を吐き出せる場所があるからこそ、本当に伝えたい相手に、ストレートな言葉を届けづらくなっていると思います。3人の関係を恋愛という一言で片づけていいのか分かりませんが、互いに丸裸で向き合った人たちの関係性や絆の深さを感じてみてほしいです。

広瀬:私自身は、泰子の生き方にかっこよさを感じさせられました。恋愛に対しても、生きることに対してもとにかくストレート。完璧な人間ではなくても、自分を受け入れてくれる人さえいれば、立ち向かえる未来もあるんだなと。今の時代、さまざまな人の価値観や言葉に晒されやすいと思いますが、支えになる愛があれば自分らしく生きられるのかもしれません。共感できる愛かは分かりませんが、矜恃のある愛を感じてみてほしいですね。

『ゆきてかへらぬ』

まだ芽の出ない女優、長谷川泰子は、のちに不世出の天才詩人と呼ばれることになる青年、中原中也と出逢う。どこか虚勢を張り合うふたりは、互いに惹かれ、一緒に暮らしはじめる。

その後東京に引っ越したふたりの元を、中也の友人で、のちに日本を代表することになる文芸評論家、小林秀雄が訪ねてくる。

偶然ともいえるその出逢いが、やがて3人の運命を狂わせていく――

監督:根岸吉太郎 脚本:田中陽造 主演:広瀬すず

配給:キノフィルムズ

(C)2025 映画「ゆきてかへらぬ」製作委員会

広瀬すず

スタイリスト:丸山晃(Akira Maruyama)

ヘアメイク:奥平正芳(Masayoshi Okudaira)

ワンピース/JOSE MOON

ネックレス、ピアス、イヤーカフ、リング/全てAFFECT

靴/スタイリスト私物

木戸大聖

スタイリスト:佐々木悠介(Yusuke Sasaki)

ヘアメイク:石邑麻由(Mayu Ishimura)

ジャケット、ベスト、シャツ、タートルネック、パンツ/全てスズキ タカユキ

その他スタイリスト私物

岡田将生

スタイリスト:大石裕介(Yusuke Oishi)

ヘアメイク:細野裕之(Hiroyuki Hosono)

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