

髪のめぐりに思うこと 誰かに助けられている(歌人・東直子)

昨年、乳がんの術後に抗がん剤治療を受けた。副作用で髪の毛が抜けることは聞いていたので、実際に抜け始めたときは驚かなかった。しかし、あっという間にごっそりと髪が抜けた頭を目の当たりにすると衝撃を受けた。真夏だったので、部屋に一人でいるときは涼しい頭をさらしていたのだが、荷物の受け取りの時には医療用帽子をさっとかぶって対応した。
抗がん剤治療を終えて数カ月経った今は、再び生えてきた髪が数センチあり、白髪まじりのベリーショートといった感じだが、そのままで外出する勇気は出ず、ウィッグを使っている。長さの違うウィッグをいくつか買い、がんのサバイバーの友人が使っていた物も借り、その日の気分と服装に合わせて簡単に髪形を変化させられる状況を楽しんでいる。
決して笑えない
ウィッグや帽子を購入する費用もそれなりにかかったが、地毛に費やしていた美容院代やコンディショナー、ブロー時のトリートメントオイル代を思えばそんなに、と思える。洗髪後にドライヤーで乾かしたり、朝整えたりする時間も取られずに済む。髪がない、またはとても短いとこんなに楽だったのかと気づく。
男性は加齢によって髪を失う人が多いが、じわじわと髪を失うことを感じる日々は、どんな気持ちになるのだろう。そうなる人が多いせいか、ハゲをからかう場面は、日常でも、お笑い番組でもよく見てきた。からかってもかまわないもの、という認知が世の中にあったからか、カツラがとれてはげ頭があらわになるコントで笑った記憶はある。でも今は、そんなコントでは決して笑えない。
なぜ切ないのか
この間、喫茶店に入ってマフラーを外そうとしたとき、ウィッグが引っかかって取れそうになり、肝を冷やした。それを見られても、ウィッグをかぶっていることがばれても、別にかまわないはずなのだが、必死でウィッグをかぶり直していた。心臓が高鳴り、恐怖に似た感情を覚え、自分の反応に自分で驚いた。
加齢によるものでも、病気によるものでも、体の一部だった髪の毛を失うのは切ないものである。でも、もっと引いて客観的に考えると、なぜ切なくならなくてははいけないのか、とも思うのだ。
誰かに迷惑をかけるわけでもないし、命に関わることでもない。スキンヘッドがメジャーな髪形になれば、切なくならないのではないだろうか。少し先の未来には、そうなっているような気もする。
人毛のまじるウィッグなでながら ありがとうねとしゃがんで思う
ウィッグを購入した日に詠んだ歌である。誰かが育てた髪に私は今、助けられている。
(歌人・東直子)
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