

リデザイン代表兼「エズミ」デザイナー 江角泰俊さん スケッチブックを活用しスキルアップ

東京ブランド「エズミ」のデザイナー、江角泰俊さんは24年夏、クリエイター塾「ディレクリエイティブ」を開校した。留学したロンドン芸術大学セントラル・セントマーチンズで学んだ、スケッチブックを用いるメソッドを活用した教育プログラムで、テーマやコンセプトを立てて、イメージを膨らませ、形にしていく過程を学ぶ。ジャンルを問わず、クリエイティブな仕事や活動を目指す人を対象に、自身のデザイン活動を支えてきた思考のプロセスを実践してもらい、夢の実現やキャリアアップの後押しをしている。
デザイン活動を支える礎
――スケッチブックを作る目的とは。
西洋のファッションスクールでは、デザインの過程に重きを置いて学びます。日本の学校では、技術を教えることに偏り、どうやってデザインするのか、分からない人が多いと思います。僕はセントマーチンズに入った初日から「コベントガーデンでテーマを見つけて、自分のスケッチブックを完成させてください」と言われ、戸惑いました。指導するのは先生ではなく、チューターといい、コンセプト作りの対話がメインで、教えることをしません。
欧州の学生は、テーマを見つけてコラージュや模写などに取り組み、スケッチブック上でデザインを発展させていくことを自然にやっていて。僕も人に聞き、見よう見まねでやってみて、テーマを変えて何回も作りながら身に着けました。
卒業後、英国の「アクアスキュータム」で働いていたときも、デザインチームが同じように取り組んでいました。欧州のクリエイションは、スケッチブックとなるムードボードを使うことが共通言語として存在しています。今シーズンはこれでいくとディレクションを明確に表現し、素材やディテールをどうするか、派生させていくんです。
帰国して、日本のOEM(相手先ブランドによる生産)企業に携わって、考え方の違いにびっくりしました。最初にトレンド要素を持ってきて、サンプルを並べ、「これが可愛い、これにしよう」というやり取りです。これではすぐに飽きられるし、新しいものを生み出せないと感じました。

――自身のクリエイションでは必ず実践している。
ブランドを始めて14年28シーズン、ブックを制作しています。コロナ下では、建築家の隈研吾さんが設計した建物を会場にした3Dの疑似内覧会をオンラインで試みました。隈さんの「負ける建築」に影響を受けて、建築的な考え方を服のデザインに取り入れたいと考え、自分たちが置かれている状況を反映して発展させたものです。
――企業の制服をデザインする上でも強みになった。
クライアントのイメージをテーマに置き換えて応用します。初めて取り組んだのは、フォルクスワーゲンの日本のディーラーの女性スタッフの制服。現場の人に話を聞いてリサーチすると、高級車ではなく、一般の人が乗る「スタンダード」というキーワードが見えてきました。そこで「EVOLVE STANDARD」をテーマにデザインを具体化し、4ブランドによるコンペで勝ち取りました。
JAL(日本航空)の制服をデザインした時は、当初、20組ぐらいがコンペに参加していました。客室乗務員と地上接客部門の制服に採用された、ツルの流線型を表現したバルーンスリーブのワンピースは制服の考え方としてありえない形でしたが、最終的に社員の意見を反映して決まりました。
ブックを作ると、自然にプレゼンテーションが上手になります。ストーリーがあるので説得力があり、人を感動させ、納得させることができるんです。今までに、化粧品、タクシー会社、Ⅹ線の防護服、保育園の保育士など10社近くに携わり、その業種をリサーチしたことは、自分の経験値を上げる機会になっています。
正解があるわけではない
――塾として始めた経緯は。
再び展示会ができるようになってから、ムードボードとして自作のスケッチブックを会場の演出の一つとして展示しました。企画の意図を説明しやすいからです。多くの方が興味を持って下さり、やり方を説明すると、様々な仕事に携わる方から思考のプロセスとして面白い、やってみたいという意見も出てきて。教育プログラムとして事業化できるかもしれないと、昨年の初めに具体化しました。
ブランドを始める前に2年程務めた、ファッション専門学校の講師の仕事が好きだったんです。いろんなジャンルの人との接点もできるでしょうし、仕事を続ける中で刺激があるだろうと思いました。
――どのように特徴を。
プログラム作りでは、ここのがっこうを主宰する山縣良和さんに相談もしました。彼もセントマーチンズで学んだやり方をベースにしていますし、いくつかの項目を確認し、評価の方法も異なることを擦り合わせしました。ディレクリエイティブは、ファッションスクールではなく、クリエイションとディレクションを学ぶ場です。主に社会人を対象にし、オールジャンルで考えることができます。
生徒はホームページやSNSで募集し、様々な媒体で開講する記事が出た際は、実際に何をやるんですかと問い合わせもありました。メソッドそのものは口伝なんです。教科書が存在しているわけでなはく、セントマーチンズで学ばないと分からない。チューターの役目は、一人ひとりに向き合うことで、「伴走する学び」だと思います。

――昨年7月に第1期生の授業がスタートした。
2クラスで合計18人が参加しました。異業種に従事してファッションデザインに挑戦したいという方もいましたが、絵本、茶室、ギャラリーの運営など、人それぞれに創作を発展していって面白かったです。初めにマインドマップという作業を行って、テーマを見いだし、それを元に、コラージュ、模写をやるとなると、なかなか手に付かない。普段、描かない人は絵が描けないと。うまい下手じゃないよと伝えるのですが、日本の教育で学ぶ、写実的な描き方が出来ないということなんです。
「これで合ってますか?」と何度も聞かれ、正解を求める傾向が強かったです。クリエイションを発展させることに答えはありませんし、教えることではないんです。課題を強制しませんし、生徒が自分の中にあるものを抽出することが全てです。
面白い取り組みは、以前、一緒に展覧会を企画した建築家の一人に参加してもらったこと。「編む建築」というコンセプトを発展させ、ニットと竹を掛け合わせたインテリアプロダクトの構造をデザインしました。2期生として続けて完成度を高めていて、出来上がったら発表して受注生産を目指しています。
――今後の展開は。
1月からオープンキャンパスも行っていて、4月下旬から5月中旬には3期生がスタートします。一般向けのコースを続けながら、企業と組んで、社員のスキルアップに役立ててもらいたいと考えています。

《記者メモ》
記者もディレクリエイティブの過程を体験した。最も興味を引かれたのは、チューターとしての江角さんの新しい一面。様々な個性の生徒が集まり、説明されても思うように作業ができない人が多い中で、一人ひとりの状況を受け入れ、「伴走」していた。客観性を持ち、相手が持っている良さを引き出す能力にたけた方だと思う。
一つのキーワードから自分の興味や好きなことに引き付けて考えるマインドマップがデザインの根本になるのだが、一人だと収拾が付かなくなり、行き詰まる。江角さんは「ここを掘り下げたら何か見つかるかも」と助言するだけだが、凝り固まった脳みそがほぐれ、ゴールにたどり着けた。デザインのプロセスを学ぶ良さは、能動的に考える脳みそを作ることなのだと実感した。
(須田渉美)
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