<チ。> 真理は時に残酷な現実をもたらす…ピャスト伯の慟哭を呼んだ「知ること」の怖さに視聴者は涙
アニメ「チ。-地球の運動について-」(毎週土曜深夜11:45-0:10、NHK総合/Netflix・ABEMAで配信)の第9話「きっとそれが、何かを知るということだ」が11月23日に放送された。本作は魚豊による同名漫画を原作としたアニメ作品。地動説の可能性を信じ、証明することに自らの信念と命を懸けた者たちの物語が描かれていく。今話では金星の満ち欠けで地動説の証明にまた一歩進んだが、一方でピャスト伯(CV.ふくまつ進紗/壮年:CV.浪川大輔)の人生を捧げた“完璧な天動説”の完成が否定されることになってしまった。(以降、ネタバレが含まれます)
“満ちた金星”がピャスト伯に突きつけた残酷な真理
地動説という宇宙の真理を証明するために命を賭け、知識と想いをつないでいった先人の研究者たち。真理を知るというのは、そこに命を賭けるだけの感動があったからだ。ただ、ときとして真理を知ることは感動や喜びだけでなく、残酷をもたらすこともある。今話、ピャスト伯の身に起きたのはまさにそうした出来事だった。
前話で惑星観測の記録を閲覧するためにピャスト伯と面会したバデーニ(CV.中村悠一)、ヨレンタ(CV. 仁見紗綾)、オクジー(CV.小西克幸) の3人。ピャスト伯が人生を捧げた探究を否定するために資料を貸せと言っているに等しく、結果、怒りを買うことになってしまう。回想シーンでは、ピャスト伯は恩師と言える教授から宇宙の完成を託されてもおり、彼1人ではない人生の重さを考えれば当然と言える拒絶だったろう。
しかし翌日、ピャスト伯は金星の観測を条件に、資料の閲覧を許可すると3人に告げる。満ちた金星など存在しない。かつて見たものは見間違いだったという確証を得たいがための心変わりだったが、結果的にこれが残酷な真理を自分に突きつけしまうことになる。オクジーは満ちた金星を確認し、地球中心の宇宙論はこれで前提から間違っていたことが証明されてしまったのだ。
ただ、ピャスト伯はこの結果を想像していたのかもしれない。いくら続けても完成しない天動説の宇宙に加え、視力のよさが1つの才能であったピャスト伯にとって自分の目を疑うことはできなかったのだと思う。そして、自分たちの仮説が間違っていたとしても、真理を知ることへの渇望は止められなかったのだろう。
利己的なバデーニは慰めもなにもなく理詰めで追い討ちをかけてしまったが、もしこの場にフベルト、ラファウがいたのなら、きっと「不正解は無意味を意味しない」と言葉をかけていただろう。ピャスト伯の人生の終着点は、そう思わずにはいられないシーンであった。
文字は奇跡――“知ること”を求めだしたオクジー
「きっとそれが、何かを知るということだ」という今話のタイトル。1つはピャスト伯の悲しい結末につながる言葉だったが、後半では感動を示す言葉にもなっていた。そのきっかけとなったのは、オクジーがヨレンタに聞いた「文字が読めるってどんな感じなんですか?」という質問だ。
「文字はまるで奇跡」「時間と場所を超越できる」「200年前の情報に涙を流すことも、1000年前の噂話に笑うこともある」と、文字を読み、過去を知ることの感動を目を輝かせて語るヨレンタにオクジーは衝撃を受ける。
今まで自分の道を人に委ねてばかりで、ただ巻き込まれてきただけのオクジーだったが、ここまでの経験が彼の中にも「何かを知る」ということへの興味や欲求を生んだようだ。何より「満ちた金星を見たい」と自分の意志でしっかり言ったのは、地球が底辺ではないと信じたい、自分も真理を知りたいと思ったことが分かる象徴的なシーンであった。
惑星逆行の解明の次は、満ちた金星の確認。バデーニは着実に地動説の証明に近づいてきている。膨大な観測記録を得て、この先は1人で研究をしたいというバデーニに、ヨレンタも今の自分に協力できることはもうないと自覚して、地動説の完成を彼に託した。
静かに淡々と描かれていく本作だが、語れるドラマの激動は大きい。「チ。を観て宇宙のことを考えたり、深海のことを考えていたら、泣けてきた。 世の中は知らないことだらけ」「ピャスト伯の気持ちを思うと泣けるが、最期に真理を知る事ができて良かったのかな」「新しい知識でこれまでの考えを破棄しないといけない可能性もある。それが真理の怖いところ」など、今話もまた胸に刺さった視聴者の感想が集まっていた。
◆文=鈴木康道
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