《ちょうどいいといいな ファッションビジネスの新たな芽》デザイナー・髙島一精さん 一人ひとりの声を聞いて届ける
デザイナーの髙島一精さんはゴールデンウィークに、東京で初の個展を武蔵野市吉祥寺の「にじ画廊」で開催しました。4月上旬には、初の絵本『ねこ専門店の注文書』を発行しました。前職で「デザイナーブランドのビジネスを一通り経験した」という髙島さんが「新しいことをやりたい」と取り組んでいる現状を伺いました。
ファンに近い距離で
イッセイミヤケに入社し、05年から「ネ・ネット」「にゃー」のデザイナーを担った髙島さん。27年務め、ブランドの休止により20年に退社しました。現在は個人で活動しています。
19年に始めた「This is not a cat.」では年2回ほど、鎌倉などで個展を開催します。黒一色で描いた動物のドローイングや立体の作品、関連するTシャツや雑貨も制作して販売します。また、毎月6、7型の新作の洋服を、オンラインで受注販売します。メインは女性向けですが、ユニセックスで着用できるものが多く、約2カ月で生産して配送します。顧客の9割は女性で、以前からのファンが中心です。
新作発表の際は、インスタグラムでライブを行い、髙島さん自ら試着して説明し、視聴者の質問に応えます。受注販売を繰り返す中で「文章をたくさん書いても伝わりきらないことが分かった」からです。DMやメールも活用し、一人ひとりに対応するのは大変ですが、「お客様との距離がすっごい近くて、とても喜んでくれるから僕もうれしい」そう。楽しさとともに、確実に届く物作りだと感じています。
物作りの原点
デザイナーに専念していた時代とは異なり、活動の幅が大きく広がりました。そのきっかけは、個人での活動を始めた当初、「モジャ」というキャラクターのワンポイント刺繍のTシャツを作ったことです。インスタグラムで「欲しい人いますか?」と投げかけたら、想像以上の注文があったそう。そこから服作りを再開し、目の届く範囲で求めている人に届けることに、物作りの原点の面白さを実感したそうです。
リアルのイベントには、インターネットを通じて会話をしてきたお客様と、初めて会う機会にもなっています。熊本や福岡の百貨店では催事販売を行い、大阪では作品の展示とともにワークショップも開催してきました。縁があってつながった地方や郊外の地域に魅力を感じています。
初めての絵本は、行動することの大切さや「一歩踏み出してみるといいことがあるよ」との思いを込めました。ブランドのあり方や自分の役割を決めつけることなく、時代の空気やできることを見極めながら、自然体で緩やかに軽やかに活動しているように感じます。
■ベイビーアイラブユー代表取締役・小澤恵(おざわ・めぐみ)デザイナーブランドを国内外で展開するアパレル企業に入社、主に新規事業開発の現場と経営で経験を積み、14年に独立、ベイビーアイラブユーを設立。アパレルブランドのウェブサイトやEC、SNSのコンサルティング、新規事業やイベントの企画立案を行っている。
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