AJIOKAの味岡社長 最高水準の物作りで「日本」を表現
全国の百貨店に卸販売を中心にしてきた会社だが、オリジナルブランドの高級ライン「GANZO」(ガンゾ)を育成する目的で10年前から直営店事業を展開している。1月30日、ガンゾの直営4店目を東京・銀座3丁目に3階建ての路面店で開店した。銀座出店は長年の目標だった。国内の皮革製品は海外ラグジュアリーに押され気味の中、歴史と伝統、職人技を生かし「日本」をブランディングの中軸に、国内はもとより世界で飛躍する決意は強い。
「ガンゾ」銀座出店、ブランドの世界発信
――ガンゾ銀座店を開店した狙いは。ガンゾは国産のレザーグッズブランドで、これまで本店の表参道店をはじめ、六本木、大阪と大都市に出店してきました。銀座への出店は5年前から物件を探し続けてきましたが、場所、サイズ、家賃など条件に合う場所が見つかったことで決断しました。コロナ禍でインバウンド(訪日外国人)需要が大幅に減少している中での出店ですが、大谷石を使ったエントランスなど「裏銀」と言われる銀座の華やかで大人の雰囲気になじむように、ガンゾの持つディテールへのこだわりや奥行きを体現する店舗として「銀座にこんな店があったらいいなあ」と思える店に設計しました。
1階は定番アイテムを販売する売り場と職人のワークスペースを配置して、オーダー受注したアイテムなどを制作しています。職人技を実際に見ることができるのでブランドへの愛着がより深まるに違いないだろうと思います。3階はオーダールームで、大理石のオーダーテーブルとオリジナルのソファが温かく顧客を迎え入れます。銀座という歴史と独特の街の雰囲気に溶け込み、ブランドの世界を表現する、長年つくりたかった店です。
――開店後の状況は。ホームページなどを見てわざわざ来店するファンも増えてきました。店舗限定の受注生産品も扱っているので、ガンゾが大好きな顧客が立ち寄ってくれる場になると思います。やがてインバウンドも戻って来ると思いますので大いに期待できる店です。
ガンゾはニッチな商材を扱っており全国どこでも出店するという訳にはいきませんが、今後、名古屋に出したいと考えています。路面店ないしは路面店感覚の店を出す計画で、出店先を検討しているところです。
――会社全体の状況は。コロナ禍の影響は大きく、今期(21年3月期)は4~12月の9カ月間の売上高累計は前年同期比28%減でした。多くの経営者がそうだったかと思うのですが、昨年春のコロナ第1波の時には従業員の安全を守る上で、どのようなレベルの処置が必要なのか分からず、かなり悩みました。業績としてもマイナス幅の数字が読めず大変苦労しました。
当社のアイテムは不要不急の商材であり、社会情勢が不安定な時期には常に大きなマイナスが出ます。今回のコロナ禍ではリモートワークが普及したことにより、特に名刺入れなどビジネスシーンを想起させる商品群は売れにくくなりましたが、元々トレンドの波が多かれ少なかれ存在する市場なのでその範疇(はんちゅう)だと思っています。コロナ禍で出かけるシーンが少なくなって業界全体ではバッグの需要も減少傾向ですが、当社の場合はバッグの売れ行きが良くガンゾと「エポイ」は比較的好調で、特に目立った商品があった訳ではないですが、高額品ほど良く動いた印象です。
――コロナ禍をどのように乗り切ろうとしていますか。コロナ禍による業績の落ち込みをカバーするには2年は要するだろうと、かなり早い段階に予想しました。2年という期間をかけながらどのようにバランスを取るか検討しています。コロナ禍を吹き飛ばす特別の知恵は浮かばないですが、この先5年はかかるような取り組みを1年でやりきるような大きな経営改革に取り組んでいます。今年度についてはまずPLの改善、来年度にキャッシュフローを元の水準に戻すという構えで、収益改善策を2段階に分けて取り組みます。来年度(22年3月末)には経営の健全な形で収益を確実に出したいと考えています。具体的には対面販売の圧倒的な機会損失を埋めるために、インターネット上やテレビ通販で購入できる商品を一時的に増やすなど、消費者が家にいる時間に接触できる情報量を「質より量」という意識で増やしてきたつもりです。まだまだ足りていないという実感ですが、値引きに走らずにフェイスを増やせる範囲としては及第点かなと思っています。
もちろんコロナ禍で従業員も不安がっている時期ですので、ビデオ朝礼などデジタル技術を活用して自分の言葉で語りかけるコミュニケーションを大切にしてきました。その結果、結束がより強まってきたと実感しています。
歴史と職人技で自社ブランドを育成
――ECの状況は。オムニチャネル化が注目され始めた頃から、リアルとECを一緒にした販売戦略を続けてきました。ECは昨年の春の緊急事態宣言下では80%増、その後も安定して20%増以上で推移しています。EC比率はブランドによって異なりますが、今期は25%に迫る勢いです。元々、OMO(オンラインとオフラインの融合)を戦略として進めてきた上に、今回のコロナ禍による顧客がリアル店舗で購買しにくい分が上乗せになっただけと理解しています。あえてECを強めるという考えはありません。実店舗での体験価値はインターネットよりもはるかに高く、そういう意味でも実店舗を大切にした取り組みを強めます。
――会社の強みは何ですか。高品質な物作りです。製造の品質は世界的に見ても最高レベルを目指せる水準にいると自負しています。そして、企画生産から販売まで一貫して行える体制とシステムを確立していることは、ブランドを育てていく上でも非常に有利な点です。ブランドが余程強いクリエイションや付加価値を持つのであれば商品企画や生産を外注してもいいのでしょうが、販売ノウハウだけでブランドを構築するやり方は5年、10年は持つにしても100年続けることはできない。この考えの下に、企画・生産・販売の一貫システムを続けてきました。半面、各業務が人にひもづいており、一つの業務がその人に集中しているという点は改善すべきだと考えています。
2番目の強みは歴史です。創業から104年という歴史が刻み込んだストーリー性や人脈、様々な人との関係性は数字に表せない大きな資産です。業界は海外ラグジュアリーブランドに押されているのが現状で、意識しようがしまいが競争相手は常に海外のブランド群です。
――海外勢に対して強みは。海外ラグジュアリーブランドと比べての優位性は「東京に拠点を持っている」ことです。今、世界的に日本ブームで、日本は知的で控えめでというイメージを持たれています。欧州勢の豪華で、華やかで、正統派とは異なって、東京拠点という点を独自性として表現できれば、欧州勢には負けないブランドを構築できます。過度の装飾性を避け、質実剛健で美しいという美的感覚をうまく落とし込むことができれば、グローバル市場でもニッチな存在感として必ず通用するだろうと思います。
――社長に就任して10年。イタリアから帰ってきてすぐに社長に就任しました。この10年は、ひとえに自社ブランドの育成という価値の転換に努めてきました。過去に百貨店やライセンス商品に依存し、マーケットや時代の動向やライセンサーの変化に大きく影響を受けて売り上げを落とした時期もありました。新ブランドを出すことが成長の軸足と考えると常に新しいことを追い続けなければならない。社長に就任以降は古い時代から良い物作りをしてきたことに自信をもって、それを徹底的に伸ばす戦略に方向転換しました。これをプラスの価値として既存ブランドを徹底的に磨き上げてきました。
この結果、コロナ禍の影響を受けるまでは右肩上がりを続けてきましたが、当面は今ある課題をしっかりクリアすることに集中します。特に既存ブランドのポテンシャルは高いので、伸ばす戦略を強めます。ただ、それぞれのブランドが持つ売上高の適正規模以上をやるべきではないと考えています。超えると飽きられます。ガンゾの適正規模は国内では20億円で、それを超えるには越境ECをはじめとした海外での事業展開がカギです。海外含めて30億円規模が一つの目安だと考えます。
――今後の成長戦略を。昨年暮れから越境ECをスタートしました。やり始めたところでまだまだ小さなパイでしかないですが、海外向けの売り上げは今後、最も重要な伸び代と考えています。高感度・高品質なブランドであることを認知してもらうためにも、カスタマーサポートにしっかり取り組みながら越境ECを確立させることに注力したい。「日本」というキーワードでブランディングに取り組み、欧州のラグジュアリーブランドとは少し趣の異なるものとして、独自のニッチなポジションを築くことができればグローバル市場でも確実に共存できると考えています。
■AJIOKA
1917年2月創業、104年の歴史を持つ。長い年月をかけて培われた物作りの高い技術と革製品の専門化としての経験を根幹に、品質の高さという普遍的でタイムレスな価値と新しいスタイルの追求というファッションの本質とを、同時代に生きている多くの人々に向かって発信している。大事にしていることは「自力本願」。他人任せにしないで、自分たちの力で自ら進んでやること。100年続いた事業を次の100年につなげるための持続可能性を追求する。「世界最高水準の物作り」を自問自答し続け、市場変化の中で置き換えの利かない存在を目指している。10年に社長就任と同時に社名をAJIOKAに変更した。オリジナルブランドはガンゾ、フィーコ、エポイ、コットーネ、エアリスト。ほかにライセンスブランドを展開中。
《記者メモ》
昨年秋、ガンゾから「RINATUS」(リナトゥス)プロジェクトを試験的に立ち上げた。革製品が本来持つ持続可能性を追求しながら、顧客の愛着ある品物にガンゾの職人によって形を変え新たな物へと生まれ変わらせる。バッグをポーチに、ベルトを時計用になど、思い出や愛着がこもった品物をよみがえらせて「革製品のだいご味である経年変化を新しい形で楽しんでもらえる喜びを提供したい」との思いからだ。受け継いできた職人技で新たな生命に生き返らせるというリナトゥスは、歴史と伝統を積み重ねてきた会社だからこそできる技だ。
社長に就任した時が27歳。38歳になった今、「古くから良い物作りしてきた」ことの価値を再確認し自社ブランドの育成に全力を込める。日本らしい知的で控えめな価値観を表現する日本製の皮革製品を世界に発信するのが夢だ。そのためにも「顧客は誰か」をしっかり見据えながら、時代性を失わずに世界と伍(ご)して戦える力を着実に蓄える。
(小川敬)
(繊研新聞本紙21年3月8日付)
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