『銀河の一票』P「政治は生活。放送後に投票率を0.1%でも上げたい」
4月20日から放送を開始したドラマ『銀河の一票』(カンテレ・フジテレビ系)。元議員秘書の星野茉莉(黒木華)がスナックのママ・月岡あかり(野呂佳代)を東京都知事にするために奮闘する政治エンターテインメントドラマになっている。「政治」「選挙」と聞くと壁を感じる人は多いが、本作では政治が私たちの生活と地続きであることを示す。従来の政治ドラマとは異なるキャッチーさが印象的な本作のプロデューサーを務める佐野亜裕美氏に、制作の背景など話を聞いた。(前後編の前編)
◆投票率を0.1%でも上げたい
――「政治は生活」というテーマが大きな軸になっています。そもそも、このテーマにたどり着いたきっかけは?
佐野 2020年の頭にアメリカに留学していた時に、ホームステイ先の母親と中学生の子どもが、夕食の場でトランプ大統領の演説を見ながら議論していたんです。「アメリカでは子どもも政治の話をするんですね」と言ったら、「政治は生活よ」と返されて。その言葉がずっと残っていました。
――ある種のカルチャーショックですね。
佐野 「飲み会の場で政治と宗教の話はしないようにね」と言われるように、日本では政治の話をすること自体をタブー視する空気があるじゃないですか。もちろん、政治に関心を持ち、「政治を変えたい」と考えている人は少なくないと思いますが、投票率は下がる一方。この一見矛盾した現象が起きる理由の1つとして、「自分たちの生活と政治とが接続しているように感じられない」ということがあるのではないかなと。
――「政治は生活」という意識が低いのかもしれませんね。
佐野 政治における正解はありません。ただ、「政治は生活」であることは間違いありません。だからこそ、政治に関する議論や対話は必要です。そのことをエンターテインメントとしてドラマで描くことで、「政治は生活」ということを身近に感じてもらいたい。そして、「放送後に投票率を0.1%でも上げること」を目標に掲げて本作を制作しています。
◆イデオロギーは一旦置いておく
――従来の政治ドラマとは異なり、明るい雰囲気の内容ですね。
佐野 政治ドラマと聞くと、スーツを着た中高年男性たちが絨毯の敷かれた部屋で、駆け引きとか、策略とか、裏切りとか、そういったことを繰り広げているイメージが強いかと思います。もしくは、「主人公が政治家を目指して奔走する」みたいな内容が多く、政治ドラマが二極化しているように感じています。このどちらにも当てはまらない新しさを目指しました。
――政治を題材にしたドラマは視聴者から敬遠される傾向があります。本作を制作するうえで注意していることは?
佐野 「イデオロギーの対立の話にはしない」ということは意識しています。右とか左とか、特定の政党が正しいとか間違っているとか、そういう描き方にしてしまうと、見ている人に「自分とは考え方が違うな」とはじかれてしまうので。
――確かに「政策や考え方がぶつかり合う」というシーンはありません。
佐野 イデオロギーの対立の話は一旦なくして、「暮らしの延長線上にある政治がある」「政治が変わるとどれだけ生活が変わるのか」ということを注力して描きたいなと。また、「こんな人が市民の代表になってくれたら社会は変わるかも」みたいな期待感を与える作品にしたいと思いました。
◆選挙の常識を描く
――選挙の仕組み、流れを丁寧に描いている印象を受けました。
佐野 私自身、取材のため、選挙ボランティアとして、いろんな政党や政治家のところに行きました。そこで有権者に電話して投票を呼びかける電話作戦を“電作”と略したりなど、普通に暮らしていると知らない“常識”をたくさん知りました。
――“電作”とは初めて聞いた言葉です。
佐野 従来の政治ドラマでは、そういう細かい部分はあまり拾わない気がしていて。あかりは政治には無知なので、言い換えれば「なんで?」「それってどういうこと?」と疑問を持てる存在です。彼女の疑問がそのまま視聴者の疑問になっていく構造にして、これまであまり描かれてこなかった選挙の常識を描きたいと考えています。
――“説明”をストーリー内に入れるとテンポ感が悪くなるなどリスクも多そうですが。
佐野 どうやってドラマの中に自然に組み込むかはすごく苦労しました。脚本担当の蛭田直美さんとも、「“説明”ではなく“物語”として成立させるにはどうしたらいいか」はかなり話し合った部分です。
◆選挙=祭り?
――主人公の茉莉が出馬するのではなく、影で当選をサポートする、という切り口になった背景は?
佐野 与党候補の選挙事務所で2週間ボランティアスタッフとして参加した時に、あまり戦略らしい戦略がないまま選挙が始まり、そのまま終わりました。「与党の公認の現職議員の選挙ですらこんなものなのか」と驚いたのと同時に、「選挙参謀の存在次第ではいろいろな戦い方ができそう」と考えたことが選挙参謀を主人公にしたきっかけの一つです。
――選挙ボランティアをした際に他に感じたことは?
佐野 大変ではありましたが、高揚感を覚えました。自分の人生でもこの高揚感と似たような感覚があったな、と思い返してみると、それが“祭り”だったんです。朝から晩まで無償で手伝うことって、なかなかないじゃないですか。ただ、何とも言えない充実感が選挙にはあり、そういった“盛り上がり”みたいなのも作中に入れたいなと。
――選挙をエンタメ的に描くことには否定的な見方もされそうですが。
もちろん、選挙にばかり注目が集まり、選挙活動がお祭り騒ぎみたいになることは、選挙の本質を見失わせるリスクもあります。ただ、今は本当に投票率が低いですよね。「選挙にはお祭りに似た盛り上がりがある」ということを表現して、まずは選挙・投票に関心を向けてもらうための第一歩になればと思っています。
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