『銀河の一票』黒木華 (C)カンテレ

『銀河の一票』P「自己責任論は否定しよう」政治ドラマに込めた思い

2026.06.01 18:03
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毎週月曜22時から放送されているドラマ『銀河の一票』(カンテレ・フジテレビ系)。 元議員秘書の星野茉莉(黒木華)がスナックママ・月岡あかり(野呂佳代)を東京都知事にする姿を描いた政治ドラマだ。選挙の仕組みに加え、いろいろな社会課題が描かれるなど、日本の現状を反映した内容にもなっている。さまざまな気付きを与えてくれる本作のプロデューサーを務める佐野亜裕美氏に、社会課題の描き方など話を聞いた。(前後編の後編)

◆「自己責任論は否定しよう」

――毎話いろいろな社会課題が描かれていましたが、各話を描くうえで意識していることは?

佐野 前提として、本作は「政治は生活」ということを伝えることに注力しています。そのため、特定のイデオロギーに基づいた主張を描いて、視聴者に「ちょっと感覚が合わないかも」と拒否反応を起こされないようにしました。

――第4話では生活困窮者の現状が描かれていましたが、これも“イデオロギーの1つ”という見方をされそうですが。

佐野 いろいろな考え方があって良いと思いますし、何か特定のイデオロギーの否定をしたいわけではありません。ただ、1つだけ「自己責任論は否定しよう」ということは決めていました。

――それはなぜですか?

佐野 誰だっていつ病気になるかわからないし、いつ働けなくなるか分からないし、いつ“穴に落ちる”のかも分からないじゃないですか。そうなった時に「あなたが穴に落ちたのは全部自己責任です」と言われてしまう社会だと、不安で生きていけないと思うんですよね。近年、自助・共助・公助という言葉を聞く機会も増え、個人的に危機感を持っていて、自己責任論という考えは否定したいなと。私自身も何度も穴に落ちてきましたし。

――第3話では低賃金で働く介護職員、第5話では障がい者雇用などが描かれていました。毎話で登場する社会課題はどのように決めているのですか?

佐野 「この社会課題を描きたい」からスタートしているわけではなく、「このキャラクターはどういう人生を歩んできた人なんだろう」ということから考えています。例えば、あかりという人物を掘り下げていった時に、「この人はきっと、自分のためより、誰かのために我慢したり、頑張ったりする人なんじゃないか」という話になったんです。

――社会課題というよりは、登場人物の背景を軸にエピソードを決めていったのですね。

佐野 そうです。そこから「じゃあ今、何を抱えているんだろう」「なぜ都知事選にすぐ出られないんだろう」って考えていく中で、鴨井とし子(木野花)というキャラが生まれ、認知症や介護、成年後見制度の問題につながっていきました。

◆生活困窮は対岸の火事?

――何話にどの社会課題を描くのか、という順番も重要そうですが。

第4話は生活困窮者がメインでしたが、実は序盤に持ってくる予定はなかったんです。というのも、制作のために、いろいろ社会課題の取材をさせてもらっているのですが、その中でとある取材先から「生活困窮者問題は多くの視聴者にとって“対岸の火事”で、自分事としては考えてもらいにくいテーマだから、早めの回で取り上げないほうが良いのでは?」とアドバイスをもらいました。

――生活困窮者問題は視聴者から共感されにくい、縁遠いテーマだと。

佐野 はい。その時、私は「なるほど。確かにそうかも」って一回納得してしまったんです。ただ、それを脚本の蛭田直美さんに話したら、「みんな、自分は生活困窮しないと思っているんですか?」と驚かれたんです。私は蛭田さんが驚いたことにも驚き、生活困窮者のエピソードの描き方などをいろいろ議論した結果、第4話で描くことにしました。また、この時の議論の内容も「このままドラマにしよう」となり、登場人物のやり取りに反映させています。蛭田さんにはいつもたくさんの気づきをもらいます。

――ドラマ制作の場での議論が、そのままドラマでも描かれているのですね。

佐野 劇中に茉莉とあかりが意見を交わすシーンがありますが、実際に制作陣が感じている様々な“違和感の捉え方”はすごく大切にしています。そういった議論を繰り返す中で、当初の作品のイメージとは変わってきた部分もありますが、「こういう作品がやりたかったんだ」と思っています。

◆チームを毎回変える理由

――佐野さんが手掛けた『エルピス-希望、あるいは災い-』(同、2022年)もそうですが、政治をエンタメで描くことの意義はどのように考えていますか?

佐野 私はドキュメンタリーがすごく好きなんです。でも、ドキュメンタリーって本当に見られないんですよ。ものすごく時間もお金も労力もかけて作っているのに、視聴率が1%を切ることも珍しくありません。

――ドキュメンタリーを見るのはなかなか腰が重いですからね…。

佐野 いろいろな社会課題をエンターテインメントとして描くことで、それらに興味を持ってもらう入口になればと。ちょっとでも関心を持ってもらい、真摯に作られているドキュメンタリーがもっと目を向けられるようになったらいいなと勝手に思っています。

――橋渡し役になれれば、と思っているのですね。

佐野 はい。本作で選挙・政治の全てを描いている、なんて1ミリも思っていません。あくまで興味のきっかけになれば良いですし、そういった役割をエンターテインメントが担えれば良いんじゃないかと思っています。

――ちなみに、本作は『エルピス-希望、あるいは災い-』以来となる、実に約4年ぶりとなるプロデューサーを務めることでも注目を集めています。このことはハードルに感じていますか?

佐野 他の取材でも「『エルピス』以来の作品ですが~」と聞いてもらうことが多いのですが、正直なところ「そんな風に見ている人がいるんだ」と驚いてばかりです。

――あまり頭になかったと。

佐野 私自身、終わった作品のことを全部忘れちゃうんですよ。『エルピス』のスタッフと会っても、当時の話とか全然しませんし、例えば取材で話題にあげていただいても、「そんなシーンあったっけ?」となることも多くて…。期待通りの回答ができずに本当に申し訳なくなっています。

――そうだったんですね…。

佐野 あと、あまり過去の作品を覚えていない要因として、作品ごとにチームを変えていることも大きいのかもしれません。だから、『エルピス』について日常的に話す機会も少ないため、忘れてしまっているようにも思います。

――なぜ毎回チームを変えるのですか?

佐野 題材の特性や出演していただく役者さんごとに、そのとき一番良いものを作れると思うチームをゼロから集めているからです。また、全然違うメンバーで制作すると、「毎回違う国に行く」みたいな新鮮さがあって楽しいんですよね。

――最後に後半戦の見どころについて教えてください。

佐野 7話以降は、本格的に選挙戦が動き出します。今まで「この人、絶対何かあるよね」と思われていたけど、あまり描かれてこなかった人物たちが一気に動き始める。かなり怒涛の展開になると思います。

――どのような結末になるのか楽しみです。

佐野 実は「最終的にこういう場所に着地したい」という地点だけは、最初からなんとなく決めていたんです。でも、途中で物語は想像以上に広がっていって、最初に考えていたものとは全然違う方向にも行った。それなのに、最後にはちゃんと“最初に見えていた場所”に戻ってきた感覚があって。そこは自分でも、「物語って面白いな」と思いました。

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