にぼしいわしのいわし(左)「60分の単独ライブをやり切った私たち。この日を思い出して、また頑張れる」

「THE W」女王を襲った重圧 東京ドームの始球式、TVの収録…「私の味方でいてくれる人は…」【伽説いわし連載:しょぼくれおかたづけ 第2夜】

2025.04.23 17:06
にぼしいわしのいわし(左)「60分の単独ライブをやり切った私たち。この日を思い出して、また頑張れる」

にぼしいわし・伽説(ときどき)いわしによる、日々の「しょぼくれ」をしたためながら、気持ちの「おかたづけ」をするエッセイ「しょぼくれおかたづけ」。「THE W」8代目女王の座を経て、次々に舞い込む夢のような仕事。追い込まれる日々の中、慣れないそれらをひとつひとつをこなしてみるも、積もり積もるのはたくさんの「わからなさ」だった。おもしろい、がわからない。売れる、がわからない。そして、そんな自分に味方なんているのか、がわからなくて……。

===

第2夜 「いるいるいる」

左目から涙が出て、眉間に向かう。ゆっくりゆっくり眉間の坂を登っていく涙。重力に逆らいながら頑張って登っていく私の涙。眉間の一番高いところを越えたら一気に重力に任せてスピードをあげ、右目に向かう。その後、左目の涙が、右目で合流し、右目の涙を連れて枕に沁みる。

右の側頭部全体が濡れている感じがして、両目分の涙の量の多さに我にかえる。

外では子供達が騒いでいる。学校へ行く時間みたいだ。

鳥がご機嫌に鳴いている。おいしいものが見つかったみたいだ。

工事現場のおっちゃんが指示を出す大声が聞こえる。また誰かが怒られているみたいだ。

私は泣いている。毎日何だかしんどいみたいだ。

それでも、壁の方には向いていないし、布団も頭からかぶっていない。上京してから模様替えも一切していない、ずっと変わらない、真っ黒のテレビ画面をぼんやりと見つめている。別にこれは布団から飛び出せなくなることを恐れて、ではない。飛び出す意欲はある。

あー、嘘。本当は少し、ない。壁の方を向いてしまったら、布団を被ってしまったら、もう私はここから出られないことは予想済みである。

潤んだ目で見慣れた部屋を見る。

うちのTVはでかい。おばあちゃんは目が悪いから、でかい方がいいと買った50インチのTV。形見として持ってきた。

自分の姿を見るにしては、このTVは大きすぎる。

全画面いっぱいの私なんて見れたもんじゃない。だからいつもTverで薄目を開けて見る。本当は見たくないけど反省のために見る。

自分が出ている瞬間は息が止まる。

ほら昨日も、見なきゃよかったと思ったところだ。

涙の御一行が左目からスタートし、右目で合流し、枕にて終着すると同時に、右の鼻が鼻水で完全に閉じられた。右の鼻から脳みその奥の方で、酸素が足りない痛みがする。それはどんどん広がって、頭蓋骨の内側まで鼻水で充満しているような感覚になって痛い。その間も右の鼻の分の呼吸を頑張って担っている左の鼻の穴は、口に呼吸の助けを求める。口呼吸も応戦し、鼻が、口が、頭が、どうにか私を生かそうとしている。呼吸をつかさどる臓器たちに申し訳なくなって、起き上がった。右鼻が「助かった」と言わんばかりに鼻水を垂らす。右の頭の奥はまだ詰まっている。座ったままティッシュに手を伸ばし、頭の詰まりを全部取るかのように勢いよく鼻をかんだ。

「慣れないところでよく頑張ってるね」なんて甘えたことを言える世界じゃない。慣れないところでも確実に成功することが当たり前な世界に来たんだと気がついた。

予想していたよりも、戦いは、優勝が注がれたあの日から始まっていた。

予想していたよりも、戦い方が見つかっていなかった。

お笑いライブでは観客の反応がすぐにわかる。

ウケたときに達成感を得て、また次もこのウケを得たいと思う。

なのにTVは反応がわからない。何がよかったのかわからない。何が悪かったかはちょっとわかる。でも「わかる」という意味ではわからない。手応えもなく帰ってきて、特に誰からも何の感想も言われなくて、これはよかったのか、悪かったのか、全くわからない。何も言われないということは多分悪かったんだなと思うしかない。

そう思ってくると、関わった全ての大人から「何もできない、とっかかりのない芸人」だと思われているように感じた。目線が怖い、しゃべったあとの沈黙が怖い、楽屋が怖い、スタジオが怖い、全部が怖い。私たちを応援している人なんて、きっとどこにもいない。

SNSで「ワンバン送球、残念でした」とコメントが届いた。

東京ドームでの始球式のことだ。

そんなこと、無視すればいい。私は野球選手じゃないし。

でも練習したくせに、ワンバンだった。やっぱり私は決めるところで決められなかった。

知らない誰かに、知ったような熱量で「お前は芸人になるべきではない」と言われているような気がした。TVに出るたびに、YouTubeを出すたびに「誰だよこいつら知らねえよ」とか「こんなにおもしろくないやついるの」とか、いろんな言葉をかけられた。向き合う強さも、スルーする可憐さも今はない。せめて目に入らないようにとポチポチ削除してたら、また鼻が詰まってきた。

私がこの世からいなくなったら、能天気にSNSに書いたやつは後悔するのだろうか。しないな。そんなやつ。でもわかってもらうにはそれしかないんじゃないか。また鼻が詰まってきた。

気分転換も必要だと音楽のライブに行った。

慣れないライブハウスに、音を楽しんでいる連中横目に、何が楽しいんだと思ってしまった。何でそんな自信があって、何がそうさせているのかと思ってしまった。

飲み会に行った。やっぱり何でそんなに楽しいんだと思ってしまった。何でそんなに人生うまくいってるんだと思ってしまった。

何でこんなに、みんなといるのに孤独なのだろうか。ずっとひとりぼっちだ。

そんなことをふと漏らすと、周りは言う。

「アンチばっかりやないから」「応援してくれている人のことを見よう」「興味のないふりしてめっちゃ心配してるよ」「ずっと味方だよ」

うるさい、わかってる。うるさいって言ってごめんなさい。でもうるさい。マジでうるさい。そんなこと、当たり前にわかってる。じゃあ今、私がこれだけ苦しんでいるこの闇から救ってくれよ。そんなこと言うならさっさと救ってくれよ。

これも八つ当たりだってわかってるけど。今いる味方が見えてなくて、孤独だって泣いている自分が悪いこともわかっているけど。でも本当にいないんです。私の味方でいてくれる人はいな

いんです。

何だ、ちょっと隠れてるだけだったのか

そんな中、西新宿でソロライブに立った。

ライブ制作団体のフェスの中で、私たちは60分与えてもらった。何をしてもいい60分。私たちだけの60分。ここにいる人たちは私たちだけを見にきている。土曜日の天気のいい、お花見日和。

出番前、「3人くらいやったらどうしよう」とスタッフさんにチョケた。

チョケたけど、本当にそうだと思っていた。

出囃子が鳴って、センターマイクに立った。

あ、いる。結構いるやん。いるやん!

私たちなんかにこんなに集まってくれている。

たくさん笑って、たくさん反応してくれた。

いるいる、ちゃんといる。いるぞいるぞ。

舞台に立ちながら、もしかして、と思う。

私が薄めでしか見れない番組も、大画面で爆笑して見ている人もいる。もしかしたら、みんなに「あいつはダメだ」と落胆されたであろうあの瞬間も「なかなかいいな」と思ってくれている人は、いるかもしれない。

今はちょっと、隠れているだけで。

今あるものに目を向けようなんてきれいごと、今の私にはちょっと難しい。

でもここまで現実が、これ見よがしに見せに来てるなら、しゃーなし、ちょっとそういうふうに考えてやってもいい。

たくさんの、愛がいる。

私はバカだから、また、明日には、簡単に、いないと思ってしまうだろう。

でも今日は、目の前に、確かに、愛がたくさんいた。多分じゃなくて、絶対にいた。

ありがとう。

だから、私も、あなたへのお返しとして、根気強く、いつづけてみようと思う。

関連リンク

関連記事

  1. 新垣結衣が語りに!“伝説の家政婦”タサン志麻さん夫婦に密着「たくさんの人の心にスッとしみこむはず…」<ふたりのディスタンス>
    新垣結衣が語りに!“伝説の家政婦”タサン志麻さん夫婦に密着「たくさんの人の心にスッとしみこむはず…」<ふたりのディスタンス>
    WEBザテレビジョン
  2. 東京03の超絶サクセスストーリー 全国ツアーだけで「1年食えるくらいはもらえる」
    東京03の超絶サクセスストーリー 全国ツアーだけで「1年食えるくらいはもらえる」
    WEBザテレビジョン
  3. <BLACKPINK>「あつまれ どうぶつの森」内に“BLACKPINK島”がオープン!MVのセットやステージを再現
    <BLACKPINK>「あつまれ どうぶつの森」内に“BLACKPINK島”がオープン!MVのセットやステージを再現
    WEBザテレビジョン
  4. 松井玲奈、大粒の涙…新型コロナ感染中の思い吐露「人生の中では一番苦しいぐらいの数日間」
    松井玲奈、大粒の涙…新型コロナ感染中の思い吐露「人生の中では一番苦しいぐらいの数日間」
    WEBザテレビジョン
  5. ジャニーズWEST中間淳太 “探偵”イメージの細身スーツで「小説現代」表紙に!推しミステリから自身の創作活動まで明かす
    ジャニーズWEST中間淳太 “探偵”イメージの細身スーツで「小説現代」表紙に!推しミステリから自身の創作活動まで明かす
    WEBザテレビジョン
  6. 瀬戸朝香、“なかなか良い感じ”7歳長女によるメイクSHOTに反響「優しくて自然な感じすごくいい」「娘さんお上手!」
    瀬戸朝香、“なかなか良い感じ”7歳長女によるメイクSHOTに反響「優しくて自然な感じすごくいい」「娘さんお上手!」
    WEBザテレビジョン

「ニュース」カテゴリーの最新記事

  1. 【「サツコレ2025S/S」写真特集】
    【「サツコレ2025S/S」写真特集】
    モデルプレス
  2. 川栄李奈・Hey! Say! JUMP山田涼介ら「ダメマネ!」チームが「ニノさん」出演 マネージャーがゲストの裏の顔解禁
    川栄李奈・Hey! Say! JUMP山田涼介ら「ダメマネ!」チームが「ニノさん」出演 マネージャーがゲストの裏の顔解禁
    モデルプレス
  3. 【漫画】「バレたんならいっそ…」不倫がバレた夫が決断したことは…?/サレてからモテます(3)
    【漫画】「バレたんならいっそ…」不倫がバレた夫が決断したことは…?/サレてからモテます(3)
    WEBザテレビジョン
  4. 【漫画】助けてくれる彼女は可愛いけど…。いつも“守られてる側”になる彼氏の複雑な感情/僕の彼女はデッカワイイ(5)
    【漫画】助けてくれる彼女は可愛いけど…。いつも“守られてる側”になる彼氏の複雑な感情/僕の彼女はデッカワイイ(5)
    WEBザテレビジョン
  5. 【漫画】「おまえさえいなければこの私が…!」表向きは娘を見守る優しい義母だが、実際はひどい扱いの毎日で…/婚約破棄された令嬢を拾った俺が、イケナイことを教え込む(23)
    【漫画】「おまえさえいなければこの私が…!」表向きは娘を見守る優しい義母だが、実際はひどい扱いの毎日で…/婚約破棄された令嬢を拾った俺が、イケナイことを教え込む(23)
    WEBザテレビジョン
  6. 「遅くまでお疲れさま」寒い中迎えに来てくれる愛らしい彼女の話が「こんな彼女がほしい」と話題に【漫画】
    「遅くまでお疲れさま」寒い中迎えに来てくれる愛らしい彼女の話が「こんな彼女がほしい」と話題に【漫画】
    WEBザテレビジョン
  7. メジロっちはかっこいいなぁ…書道教室に通うキジバトの様子を描いた漫画に「可愛すぎか」の声【漫画】
    メジロっちはかっこいいなぁ…書道教室に通うキジバトの様子を描いた漫画に「可愛すぎか」の声【漫画】
    WEBザテレビジョン
  8. 電車内の優先席に座っていると盗撮されSNSに晒された読者体験エピソードに「なんかスカッとした」の声【漫画】
    電車内の優先席に座っていると盗撮されSNSに晒された読者体験エピソードに「なんかスカッとした」の声【漫画】
    WEBザテレビジョン
  9. 清宮みいな、BIGリボンで可愛さUP!色白美肌きわだつビキニで魅了!<ミスヤングチャンピオン2025エントリーお披露目>
    清宮みいな、BIGリボンで可愛さUP!色白美肌きわだつビキニで魅了!<ミスヤングチャンピオン2025エントリーお披露目>
    WWS channel

あなたにおすすめの記事