夜ドラ「バニラな毎日」より

<バニラな毎日>制作陣が語るキャストのすごさ「蓮佛美沙子さんの手技と情感あふれるお芝居が最大の魅力です」

2025.03.09 13:30
夜ドラ「バニラな毎日」より

蓮佛美沙子が主演を務める夜ドラ「バニラな毎日」(毎週月曜-木曜夜10:45-11:00、NHK総合)が現在放送中。賀十つばさの同名小説をドラマ化した本作は、パティシエ・白井葵(蓮佛美沙子)と料理研究家・佐渡谷真奈美(永作博美)のコンビが大阪の小さな洋菓子店の厨房で始めたお菓子教室を舞台に、五感を刺激する“お菓子の魔法”がそこに集う人々のささやかな幸せを生み出していく様子を描く“スイーツ・ヒューマンドラマ”。

第7週の放送を終え、残すは3月10日(月)から放送される最終週を待つのみとなった。不慮の事故によりパティシエとして大事な右手を痛めてしまった白井は、静(木戸大聖)の歌に勇気づけられ、再びお菓子作りに向き合っていく。WEBザテレビジョンでは、制作統括・熊野律時氏、演出チーフ・一木正恵氏、企画・影浦安希子氏にインタビューを実施。改めて本作への思い、役者陣の魅力を語ってもらった。

自分を出せるお菓子教室の存在は貴重だと思いました

――本作をドラマ化しようと思った経緯をお聞かせください。

影浦 私は書店巡りをよくするんですが、平積みされている本の中ですごくおいしそうなすてきな装丁に惹かれたというのが一番最初のきっかけでした。登場人物が悩みや痛みを抱えている本はたくさんあると思うんですが、それを重すぎない塩梅で描いてらっしゃって。そういう登場人物たちと接する中で、主人公の白井自身も心がほぐれていくというストーリーが魅力的でした。佐渡谷さんという、“強烈だけど芯が温かいおばちゃん”に私自身が惹かれたという部分も大きいですね。

――そして映像化したい、と思われたんですね。

影浦 はい。家族だったり、会社であったり、それぞれの環境で自分の役割があると思うんですが、そういうものを取っ払ったこのお菓子教室の存在、自分を出せる場所というものがすごく貴重だなと。そしてそれが、夜ドラにも合うんじゃないかなと思い企画しました。

蓮佛美沙子さんは白井葵をこの上なく表現してくれました

――登場人物がとても魅力的に描かれているのが印象的です。改めて、キャスティングの理由を教えてください。

熊野 まず、白井葵というキャラクターの、すごく真面目で一生懸命でピュアなんだけれど、どこか不器用さがあるという部分を、蓮佛さんなら、的確に表現していただけるのではないかという予感がありました。蓮佛さんご自身もおっしゃっていましたが、育った境遇や環境は全く違うけれど、人間の本質的な部分で、すごく分かるとおっしゃっていて。蓮佛さんが持っているピュアでストレートな真っすぐさが、白井という役にぴったりはまるんじゃないかと思い、是非にとお願いしました。

永作さんは、キュートさと変幻自在の絶妙な距離感、そしてもちろん素晴らしい芝居の力をお持ちです。今回、佐渡谷というキャラクターは難しい役どころだと思うんですが、白井さんを振り回しながらも、優しくどこか違うところへ連れていってくれるような人物を魅力的に演じて下さり、すごく良かったなと思っています。

一木 当代随一の俳優お二人に演じていただき、本当にぜいたくな時間を過ごさせていただきました。蓮佛さんは、ガラス細工のような危うさと透明感と美しさで孤高のパティシエを表現してくれました。今回多くのパティシエの方に取材をしましたが、パティシエはものすごく重労働なんですよね。朝の7時から24時まで働いても間に合わないほどの仕事量をこなしていくうちに、いつしか心も体も消耗して、もう限界であると…そんな壊れてしまいそうな危うさを秘めた、白井葵という人をこの上なく表現していただき、白井葵さんと蓮佛美沙子さんは同一人物なんじゃないかと思うほどにはまっていて。蓮佛さんの手技と情感あふれるお芝居が、このドラマの最大の魅力になっていると考えています。

永作さんは本当に絶妙な距離感、絶妙な突っ込みと抑制。予測できない芝居は正に“感性のカタマリ”。白井さんに対して、いろんなところから彼女を笑わせようとしながら、ふわふわと漂うように演技してくださいました。そしてなんと言っても、私は永作博美さんの魅力というのは“ミステリアス”だと思っているんです。ちょっとやそっとじゃ本心を読ませない、善なのか悪なのか、天使なのか悪魔なのかという、裏腹な感じがこの作品の前半には非常に緊迫感を与えていると思っています。後半は一転して、白井を娘のように慈しむまなざしと、佐渡谷自身の弱さにも踏み込んで表現されていました。

大理石ボードは白井のパティシエとしてのこだわりです

――今回、パティシエである白井を演じる蓮佛さんは吹き替えなしで撮影をされたと伺いました。現場でご覧になって、いかがでしたか?

一木 鬼気迫る、ゾクッとするほどにすさまじいなというのが現場で見ていた時の印象です。特に第2週での「オペラ」作りでは、彼女の手技だけで11分、ずっとせりふもなく黙って作り続けるというシーンがありました。それを撮っている時は、“これはすごいものを撮っている”という感覚でしたね。

蓮佛さんには撮影の2ヶ月ほど前からパティシエの手技の練習を始めていただいて、道具や練習用のクリームなども全部自宅に持ち帰って毎日毎日練習してくださいました。そして今回、非常にリハーサルも重視したんですが、どこに何があるのかという、“自分の厨房を熟知している迷いのない動き”というものに関して妥協なくやっていただいたので、カメラアングルとしても一連で全て撮り切ることができたんです。それにより非常に緊迫感あふれる、情熱ややるせない切なさを叩きつけるような、気迫のこもった調理シーンになったと思います。

――劇中に出てくる厨房では、大理石ボードや立派なオーブンが印象的です。大理石は本物なんでしょうか。

一木 もちろん本物です。大理石がセットの中で1番高いと美術スタッフが言っていました(笑)。

熊野 白井のパティシエとしてのこだわりがシンボリックに現れているものとして、大理石の作業台が存在していますね。

一木 あとは、やはりオーブンの大きさと大理石のボードが、初期投資の際に身の丈に合うものとして絶対に成功する経営とは少し違ってしまっていたと。実はそれを象徴的に表しているものでもあります。

一瞬訪れる小さな奇跡をリアリティーを持って見せたかった

――今作での演出、見せ方のこだわりについてお聞かせください。

一木 この企画の素晴らしいところは、主人公が空洞化しないところだと思うんです。お菓子教室にやって来る生徒が抱える痛みを、主人公も一緒に傷ついたり怒ったりしながら、自分が抱える痛みと共鳴していて。その感覚を映像としてどういうふうに作っていくのかというところが一番大切だったのかなと思っています。

だからこそ、スイーツに関しては極限まで美しく、甘く、本当によだれがこぼれるような感覚で撮りましたね。一方、厨房という場所における他人同士の中で、どうしたら今まで誰にも言わなかったことを告白する気になるだろうかと。それを魔法にかかったような形ではなく、一瞬訪れる小さな奇跡を、優しくかつリアリティーを持って見せかったんです。

濃密に繰り広げられる密室劇の中で、一体どうしたらこの人間は心のよろいを脱いで初めて自分の痛みを告白するのかという部分を大切にしていました。どの瞬間に刺激を受けたのかということを登場人物の動きや表情で表現するために、特に俳優部、そして撮影部、照明部とも対話を重ねて作り上げて。ビターな人間関係と対比して、スイーツは限りなく優しく甘くと意識しましたね。

木戸大聖さんの魅力は“アンバランスさ”

――静を演じる木戸大聖さんの魅力を教えてください。

一木 年齢よりもすごく若く見える、けれども精神はしっかりと成熟しているというアンバランスさによるはかない魅力が素晴らしくて。その魅力を逃さないように撮ることを意識していました。静は非常にキーパーソンでしたので、彼の持つ一瞬の輝きを大事に撮らせていただきました。登場した際の芸能人・秋山静としての振る舞いと、恋愛依存のごとく見えるキャラは彼の心のよろいであり、実は誰よりもナイーブで傷つきやすい人。その繊細な芝居を、最初の本読みでじっくり話し合えたことがとても良かったです。木戸さんの柔軟に反応できるお芝居も、このドラマを力強く押し上げてくれました。

影浦 静は多面的な人物で、表から見ると華やかで軽く見える部分がありながら、実は白井の傷付いている真の部分に一番早く気付いていたと思うんです。人を見極める力や、人の芯を食うようなまなざしが木戸さんご本人にもあると感じましたし、魅力的な静を表現してくださいました。

――第7週では静の歌によって白井が勇気付けられ、また前を向く姿が描かれました。

影浦 歌に関しては、歌唱指導の方と何度も練習をしていただきました。もう声が枯れるんじゃないかと思うくらいに練習してくださって。歌うごとにどんどん静ができ上がっていったという印象です。

熊野 SUPER BEAVERさんに書き下ろしていただいたバラードが登場しましたが、この歌がとんでもなく素晴らしいです。ライブシーンもたくさんのエキストラの方に来ていただき、本当のライブのようでした。木戸さんは本番で初めて蓮佛さんに歌を聞かせるために、秘密練習を何ヶ月も地道に積み重ねてくださって。本番では蓮佛さんも本当に感激していましたし、歌詞に込められているメッセージが白井葵に深く刺さったと思います。白井がもう一歩さらに前へ進んでいくための大きな力になるというシーンになりました。

不思議なお菓子教室に一人でも多くの方に出会ってほしい

――最後に、視聴者の方にどのようにこのドラマが届いてほしいかという思いをお聞かせください。

影浦 劇中の登場人物もそうなんですが、数回のお菓子教室で悩みが完全に解決されるわけではないと視聴者の皆さまも分かっていると思うんです。その前提の上で、例えば相談できる人がいることに気付くことで、自分の理想とは違うけれど、そういう自分も受け入れてみてもいいと思えたり。そのことに気付くだけで少し救われる人もいるんじゃないかなと。このドラマが一つの小さなきっかけになればいいなと思っています。

一木 佐渡谷さんのセリフにもありますが、生きていく中で、傷付いていない人はいないと思うんです。「バニラな毎日」では、特別大きなトラブルや、大きな喪失を抱えているということではない、普通に生きる私たちそのものが主人公なんだと見ていただければと思っています。普通に生きていく中で誰もが抱える痛みを癒しきることはできないし、治しきることはできないけれど、ほんの一瞬救われることがある。そして救うことができるのは、“人”なんだと。このドラマを通して不思議なお菓子教室に一人でも多くの方に出会っていただき、いろんな考え方ができるということに気付くきっかけになっていただければうれしいです。

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