【連載】大炎上した動画が公開された後に決断した“あること”/onodela「アナーキーアイドル」#3 ステージに乱入してアイドルを脱退した直後の話
2019年7月に、ステージ上でいじめを告発した動画がバズり、アイドルを引退した「小野寺ポプコ」。その後、早稲田大学を卒業、カリフォルニア大学バークレー校へ留学し、卒業生代表としてスピーチをしたことも話題だ。物議を醸したあの日から一体どんな未来に繋がっていったのか、自身の言葉で書き綴るエッセイ「アナーキーアイドル」。連載第3回は、「ステージに乱入してアイドルを脱退した直後の話」についてお届けします。
#3 ステージに乱入してアイドルを脱退した直後の話
ステージ上でアイドルとしてあり得ない行動をし、その動画がネット上で大規模に拡散されてしまった。自分の滑稽な姿を見て、さすがにため息をついた。
当時は大学2年生になったばかりで、赤坂にあるアセットマネジメント会社でインターンをしていた。こっそりとアイドルをやっていることも言っていなかったのに、いきなり社内では脱退のことまで知られて、社長に「インターン終わる時に中指を立てながら、ネットでウチの悪口言ったりしないでね」と冗談を交えながら言われた。それでもいつも通りに業務をやらせてもらったのが、信頼されている気がして有り難かった。後日談だが、UCバークレー校への推薦書もここの社長が書いてくださった。社長さんは本当にいい人で、今でも尊敬している。
大学の後輩が「ライブ当日に会場にいた」とツイートしていたのを見て、思わず笑ってしまった。すでにインターンや他の会社でのお手伝いなど単発の仕事で時間が埋まっていて、授業以外はキャンパスに溜まることもなくなったが、同級生や先輩、後輩から「これ、あなた?」って動画を送られ続けた。普通はそんな画質の粗い動画なら知り合いが出てきてもわからないと思うが、どうやら上が黒で下はメルヘンパープルといった髪色が特徴的すぎて、一発で判明できるらしい。
この個性的な髪色はお気に入りだったけど、あんまりにも特定されやすいことがネックになった。事件の翌日に、どうしてもアップルストアに行かなくちゃならない用事があって渋谷まで歩いたが、すごくヒヤヒヤしていた。他のメンバーのファンが大多数いる中、見つかった場合、最悪相手が激昂して殺してくるのじゃないかと怯えた。考えれば考えるほど恐ろしくなり、その日の夜に速攻で髪の毛を切りに行き、奇抜さが全くない無難なボブにした。
割と本気であの動画は就活に悪影響を与えるかもと気づき、表に出ることを辞めようと一時的に考えていた。その時、頭に浮かんだのは、自分には果たしてカリスマ性があるかないか、ということだった。別に「ある!」と言われて承認欲求を満たしたいわけではない。ただ、これまでの人生、コミュニティーの中心に立つこともあれば、空気のように存在感ゼロだった経験もあるので、単純に疑問を抱いていた。
それに、俗にいう「カリスマ性」とやらがなかった場合、それは鍛え上げられるものなのか。私にカリスマ性があるかないかなんて、もうちょっとだけやってみないとわからないじゃない?と心の中でそんな声が響き出した。もともと炎上目的ではなかったし、やり方としては最悪だけどデビューして一週間ちょいでここまで注目してもらえるのも、実はエンタメの精神を持っていたりするのではないか、とそんな風に超ポジティブに考えた。結局、今回の失敗では懲りずに、また芸能活動をしていこうという危なっかしい結論に辿り着いた。
続いて、これからのソロ活動はなにしよう、と悩み始めた。歌もダンスも上手くなく、ファンサービスも至って普通。高校時代にバンドのドラマーはやっていたが、それを本業にできるレベルなのか……。たしかに一時期「この子ロックだぜ」とTwitterで評価され、ロック系バンドのメンバーに勧誘していただき、すごくいいチャンスとは思ったが、バンドで演奏している今の自分を想像できなかった。
あとは、もう一つソロで活動しなければならない理由があった。それは数ヶ月後に渡米する可能性があり、グループ加入だとまた、活動休止や卒業で他人様に迷惑かけてしまうこと。実はアイドルになる数ヶ月前に、大学を経由してアメリカへの留学を申し込んだ。大学生活、インターン、アイドルデビューの準備で充実していた日々だったが、留学の宣伝広告を見た時に「もっと広い世界を見てみたい」という直感が電流のように脳裏に流れた。候補者として選ばれるかわからないが、もしアイドルとしてブレイクできなかったら、別方向からステップアップをしてみようと画策していた。それまではアイドル活動を全力投球してみるつもりだった。
悩んだ末、最先端の流行を追いつつ、グループに合わせてキャラ作りをしたり、特典会のような有料なファンサービスがなく、自分にとってプレッシャーが少なさそうなDJに挑戦しようと思った。その中でも、個性のある衣装とかわいい曲でアイドルの現場を盛り上げるようなアイドルDJならば、長年アイドルソングを研究していた知恵を発揮でき、不得意なダンスパフォーマンスを避けられる。
全くDJとしての経験がないが、アイドル脱退宣言がバズっただけであって、「DJやりまーす」とTwitterで公言したらすぐ出演オファーが何件かきた。いい決断をしたのか、自分の力以上の運に助けられて、このスタートもまさにその象徴だった。自分でも不思議だった。
一番はじめの出演が3週間後に迫っていた。六本木にあるcubeというクラブ兼ライブハウスでDJデビューすることになったのだ。すぐに対策として、大学でDJをやっている友達に教えてもらい、六本木にあるDJスクールにも通い始めた。
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