民放ホームドラマ最高視聴率56.3%を記録した水前寺清子、石坂浩二出演の「ありがとう」シリーズの温かい魅力を探る
「三百六十五歩のマーチ」や「ありがとうの歌」などで昭和の歌謡界を牽引した1人、水前寺清子が今年でデビュー60周年を迎えた。「ありがとうの歌」は自身が主役を演じたドラマ「ありがとう」の主題歌にもなっており、BS12トゥエルビ(BS222ch)では11月7日(木)、19時より、水前寺の60周年を記念して本ドラマの第2シリーズが放送される。本記事では、日本のホームドラマの金字塔となったこのドラマの魅力について振り返ってみる。
にっこり幸せな気持ちにしてくれる「ありがとう」シリーズ
1964年10月15日の歌手デビューで芸能人生をスタートさせた水前寺は、翌年には早くもNHK紅白歌合戦に出場し、1968年の「三百六十五歩のマーチ」ではミリオンセラーを記録。一躍スター歌手の仲間入りを果たす。その後は歌手業と並行して数々のテレビドラマ、映画に出演する人気女優にもなるが、この女優業のスタートとなったのが、1970年にTBSで放送されたホームドラマ「ありがとう」だ。
当時、お茶の間の娯楽の中心だったテレビではドラマも盛況で、各局こぞってさまざまなドラマを放送。そんな中で水前寺の女優デビューとなった「ありがとう」も高視聴率で迎えられ、第4シリーズまで続く人気のシリーズになった。水前寺が出演したのは第1シリーズ「警官編」、第2シリーズ「看護師編」、第3シリーズ「魚屋編」までだが、もともと歌手業に専念したいと断っていた水前寺を、番組プロデューサーの石井ふく子がテレビ局のトイレで幾度と待ち構えて口説き落としたというのは有名なエピソードだ。
こうして実現した水前寺のドラマデビューかつ初主演作の「ありがとう」だが、シリーズを通しての魅力と言えば、なんといっても“温かな”気持ちになること、“幸せな”気持ちになることだ。水前寺と山岡久乃が演じる母子家庭の娘と母の日常生活。石坂浩二が演じる男性との恋。その家族やご近所の人々というのが第3シリーズまで共通の配役になるのだが、どのシリーズをとっても、ちょっと生意気だがお母ちゃんが大好きな娘(水前寺)と、小言がうるさいが娘のことが心配なお母ちゃん(山岡)との掛け合いが絶妙で、見ているとクスリと笑いながら、ほっこりもさせられる。
また、石坂浩二演じる恋の相手役とは誤解からくるケンカやドキドキの急接近もあり、見ていてヤキモキしてくるラブコメ的展開もとても面白い。そうした物語とキャラクター劇の楽しさからいずれのシリーズも人気を博したが、特に傑作と言われているのが第2シリーズの「看護師編」だ。
第2シリーズ「看護師編」は民放最高視聴率を記録したホームドラマの金字塔
「看護師編」では東京の十(つなし)病院が舞台になり、看護師として勤める古山新(こやまあらた/水前寺)と古山友(こやまゆう/山岡)の母娘の日常。そこに、院長・家の次男で小児科医の十虎之助(つなしとらのすけ/石坂)と新の恋愛が絡んでくる。新と虎之助は互いに相手が気になる存在なのだが、なかなか気持ちを伝えることができず、逆に些細なことからケンカばかりになるという関係。
しかも、院長の息子で二枚目の虎之助は病院の看護師たちが憧れる存在で、新の同僚女性も片想いで狙っていることから、新のヤキモチメーターはますます上がっていってしまう。こうしたとき、表情豊かに感情を表す水前寺はかわいくもありコメディーチックで、親しみを感じる女優さんだ。一方、このとき石坂は役者として脂の乗った31歳。ドラマ、映画で引っ張りだこの二枚目俳優で、石坂が引き込む魅力も大きい。
そうした登場人物の魅力、人間模様やテンポよく事件が起きる物語の動きは秀逸で、この第2シリーズは民放ドラマ最高視聴率56.3%という数字を叩き出す。現在の趣向を凝らしたドラマに比べれば古典的なストーリーかもしれないが、ドラマの面白さは今も色褪せない。何より作中には悪人と呼べる人物が存在せず、すれ違いやケンカは起これど、誰もが人間味ある行動で生き、新、友、虎之助を中心に温かい昭和の家族、ご近所付き合いを見せてくれる。
水前寺が歌う主題歌の「ありがとう」を聴き、1日の終わりに感謝する友の「ありがとう」の言葉を聞く。 令和のドラマティックな青春ものや恋愛ものも楽しいが、にっこり気分にさせてくれる古き良き昭和のドラマもとても気持ちがいいものだ。ホームドラマの金字塔と呼ばれる名作を、今だからこそ見てみてほしい。
「ありがとう」第2シリーズ「看護師編」は11月7日(木)より(毎週木曜日夜7:00~、2話連続放送)BS12トゥエルビにて放送を開始。
◆文=鈴木康道
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