井上尚弥選手

“モンスター”井上尚弥、真摯にボクシングと向き合う王者の使命感「過去の例がないから自分が作り上げていくしかない」<井上尚弥〜孤高の王者の行方〜>

2024.09.03 07:00
井上尚弥選手

前人未到のチャンピオンロードを突き進むプロボクシング界の“モンスター”井上尚弥選手。そんな井上選手が、9月3日(火)に東京・有明アリーナで開催されるWBA、WBC、IBF、WBOの世界スーパー・バンタム級4団体統一王座防衛戦に臨む。全ボクシングファンのみならず、多くの人々が注目しているこのビッグマッチに先駆け、井上選手に密着したドキュメンタリー「井上尚弥〜孤高の王者の行方〜」がLeminoで配信された。今回は王者・井上選手の軌跡とともに同番組の内容を紹介する。(以下、ネタバレを含みます)

ひたむきにボクシングと向き合う“孤高の王者”

「井上尚弥〜孤高の王者の行方〜」は、2階級で4団体王座を統一するという歴史的偉業を成し遂げた今もなお、視線を未来の新たな挑戦に向け続ける“孤高の王者”のひたむきにボクシングと向き合う姿に迫るスポーツドキュメンタリー。

井上選手といえば、2013年に辰吉丈一郎氏以来23年ぶりに当時国内最短タイ記録となる4戦目での日本王座(ライトフライ級)を獲得した後、同年に当時の国内男子最短タイ記録となるデビュー5戦目で東洋太平洋王座を奪取。さらに、2014年4月には当時日本人男子最速となるプロ入り6戦目での世界チャンピオンとなった。

初防衛を果たした後、階級を2つ上げて当時世界最速となる8戦目での飛び級での2階級制覇を達成。2018年にはWBA世界バンタム級レギュラー王者と対戦し、初回1分52秒TKO勝ちで3階級制覇した。その後、World Boxing Super Series(WBSS)に参戦し、WBSSバンタム級初代王者に輝いた。

そして日本人初の3団体統一王者を経て、アジア人初の4団体統一王者に。階級をスーパーバンタム級に上げた後も4階級制覇、さらには史上2人目となる2階級4団体統一王者となり、9月3日にはテレンス・ジョン・ドヘニー選手を相手に防衛戦を控えるという、歴史を塗り替え続けた最速記録のオンパレードという輝かしいキャリアを誇る。

そんな中で、特筆すべきはほとんど全ての試合を圧勝で飾っているところだ。5月に行われたルイス・ネリ選手との試合で、プロキャリア初となるダウンを奪われたが、それまでダウンを取られていないというのが、フィクションでも描かれないようなうそみたいな本当の話で、“モンスター”の“モンスター”たるゆえんの一つ。桁違いのパンチ力とスピード、ディフェンス力…などボクサーとしての全ての能力が規格外に高く、解説者たちは口をそろえて「次元が違う」と評するスーパーチャンピオンなのだ。

最強のチャンピオンは精神面でもモンスター級

だが同番組では、密着を通してボクサーの能力だけでなく精神面でも“モンスター”であることを照らし出している。「自分のやってきたものを振り返れば、いつやめてもいい実績・評価はもらってるけど、別に満足感はない」と本音を語る場面や、プロ初のダウンを振り返り「1R終わってモニター見て『あー、なるほどね』と自分の中で確認して、そこからそのパンチをもらうなんてことは1ミリも考えていない」とあくまでクレバーに対応したことを明かすシーン、「試合の前日に『明日を迎えたくない』とか、そういう人の気持ちが分からない。やっぱり試合をするのが楽しいから」と試合を心から楽しみ、勝利を信じて疑わない姿など、凡人の尺度では計れない“強さ”を垣間見せる。

一方で、長谷川穂積氏や八重樫東氏らが井上選手にしか見えない景色、分からない葛藤など、孤高ゆえの孤独感や使命感があることに言及しており、井上選手本人も「日本人選手での過去の例がないから、自分が作り上げていくしかない。結局、誰とも分かり合えないんですよね」と吐露するシーンも。

この誰もが見たことのない景色に、たった一人で挑戦しつづけることのできるエクスプローラーであり続けられる精神力が土台にあるからこそ、“モンスター”なのだ。

9月3日に対戦するドヘニー選手は元IBF世界スーパーバンタム級王者であり、老獪なテクニックと「THE POWER」と称されるパンチ力で、中嶋一輝選手、ジャフェスリー・ラミド選手といった井上選手のスパーリングパートナーをKOに仕留めている“曲者”。下馬評では井上選手の圧勝ムードが漂っているが、八重樫氏は「こういう状況って周りが浮つくんですよ。周りが『楽勝でしょ?』みたいな。そういう雰囲気って一番良くなくて、選手本人が一番気付いてるんですよ」と警鐘を鳴らしつつ、「そういうのを作りたくないんだろう」と純粋に勝利を目指す姿勢を絶賛。会見での井上選手の「一発は警戒しながら、一発も触れさせない気持ちで自分のボクシングを展開していきます」という発言の裏付けとなる言葉を残している。

試合である以上100%はない。しかも相手は老獪な曲者。失うもののないチャレンジャーに対し、井上選手は「自分の地位とか守るものが多い人の方が自分は強いと思ってます。失うものがない奴は『別に負けても失うものがないからいいや』って、本当に追い込めないんですよ、きっと。でも、自分みたいに1つのミスがこの10年以上積み上げてきたものが一瞬にして崩れ落ちるっていう極限の中で戦ってる奴の方が絶対に強い」と、これからも新たな伝説を紡ぎ続けるであろう“モンスター”は自分に言い聞かせるように強く言い切った。

なお、Leminoでは「NTTドコモ Presents Lemino BOXING ダブル世界タイトルマッチ 井上尚弥vsTJドヘニー & 武居由樹vs比嘉大吾」を独占無料生配信。井上選手関連作品など、その他ボクシングコンテンツも多数独占配信している。

◆文=原田健

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