宮藤官九郎

宮藤官九郎、実在する街を舞台とする理由「自分とは関係ない物語と思われたら損」<新宿野戦病院>

2024.06.26 11:00
宮藤官九郎

小池栄子と仲野太賀がW主演を務める、“緊急医療”エンターテインメント「新宿野戦病院」(毎週水曜夜10:00-10:54 ※初回は夜10:00-11:09)が7月3日(水)よりスタートする。本作は、ある日、新宿・歌舞伎町にたたずむ病院に、アメリカ国籍の元軍医、ヨウコ・ニシ・フリーマン(小池)が現れ、美容皮膚科医で港区女子と派手に生きる高峰享(仲野)の生き方に変化をもたらしていくといったもの。WEBザテレビジョンでは、本作の脚本を手がける宮藤官九郎にインタビューを実施。本作でのこだわりや、平成から令和にかけて変化して行った意識などについて話を聞いた。

最終的に全員を好きになってほしい

――今回のドラマ、どんなドラマにしたいと考えていますか。

とりあえず自分のやったことのないジャンルなので、わからないことだらけなんですけど、今のところすごく順調に書けている気はしています。最終的には、この「新宿野戦病院」や、聖まごころ病院で働いてるお医者さん、患者さん全員を好きになってもらえるようなドラマにしたいです。

というのも今回は最初から、全員のことを好きになってもらえるとは思っていない。特に太賀くんの役とか、最初は好きになれないかもしれないですが、最終的に「なんだかんだ言っていい人ばっかりじゃん」って思ってもらえたらいいかなって。

――小池さん演じる元軍医で岡山弁というキャラクターは、どのようなアイディアで生まれたんでしょうか。

軍医というアイデアをくれたのは、監督の河毛(俊作)さんでした。面白そうだなと思いました。毎日、命がけの現場にいた人が急に日本の医療制度の中で働くとなったら、驚くことがいっぱいあるだろうなと。

日本の医療って、病気を未然に防ぐとか、美容といった、命とはあまり直接は関係ない分野への注目が多いイメージがあって。そう言う意味で軍医という、とにかく「命を止めない」ことに専念してきた主人公が際立つといいなと。

物騒な事件を聞いた時に、普通はいやだとか、怖いって思う、その感覚がない、むしろちょっとテンションが上がる。そんなことできるの、小池さんぐらいだなって。半分以上英語喋ってもらうけど大丈夫かなとか思いながら、でもこれも書いてるときから、小池さんの声で書いていたから、多分適任だと思います。

――宮藤さんから見た、お二方の魅力を教えてください。

小池さんは、瞬発力と破壊力がある方ですね。絶対にできないって言わないところがかっこいいなっていつも思っています。今回も英語と岡山弁しかしゃべれなくて、しかもやったことない手術までしなきゃいけないっていう役なので、普通は嫌だと思うんですけど、今のところできないとは言っていない。楽しそうにお芝居しているのがすごく魅力的だなと。なんか嘘がないなと感じています。

太賀くんは、かっこよく見られようとしない、かっこつけないところがすごく貴重だなと。悪いやつをやったときにも、ちゃんと「ほんと憎たらしいなこいつ」っていうところまでやってくれるので、ドラマ界において貴重な存在だなと思っています。それもあって、今回はとことん嫌なやつの役にしました。

――そういう意図であの役なわけですね。

そうですね。嫌な奴がうまい。そして絶妙に嫌な感じもリアルで。「ポルシェ乗ってるからね」という芝居を現場で見たときに、絶妙な表情をしていて、それがちゃんとできるのがすごいですよね、いいなと思います。

初の医療ジャンルで心がけていること

――どんな医療ドラマにしたいと考えていますか?

医療ドラマですけど、僕は医者じゃないので、どうしても患者さんの方にフォーカスしてしまうんですけど、そこが新しいかなと思います。このドラマでは、なるべく患者さんの人生にフォーカスを当てれたらいいなと思っています。だから、最初の方はあまりお医者さんたちのバックボーンを出さないようにしています。

――初の医療モノを手がける中で難しさを感じる面とか、大切にしている面はありますでしょうか。

こう見えて、僕あんまり病気にならないんです(笑)。だから医療についての認識がすごく低くて、調べて、質問して教えてもらって。医療監修で入ってくれている先生に町医者ができる処置とか、いろんなアイディアを教えてもらっています。漠然としたことしか言っていないんだけど、ちゃんとこういうケースがありますって提案してくださるので、助かっています。

そういう病気やケガ有りきでストーリーを考えることもあって、『タイガー&ドラゴン』のときに古典落語からドラマのストーリーを考えてということをやっていたのに近いな、という感覚ですね。

「できるだけ嘘を少なくしたい」実在する街を舞台とする理由

――舞台となっている歌舞伎町に対して持っていたイメージと、今回取材したことで、新しくあった発見はありますか?

昔は、歌舞伎町って撮影できなかったんですよね。何度かチャレンジしたこともあるんですけど、なかなか難しくて。それ以来、足が遠のいていました。ただ、今回ドラマをやることになって、ぶらぶら歩いて思ったのは、若い人が多い。あとホストクラブの多さに驚きました。

昔は逆だったと思うんですけど、今は女性がお金を落としていく場所なんだなと。それで、ホストについても調べてみたら、「年収1億円」とか謳ってて。カルチャーショックを感じました。僕が20代のころに行っていた歌舞伎町とは全然違う。でも外国人の方は相変わらずたくさんいて。それぞれのカルチャーがいろんな場所にある、猥雑な感じがおもしろいなと思いました。

――実際にある街を舞台とするときに、解像度を高めるためにどんなことをしているのでしょう?

ガイドブックやインターネットの情報は、どうしても見せたいところだけを書いているので行って経験した、体感したものの方が筆が乗りますね。なので「そんなことは聞いたことない」「それは初めて聞いた」っていうものを探しているような気がします。木更津に行ってみないと街にタヌキがいっぱいいるとか知らなかったですからね。

――なぜ実際の街を舞台にするのでしょう?

ドラマがすごく向こう側の、自分の生活とは関係ない場所の関係ない物語だと思われたら損だなって思っちゃうんです。やっぱり新宿行ったら、あのダメな医者たちがここで生活してるんじゃないかと思ってほしいし、嘘ではあるんだけどなるべく嘘の数を減らしたいというのが昔からあって。

なので、普段話している会話の中に実在の人の名前を出したり、固有名詞を入れたりして、僕らが普段話してる会話と同じような会話を劇中の人たちもしているように見せたいなと思っているんです。

「一石を投じよう」という気持ちはない

――『不適切にもほどがある!』(2024年、TBS系)が大変話題になり、今回も「どこまで見せてくれるんだろう」と期待している視聴者が多くいます。今回は、どこまでチャレンジしようという気持ちでしょうか?

『不適切〜』も「一石を投じてやろう」と思って書いたわけではなかったんです。話題にしていただけるのはありがたかったですが。ただ、チャレンジしたいことでいうと、『池袋ウエストゲートパーク』や『木更津キャッツアイ』をやっているときも意識していたこと「歌舞伎町に行ったら、どっか角を曲がったら病院があるんじゃないか」って思ってもらえるような身近に感じてもらえる作品にできたらいいなと考えています。

――社会問題をコメディーにするにあたって、気をつけていることはありますか?

「怒られるんだろうな」と思いながらやっています。「怒られるかもしれないな、でもなるべく怒られたくないな」と思って、いろんな人にチェックしてもらって。「大丈夫ですよ」って言われるけど、結局怒られるという(笑)。

それはでもしょうがないですよね。今そういう意見を怖がっていたら、「何にもできなくなっちゃうんだろうな」って思いますから。本当にあることをただ「本当にあるんだよ」って言いたいだけなんですけどね。

中途半端にしたくない。誰かをことさらに攻撃したり、片方だけ悪みたいにはしたくはない。両方の側面を提示して、見た人が多少「そういえばそうだな」って考えてくれたりしたらいいなと思いながら、1・2話を書きました。

――平成から令和にかけて、価値観がどんどん変わっていく中で創作への向き合い方に変化はありましたか?

1回忘れるっていうか、自分の社会性を1回捨ててバカにならないと、本当のことが出てこないと思います。口で言ってみたけど、みんななんとなく怖くて使ってない言葉も、別に言っちゃいけないことじゃないんじゃないかとか。

それで炎上してるとかみんなで騒いでるけど、これ「よく考えたらそうでもないじゃん」とか、そういうことの見極めが、今どんどん難しくなってきていますよね。「本当にそうかな」ということは、いつも一旦考えるようにしてます。

あと、やはりコメディーを作っているのでウケないのは嫌なんです。過激なことを言うのが目的ではなく、ウケたいだけ。だから、ウケないってことは、今の世の中に必要ないんだなと思うんですけど、ただこれ言わないと、このテーマは使えないっていうところは、ちょっとバカなふりして、一旦提出して、いろんな人にチェックしてもらうようにして、みんなで考えながら作っています。

――最後に放送を楽しみにしている皆さんに一言お願いします。

1話だけで判断しないで最後まで見てほしいですね。「あれ?医療ドラマって聞いてたのに」とか言われちゃうかもしれないんですが、徐々に医療ドラマになっていくし、必ずしもまともな人たちばっかり出てくるわけじゃないけど、だんだん出演するキャラクターたちを好きになっていってもらえるといいなと思いながら書いているので。期待しすぎないで、粗探しせずに2話以降も見てくれるとうれしいです。

◆取材・文/於ありさ

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