青木さやか、娘は「一番苦手とするタイプ」のオンナ? 母を嫌悪した思い出とともに「オンナ」について考える【青木さやか「娘とわたし」#最終回】
タレント・女優として活躍し、昨年は初のエッセイ集『母』が話題となった青木さやか。『母』に描いた自身の母との関係に悩んだ過去を乗り越え、現在は中学生になった娘を育てるシングルマザーである。最愛の娘との関係を見つめる本連載も今回が最終回。娘は「一番苦手とするタイプ」のオンナかも?と考えるその理由は。
きっかけは、娘との昔話
「なんかね」
「うん」
「なんかねえ」
え、何なの? と笑いながらガスコンロに火をつけてほうじ茶を入れてくれる気の置けない友人。わたしは、たびたび、この友人宅を訪れて、よもやま話をして帰る。パジャマで来られる距離に住むこのお宅には、お嬢さんが二人いて、下のお嬢さんは娘の同級生。子ども同士もパジャマで行き来し、とても仲良くさせてもらっている。小学校に上がる前からの付き合いの二人。この先イザコザはあるかもしれないがオトナになってからも幼馴染として大切な存在になってほしいと心から願っているわたしだ。
ほうじ茶が入り、先輩にいただいた、一昨日が賞味期限のキャロットケーキとチーズケーキをシェアしていただく。わたしは賞味期限を気にしないオンナ。においを嗅いで口に入れて確かめる。問題ない。
賞味期限切れのものを平気で口にするわたしを信じられないと驚く人もいるが、わたしなどひよっこだ。いま目の前にいる友人は強者で、道端に生えている草という草を食べている。食べられるかは、口に入れて確かめる。世の中には、様々な人がいて面白い。
「美味しいね、ケーキ!で?どうした?」
「いや、実はさ」
と、わたしは娘について話し始めた。
「昔話をしていたわけ。クルマの中で。大体クルマの中かお風呂でわたしたちはコミュニケーションをとるんだけれどもね」
「いいじゃない」
「いいのよ、お風呂かクルマ。やっぱり向かい合うよりお互い同じ方向を向いてる方が話しやすい時って、ありますよね、うん、ありますよねえ。で、それはいいとして。昔話というのが」
「うん」
「高校生の時、同じクラスのわたしが好きだった男の子が、わたしの親友のことを好きになったわけ」
わたしは、男女共学であった。
娘の気になるところ
「わたし、超ショックで。で、さらにね親友はわたしに、謝ってきたの。ごめんねさやかちゃんって。ちなみに親友は、その男の子のこと、なんとも思ってないのだが」
「うん」
「わたしは、え、謝られても困るんですけどって、困るじゃない!困るっていうか、屈辱的。そりゃね、彼女が悪いわけじゃないけど、わかるけど、だけど、わたしが彼女の立場なら、謝るなんてことしないからさ。どこに持っていっていいかわからない、この気持ち。で、わたしは、彼女としばらく距離を置いたわけ。」
「うん」
「ふんって!」
「うん」
「わたしなら、わたしならだよ。友人が好きな男子が、わたしを好きにならないようにする自信200%あるね。オンナを出さないようにするもの。そうやって、気遣いながら生きているからさ。好きにさせないようにする術?身に付けているからさ。だから、好きにさせてるの、あなたじゃないの?ふん!って思ってしまったというね」
「はは、うん」
「と、いう昔話を、クルマの中で娘にしていたの。そしたら返ってきた言葉が」
「うん」
「別に好きにさせようとしたわけじゃないでしょ、そのママの親友かわいそうって」
「うん」
「そう言ったのよ!」
「ふむふむ」
「わたしさ」
「うん」
「やはりそう答えたか! と思って!」
「どういうこと?」
わたしは常々思っていたのだ。娘が、友人といる時。特に男子との態度や電話が漏れ聞こえてくると、明らかに好きな男の子と話しているだろう口ぶりだと思っていたのだ。しかし、「え、好きな男子? ヒューヒュー」なんて言うと途端に娘から嫌われてしまうだろうから、そっと見守っていたのだ。それが、どうやら、好きな男の子ではないようだ。数人の男の子に同じような口ぶりで話しているではないか。驚きますよ、わたしは。
「だからさ、もし、あの口調で電話されたら、しかも長電話よ。わたしが、相手の男の子なら、好きになるし、好きになられているだろうと思うと、思うわけ」
「ふむふむ」
「それをね、相手が勝手に好きになってるんだからって言われても、こっちが傷つくわ!」
友人は、ケーキを食べながら、どの立場で話してんの、と笑った。
「どう思う? おかしいでしょう? 注意した方がいいと思わない?」
「ママがモテないだけじゃないの!」
友人は、娘のことも、とてもよく知ってくれている。なんなら、娘はわたしより、友人のことを信用しているほど、ここも仲良しなのである。
「別に、いいんじゃない? 見てて、気にならないけど。電話も男の子としてるところ聞いたことあるけど、気にならないけどね」
「そうかな」
「何話してるの? どんなことが気になるわけ?」
「たとえば、そうだなぁ。髪型変えたんだ、とか」
「それは、いいんじゃない?」
「そうですか? わたしなら、言わないですね。男友達にわざわざ、電話で、髪型変えたという報告、何のために。いや、言わないですね、言わない。髪型変えたんだなんて、告白レベルだわ」
「それはないでしょ」
「それは、ないわ。言い過ぎましたね、だけど、特定の人にしか言っちゃまずいと思いますわ〜」
「気にならないけどね、私は。注意しなくても、いいと思うけど」
「あのね」
「うん」
「注意は、実は、もう、したんですよ」
「したの? なんて」
注意ではないかもしれない。昨夜の車内。外は暗くなりかけていた。冬が始まったなと感じる寒さになっていて、いつも開けて走る窓は、さすがに閉めたままにしていた。ママの親友かわいそうと言われた会話の流れで、「男の子が好きになるんじゃなくて好きにさせてるってこともあるんじゃないかな、あなたたちみたいなタイプの方々が!」と、青木さやかバラエティ全盛期の嫌味たっぷりのテンションで言ってみたのだ。すると、娘は、運転しているわたしの方に凄い勢いで体ごと九十度真横をむきなおり、「なんなの? わたしが色目でも使ってるっていうわけ!」と、目をひん剥いて、怒ってきた。バラエティの時は、そんな風に応戦してくる若い子はいなかったから、初めての体験に、おおお、と、たじろいだ。別にそうじゃないけど、ただ、わたしは、好きにさせない自信があるから、だから、とゴニョゴニョと伝えると、「ママがモテないだけじゃないの!」と、きた。そして、お互い、ふん!となって、家についても昨夜は別々にお風呂に入ったのだ。
「なんだそれ」と、友人は笑った。「どう思う?」と、わたしは聞いた。
「さやかにそう言われたら、色目使ってると思ってるの?と怒るのは、真っ当だと思うよ」
「あ、そう。まあ、そうですか、そうですよね」
「そうじゃない?」
「まあ、そうですかね、でも、モテないだけじゃない、なんて、ひどい、ですよね、まあ、そうなのかもしれませんしね。うーん悲しい」
友人は笑いながらおかわりのお茶を、わたしのカップに注いだ。
わたしからすると「一番苦手とするタイプ」
わたしは続けた。
「あのね」
「うん」
「わたし、同性として。同級生だったら友達にならないタイプだと思うの、うちの娘とは」
「ああ、うんうん」
「可愛くてね、可愛いということをわかっているようにみえてね、自分がどう見えてるかわかっている。可愛がられて、立ち振る舞いが上手くて。かつてのわたしからすると、ああいうオンナにはなりたくないよねえ〜って言ってるようなタイプ。そう、はい、わたし、ひがんでるんでしょうね、はい。」
「ふむふむ」
「ともかく、違うな、この人とは感覚、と思うだろうなと。大変苦手なタイプなんですよ、わたしからすると。そう思った時に、そうか、一番苦手とするタイプが、わたしの前に、なんとわたしの娘として現れたかーと、なんか、そんな風に思ったりして」
「うんうん」
「わかります?」
「わかるよ」
「わたしさ、人生とは、つけが回ってくると常々思っているのね。克服できてないことは、巡り巡ってくるもんだと。この苦手分野が、娘として現れたかと、はあ、もう、なんというか、で、聞いてもらいたかったわけ。ありがとね。掃除中に」
わたしは、ぬるくなったほうじ茶を目をつむりながら一気に飲んで、今度は自分でおかわりを注いだ。
母はどんなオンナだったのだろうか
そして思った。わたしの母は、どうだったのだろう。どんなオンナとしてのタイプだったのだろう。高校生の時に母と父は離婚した。その時、その後も、わたしの目からみると、母ではなくて教師、母ではなくてオンナにみえた。そこに嫌悪感を抱いたことが、わたしが母を拒否する一番大きな理由だった。母は離婚した時は、三十代だったのだ。あの時は、いい年したおばさんなのに、まだオンナでいようとする母って醜いと思った気がする。
わたしが母のオンナとしての人生を心の中で許さなかったことは、母はもちろん感じ取っていたと思う。わたしはスパイのように母の身辺を調べ上げていた。母が寝るとカバンをそっと開けて、手帳からレシートからチェックした。几帳面な母は全て手帳に書いていたので、わたしは全てを把握していた。だが、わたしはもちろん母にも誰にも何も言わなかった。ただ、わたしの記憶の中に毎晩毎晩積み重ねていき、「あんたがなにをどこでしているのかはお見通しなんだ」と、心で唱えながら母を睨みつけていた。我ながらおそろしい娘である。一方で、母がいつわたしを捨てて出て行ってしまうかをビクビクしていたようにも思う。
母はオンナでも、ありたかったのだろう。結局、母は、あの時わたしを捨てなかった。母とオンナを両立する器用さがなかったのか、形だけでも母を選択していた時期はあったんでないかなあと思うんだけど、これは想像に過ぎない。
いまになって思えば、立派な人だと思う。わたしのような万年反抗期のスパイの娘を大学まで出して、東京に出たわたしに仕送りして、最期は沢山のお金をわたしに残した。
今、わたしは、まもなく五十代突入。過去の母への行いは棚に上げさせていただいて、大いにオンナでありたい、と思う。
あの時母は三十代だったのか。再婚してもまだ子どもも産める年だったのか。反省とか、後悔とか、ないけど、わたしと母との相性があの時よかったら、母の再婚というのも、あったのだろうか。
数日後、わたしは、はたと気づいた。
「髪型変えたんだ」という娘の発言。電話での口調。
そういえば、誰かに似ていると思ったのだが、それは、わたしだ。
一年ほど前までわたしには電話でよく話していた男性がいて、その人は恋愛対象であったので、わたしは最大限オンナとして話していた。娘の前でも。
それを真似ているのではないか。
だけど、娘は、その男性がわたしにとって恋愛対象だとは知らなかったから、
電話で男の人とはこのように話すものだ。
と刷り込まれたのではなかろうか。
取り返しのつかない刷り込みをしていたのか。
考えすぎか。
日々悩みが尽きない。
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