三浦瑠麗 撮影/松山勇樹

国際政治学者・三浦瑠麗が語る“不倫”の本音と建前「全部が建前だと不健全な社会になる」

2022.05.14 16:03
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国際政治学者の三浦瑠麗と、脳科学者の中野信子による共著『不倫と正義』(新潮新書)が話題を呼んでいる。著名人の不倫騒動が日々世間を騒がせる現代日本、「愛なら許されるのか。理が勝つべきなのか」と問いかける本書。異分野の学者2人がなぜ今「不倫」に向き合ったのか?なぜ人は不倫をするのか…?『めざまし8』(フジテレビ系)などでコメンテーターとしても活躍する三浦瑠麗に、改めて話を聞いた。(前後編の前編)

──芸能人の不倫が社会問題のように取り上げられ、やり過ぎと思えるほど社会的制裁を受けることも珍しくありません。一方で『不倫と正義』で三浦さんが例に出している2020年の「ジェクス」ジャパン・セックスサーベイによると、現在パートナー(恋人や結婚相手)以外の人とセックスをしている割合は、セックス経験者のうち男性が41・1%、女性が31・4%にのぼったと。そんな中、『不倫と正義』のオファーがあったときは、どう思いましたか?

三浦 中野信子さんはリアリストというか、人間を実態としてそのまま見る人。彼女の専門は脳科学で、脳の構造や脳内物質の働きなどから、なぜ人間がそういう行動を取るのかを分析しています。私の関心は人文や社会科学的なところにあるんですけれども、理想を立てて、そこからかけ離れた現状を否定的に語るというよりは、現実はこうだよねということを淡々と言うタイプ。異なる専門領域から同じ事象を見るとどういうふうになるのか、面白そうだし、話が噛み合うんじゃないかなと思いました。

──三浦さんも中野さんもワイドショーやバラエティーに多数出演していますが、芸能人の不倫報道などに興味を持つことはあるのでしょうか。

三浦 事件性があれば別ですけど、週刊誌の不倫記事やゴシップはそんなに読まないですね。ワイドショーでコメントを求められたときも、「いや、関係ないし」というのが自然な反応なんですけど、それだとコメントにならない。それで擁護でも否定でもなく、いろいろ不倫についての考えを話すと擁護論みたいに受け取られてしまうんですが、正直なぜ他人の不倫をバッシングするのかは感覚として分からないんですよね。

──当事者じゃない限り、しょせんは他人事ですからね。

三浦 結婚において、不倫はルール違反だというのはそうでしょう。不倫は理想的ではないけれども実在するという意味で、しばしば恋愛のセカンドレーベル、二番手の市場みたいな位置づけです。でも、真実の愛と思われたものが長続きするとは限らない。不倫以前に結婚がそもそも理想的でない場合も多いですね。結婚のかたちは様々です。

結婚したばかりの夢に満ちたカップルから、子育て共同体、同志関係、単なる同居人、冷戦状態の関係まで。人間は思い通りの人生を送ることができないし、理想の人を夢見ても理想が叶えられるとは限らない。自分自身も理想的な人間ではないだろう。そう考えると、結婚自体もなんらかの妥協に基づく理想の代替物になっている可能性が高いのです。もちろん不倫で始まった関係でも、本気の恋愛として添い遂げるものがないわけではないでしょうが。

──結婚後に理想のパートナーが見つかってもおかしいことではないですしね。でも世間では、不倫バッシングがどんどん過剰になっています。

三浦 他人のことなんて誰にも分からないんですよ。自分のことだって分からないことが多いんですから。行き過ぎたバッシングは、不倫の当否を超えた別の問題を孕んでいます。人間が「正義感」に駆られて暴走するというのは、不倫に限らず様々なところに存在している現象ですからね。ホーソンの『緋文字』という小説があるんですけど、清教徒のムラの中で不義の子を産んだとみなされた主人公が、どれだけ差別され虐待されたかということを考えると、人間はひとたび自分が正義だと信じると酷いことが徹底してできちゃうんだなと思いますね。

──他人の不倫への関心の高さは、海外も日本と変わらないのでしょうか。

三浦 不倫に関するドラマや映画は、よっぽど戒律の厳しい国以外は世界各国で流行っているので、人間の根源的な興味・関心なんだと思います。

──日本のように不倫が騒がれることは?

三浦 ありますね。特に政治家で不倫関係をもっていたりすると、アメリカではかなりのダメージです。ビル・クリントン大統領のモニカ・ルインスキーさんとの情事は、「大統領の嘘」も含めて政権を揺るがす事態になりました。キリスト教の影響が強いアメリカでは、理想的なファミリーを維持するというのが政治家の資質の一部として見なされている感じがありますね。日本でも最近は総理候補に愛人がいたりすると、潰される可能性はあるでしょう。昔の日本だったら、総理大臣に二号さんがいるというのは普通のことだった。

アメリカだって、ケネディ大統領とマリリン・モンローの関係のような例もあります。全般的に情報化社会が進み、私生活が露見しやすくなったこと、大衆化の流れの中で政治家が一般人と同一視されるようになったことも大きいんじゃないでしょうか。多様性が声高に支持される時代でありながら、こうした不倫問題のようなことについてはよりモラルが厳しく問われる傾向が高まっていると思います。

──どうして著名人のモラルが問われるようになったのでしょうか?

三浦 フェミニズムからする妻の地位の保全は一つありますね。少なくともちょっと前までは浮気をするのは圧倒的に男性の側でしたし。ただ、それだけではありません。政治家や芸能人などの著名人は、かつては自分と縁のない世界の住人だと考えられていた。それが、演出の観点からも、人々の肌感覚としても、普通の人とさほど変わらない人間だと見なされるようになると、中産階級のモラルを守って生活すべきだという圧が生じる。

「みんなおなじ」では全くなかったはずが、「みんなおなじ」でなければならないという、まあある意味で平等化が進んだ結果の副産物なんでしょうね。政治家は公職だからバッシングされてもしょうがないと思う人も多いだろうけど、たとえば歌舞伎役者や噺家さんまで、不倫が報じられるとダメージを受けるようになってきているんですよね。

──女遊びは芸の肥やしというのも、今は通用しないですからね。

三浦 まあ、その女遊びという陳腐化した表現自体は、私はどうかと思いますけどね。本気でする恋愛は、不倫だろうが純愛だろうが、その人をどこか変えるものです。かつての日本語的な意味で「遊ぶ」のにもエネルギーが必要です。本気で面白がったり悲しんだり喜んだりする感情の起伏は、恋愛や性愛に限らず、人間を生き生きとさせますからね。

不倫そのものを肯定しているんではなくて、人間はそういう生き物だということです。日本社会と言うのは面白くて、本音と建前をうまく使い分ける。ラブホテルがこれだけ林立している国で、芸能人の不倫スキャンダルや、くっついた離れたを批判するわけですから。本音と建前の区分けが成立している間はまだいいのかもしれませんが、全部建前しか許されないとすれば不健全な社会になるだろうと思います。

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