大食い・ロシアン佐藤が語る大会引退宣言の理由「今後は“食べることの幸せ”をもっと広めたい」
『元祖!大食い王決定戦』(テレビ東京系)で2008年に衝撃のデビューを果たしたロシアン佐藤。当時システムエンジニアとして働きながら、大食いタレントとしても大活躍し、「いつも美味しそうに食べる」と、多くの大食いファンを魅了してきた。2021年7月には、「競技としての大食い」の引退を宣言。現在は食への恩返しをテーマに新たなプロジェクトを設立し、YouTube配信を中心に活躍している彼女に、改めて大食いに目覚めたきっかけや、これからの活動について話を聞いた。(前中後編の後編)
──佐藤さんは、昨年7月に大食い大会の選手引退を宣言しました。
佐藤 もともと私は「食べることが楽しい」というところからスタートした人間なんです。だけど一方で視聴者の方からは、大会で優勝する「競技者としてのロシアン佐藤」を求められてもいる。「プロとしてのパフォーマンスを見せなくてはいけない」という覚悟で戦ってきて、そのピークを迎えたのが2016年のアメリカ遠征だったと思うんですね(『国別対抗!大食い世界一決定戦』)。
──あれは最高の死闘でした! 心の底から感動しましたから。
佐藤 ありがとうございます。実際、あの放送を観た方から「泣きました!」とか言われることも多いんですけど、結局、あそこが私の頂上だったんだと今となっては気づかされるんですよね。あのときの日本代表チームは菅原さん、MAX鈴木さん、もえのあずきさん、そして私。3人は何度も優勝したことがあるような超有名選手で、片や私だけが優勝したことがない。そしてそんな私がなぜかリーダーになり、しんがりを任されるという……。しかも対戦相手のパトリックは本物のフードファイターで、私が勝つなんてジャイアントキリングと言い切っていいくらいの歴然とした差があったんです。
──日の丸を背負って戦うプレッシャーは尋常じゃなかった?
佐藤 ヤバかったですね。楽しみつつ味わって食べるなんてまったくできなかったし、それこそ小林さんじゃないけど感情が「無」になるんです。いつも撮ってくださっているカメラマンの方からも「あの日のロシアンは機械みたいだった」と言われましたから。
──スポーツの世界でいうところの、ゾーン(極限の集中状態)に突入したということなんでしょうね。
佐藤 ただ、やっぱりフィジカルの限界が来ちゃったんですよ。最初の10分で6kgくらい入れていたので、自分の意思とか根性とは関係なく、肉体のほうから「バン!」とストップがかかってしまった。それで結果的には最後の2分くらいで逆転されたんですけど……。「アメリカの試合時間だったら勝っていた」とも言われましたが、負けは負けですから。要するにあれが選手としての私の限界だったんだと思う。もちろんそのあとも惰性で続けていたわけでは決してないんですけど、残念ながら2016年のニューヨーク・タイムズスクエアを超える情熱は自分の中から湧き上がらなかったです。
──現在はYouTubeチャンネル「おなかがすいたらMONSTER!」を開設し、こちらでも大食い動画を積極的にアップしています。
佐藤 YouTubeでの大食いは「戦い」ではなく、あくまでも「食べることって楽しいね」というメッセージを伝えたくてやっているんです。結構そこは自分の中で大きな違いなんですよね。YouTubeでも対決することはたまにあるんですけど、それはエキシビジョンマッチみたいなものであって、「1人対3人でバトルしたらどうなる?」みたいな内容。出演してくださる方にも「自分の限界に挑むような真似は絶対にしないでください」と伝えていますし、競技とはかけ離れたところでやっていますから。
──なるほど。同じ大食いでもコンセプトが根本から違うわけですか。
佐藤 食という行為を突き詰めて考えていくと、農家や酪農家の方たちの想いだったりとか、調理をされる方の創意工夫だったりとか、そういった部分に対する感謝や恩返しの気持ちが自然と私は出てくるんですね。食に関わる人たちを応援したいと思うし、「食べるのが好き」というシンプルな気持ちをもっともっと還元していきたいなと考えています。食べることが幸せ。だから一食一食を大切にしていく。そうすると毎日の生活で幸せがどんどん増えていくんだよ。……そういうことを伝えていくのが、私が所属するエッジニア合同会社で展開中の「OTEMOTO プロジェクト」なんです。
──エッジニア合同会社では共同代表であり、COOも務めているのだとか。
佐藤 そうですね。会社の中で私が担当しているのがOTEMOTO部門で、そこでやっているYouTubeが「おなかがすいたらMONSTER!」「Party Kitchen - パーティーキッチン」という位置づけになります。今後の活動として、私は「幸せを届ける食」というテーマをポジティブに世の中へ伝えていきたいんですよ。幸せを感じるタイミングって、ごはんと一緒のときが多くないですか? 誕生日しかり、何かのお祝い事しかり……。
──それは確かにありますね。
佐藤 特に私は昔からある農家で育ったので、みんなでワイワイごはんを食べるという原体験が関係しているのかもしれないですね。私が住んでいた地域には、直会(なおらい)と呼ばれるものがあるんです。これはお祭りが終わってから集まって食事をするイベントなんですけど、子供心にすごくワクワクしていたんですよね。それからおじいちゃんが亡くなったときも、田舎だから近所の人がうちに集まり精進料理を作ってくれまして。おじいちゃんがいなくなったことは当然すごく悲しいんですよ。でも「今日は故人の思い出を語りながら、いっぱい食べてください」ということになると、そこで楽しい思い出話も出るものだから、みんなも笑顔になったりするんですね。そういう感じで気づいたら私の人生って常に食べ物とリンクしているし、他人よりいっぱい食べているからこそ伝えられることもあるはずなんです。
──OTEMOTOプロジェクトの活動に手応えは感じますか?
佐藤 はい、おかげさまで。「動画を観て料理が好きになりました」とか「子供が食べるときに『いただきます』と言ってくれるようになりました」って声を聞くと、始めてよかったなとしみじみ感じますね。食文化というのは本当に奥が深いし、たとえば1人だけで食事したがる「孤独のグルメ派」だっているわけじゃないですか。そういった多様性も認めつつ、食べることの幸せをもっともっと広めていきたい!作ること、食べること、それぞれのものがたりをすべてまるっと伝えることで、自分なりの「食の幸せ」がある世界にしていきたい!というのが今の私の考え。すごくやりがいを感じているので、もっともっとOTEMOTOプロジェクトを大きくしていきたいです。
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