「俺の家の話」作品賞受賞インタビュー後編

「俺の家の話」磯山晶CP『長瀬くんと西田さんだからできたことがたくさんあった』【インタビュー後編】

2021.05.19 17:00
「俺の家の話」作品賞受賞インタビュー後編

第107回ドラマアカデミー賞で作品賞を受賞したのは「俺の家の話」(TBS系)。プロレスラーだったが実家に戻り能楽と父の介護、家族に向き合う寿一を演じた長瀬智也は主演男優賞に輝き、同作は監督賞、脚本賞とあわせて4部門で受賞となった。受賞インタビュー後編では、磯山晶チーフプロデューサー&勝野逸未プロデューサーに、介護をテーマに親子の物語を描いた脚本家・宮藤官九郎や、数々の名場面を見せた長瀬と西田敏行のエピソードを聞いた。(以下、一部ネタバレを含みます)

――このドラマは、長瀬さんが「父親役で、親子の物語をやりたい」と希望したところから始まったと伺いました。親の介護というテーマには、磯山さん自身のエピソードも反映されましたか?

磯山:そうですね。介護の部分は私の経験も入っています。私の父が「死に方がわからない」と言った話をしたら、長瀬くんはびっくりしていて。「そこから西田さんがそう言うシーンができたのよ」と伝えたら、納得してくれました。

――磯山さんと宮藤さんが組んだ前作「監獄のお姫さま」(TBS系)もそうでしたが、宮藤さんは男性脚本家とは思えないぐらい、女性の本音をとてもリアルに描きますよね。

磯山:例えば、舞(江口のりこ)が「(父親の浮気を)忘れないからね、娘は」と言いましたが、台本打ち合わせのとき、それに近いことは私も話しました。母親ってそういう愚痴は娘にしか言わないものだと。

でも、宮藤さんはそこから「諦めただけで、心から許したわけじゃない」「何でもかんでもコロナのせいにしてんじゃないよ」という素晴らしくリアルなセリフを生み出す。きっと他にもいろんなエピソードを見聞きしているんじゃないかと。その一方で、さくら(戸田恵梨香)が寿一を好きになったときとか、恋愛に突入するヒロインには突拍子もないことをさせることが多いですけど(笑)。

磯山CPも“山賊抱っこ”経験者!

――さくらが山賊抱っこに萌える、という展開は笑いを誘いました。

勝野:あの山賊抱っこで胸キュンというのは、女性には思い付かないですよね、きっと。

磯山: 16年前、宮藤さんが映画「真夜中の弥次さん喜多さん」を撮ったとき、なぜか私も出演したのです。旅をしている女性の役で、道の向こうから長瀬くんと中村七之助くんが歩いて来る。私が2人と言葉を交わし、ギャーっと言って逃げる流れ……だったところで、長瀬くんにアドリブでがばっと山賊抱っこをされた。

おそらく、私が叫びにくいだろうなって思ってやってくれたんですけど。後から、間接的に長瀬くんから「磯山さんに持ち上げちゃってごめんって言っておいて」と伝言が来て、何から何までハンサムだなと(笑)。その思い出も今回、宮藤さんに話しました。

――あの山賊抱っこは、そこから来ていたんですね。

磯山:台本の打ち合わせで「さくらはなぜ寿一のことが好きになるのか」「寿一みたいな人の愛情表現はきっと普通じゃないよね」「略奪するみたいな感じがいいかも」と話したところから、山賊抱っこが(笑)。でも、実際に抱っこされる戸田さんは、とにかく辛いと言っていました。上半身が逆さになるので、長いと頭に血が上って……。苦労をかけてしまいました。

西田は長瀬のプロレスシーンに「涙がで出る」

――後半、意識不明になった寿三郎に寿一が呼び掛ける場面や、最終話の父子のやり取りなど、感動的なシーンもありました。

磯山:やはり長瀬くんと西田さんだからできたことがたくさんありましたね。あの2人、お互いのことがすごく好きなんですよ。長瀬くんは西田さんに龍の柄のついた杖をプレゼントしていました。自分は同じデザインで虎の杖を持っているらしく、「タイガー&ドラゴン」のペアステッキだと。西田さんがその杖をずっと肌身離さず持っていて「付き合っているの?」みたいな(笑)。

でも、直接はそんなにしゃべらないんですよね。他愛ない雑談はするけれど、「君の演技は素晴らしかった」というようなことを言い合わない。LINEで西田さんが長瀬くんを褒めているので、私が長瀬くんに「西田さんがこう言っていたよ」と伝えたりして。もう、直接話してもらっていいですかって感じです(笑)。

――西田さんは長瀬さんをどう褒めていたのでしょうか。

磯山:「長瀬くんがプロレスしているカットを見るだけで涙が出る」とおっしゃっていました。長瀬くんの覚悟がすごく伝わってくると。西田さんは最初から「このドラマはぜったい傑作になる」と言ってくださって、そういう気持ちで演じているのがみんなにも伝わっていました。今も「『俺の家の話』ロスです」というLINEをいただきます。

――磯山さんのプロデュース作品で、長瀬さんと西田さんが共演するのは3回目ですが、実際にはどんなふうに演技をしているのでしょうか。

磯山:どちらかがうまくセリフを落とし込めてないとか、シーン的にもっといい方法があるんじゃないかと思っているときは、絶対に本番を急いでやらない。相手が何か引っ掛かっているなと気づくんですね。

逆にうまくハマると、アドリブでいくらでもしゃべっちゃう。本当に音楽のセッションのような感じ。2人とも「本番で生まれるものをぶつけないと面白くない」と思っているんじゃないかな。西田さんはそういうやり取りにおいて、誰よりも長瀬くんが一番合うんですよね。

――今回、長瀬さんは主演男優賞も獲得しました。改めて、“長瀬智也”とはどんな人でしょうか?

勝野:なかなか表現しづらいんですけど、ひと言で言うなら「超スター」という感じです。何でも出来てしまう、まさにスーパースター。またいつかお仕事できたらうれしいです。

磯山:俳優としてはとにかく弱みがないですよね。なんでもできるし、本番は一発で決めるし、誰よりも上手い。今回は42歳の役でしたが、50歳、60歳の長瀬くんも見てみたい。心からそう思っています。

(取材・文=小田慶子)

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