ユーザー離れが加速?韓国発縦読み漫画「ウェブトゥーン」の将来性を韓国カルチャー専門家に聞く
韓国発の縦読みWeb漫画『ウェブトゥーン(縦読み漫画)』が現在岐路に立たされている。韓国NAVERグループの企業で、『LINEマンガ』運営企業などを傘下に持つ「ウェブトゥーン・エンターテインメント」は2024年6月にナスダックに上場した。上場初日は株価が公募価格より10%近く上昇するなど好スタートを切ったが、8月上旬に株価は 20ドル台から12ドルに急落。10月下旬の現在も横ばいを続けている。
韓国メディア『metro』の記事内では下落の要因について、同社の主要事業であるオンラインコミックサイト『WEBTOON』のユーザー離れとユーザーの課金額の低下を指摘。その背景として、「質の高い作品を出せなかったこと」「ヒットした作品と同ジャンルの作品を量産したこと」などを挙げている。
アニメ『喧嘩独学』をはじめ、ここ最近ウェブトゥーン原作の映像作品は少なくない。とはいえ、ウェブトゥーンの火付け役であるウェブトゥーン・エンターテインメントの失速を見ると、ウェブトゥーンが定着しないかもしれない。韓国カルチャーに精通している城西国際大学メディア学部メディア情報学科の教授を務める黄仙惠氏に、ウェブトゥーンの未来予想図を伺った。
まず黄氏はユーザー離れの原因を次のように説明する。
「日本の漫画はアシスタントに手伝ってもらいますが、基本的には作画やストーリーは漫画家1人で行うことが珍しくありません。一方、ウェブトゥーンは作家がストーリーの大まかな流れを決めるものの、ネーム制作チーム、人物線画チーム、背景作画チームみたいに、漫画制作における役割を分業して1つの作品をを完成させます。つまりは短い時間で制作できるため量産が可能。実際、ウェブトゥーンは毎日新しく10タイトルが立ち上がっています。韓国メディアの『質の高いコンテンツを生み出せなかった』という指摘の妥当性はわかりません。ただ、作品が量産されたために面白い作品が埋もれてしまった可能性は低くないように思います」
続けて、「日本の漫画は量産が難しいため、流行り廃りにストーリーやジャンルが左右されにくい。一方、ウェブトゥーンはトレンドを敏感に察知して、ヒットしそうな作品を短期間で制作できます。その結果、トレンドのジャンルばかりの作品が量産されてしまい、読者に飽きを与えてしまったのかもしれません」と分析。ウェブトゥーンには当然メリットがあるが、今回はデメリットが露呈したためにユーザー離れにつながったのかもしれない。
また、「ウェブトゥーンはスマホに最適化したコンテンツです。コロナ禍では家で過ごす時間が増えたため、ウェブトゥーンはとても普及しました。しかし、ここ最近は外出する人も増え、家でのんびりスマホを利用する機会が減ったこともユーザー離れに影響しました」と様々な要因が背景にあると語った。
ウェブトゥーン・エンターテインメントの株価が低空飛行を続けている通り、ウェブトゥーンの定着はなかなか進んでいない印象。とりわけ、日本の漫画と比較してウェブトゥーンは登場人物の表情が淡白で、登場人物の心情に思いを馳せることは難しい。日本の漫画よりも読み応えという側面では劣っており、世界的に評価を集めることは容易ではないなのではないか。
「もちろん、日本の漫画は登場人物の表情が繊細に描かれており、ウェブトゥーンは“デジタルらしい”アッサリとした表情です。ただ、ウェブトゥーンはテレビを見ながら読んだりなど、“ながら見”ができます。読者を没頭するように読ませる日本の漫画は楽しみ方・読み方がそもそも別物。もちろん、読み応えのあるウェブトゥーンもありますが」
大前提としてウェブトゥーンは日本の漫画とは全く異なるコンテンツであり、両者は市場を奪い合うライバルでもなく、比較すること自体が誤りなのかもしれない。
改めてウェブトゥーンは今後世界的に普及していくのだろうか。黄氏は「成長を見せていくと思います」と前向きな見解を示す。
「ウェブトゥーンはスマホに最適化されたコンテンツですが、言い換えればスマホが廃れれば一緒に沈みかねない。ただ、携帯デバイスで言えばスマホは“ラスト”になると思います。もちろん、AIやVRといった技術と関連して進化していきますが、スマホというデバイスが大きく変化する可能性は低い。ウェブトゥーンはますます定着していきます。
また、コンテンツ産業はほぼほぼ完成されており、映画や漫画、舞台などが今以上にインパクトのあるユーザー体験を与えられるかと言えば難しい。ただ、ウェブトゥーンはここ最近広がりを見せているコンテンツで、つまりは“伸びしろ”があります。今後1番広がりを見せるコンテンツと予測するアナリストも少なくないです」
そして、黄氏は今後ウェブトゥーンが世界的に定着するためのポイントを解説する。
「海外展開するにあたり、その国のニーズを意識する必要があります。ウェブトゥーンもそうですが、漫画やドラマはその国の文化や歴史を知ることができ、そこが魅力の一つでもあります。ウェブトゥーンも制作者・制作チームの母国を舞台にした作品を多く発信したほうが良いと思いますが、それだけではなくターゲットに据えている国のニーズをしっかり把握したうえでの作品づくりも求められるでしょう」
生まれた時から映画や漫画といったコンテンツが日常に定着していたが、ウェブトゥーンはこれから定着しようとしている。1つのコンテンツがどのように日常生活の当たり前になっていくのか注目したい。
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