現在ではコンプラでアウト!? ジャッキー・チェンの伝説のアクションを有村昆が解説
「ドランクモンキー 酔拳」日本初上陸から45周年、ジャッキー・チェンが70歳をむかえた記念すべき2024年。5月31日には映画人生の集大成『ライド・オン』が公開され、再びジャッキー・チェンに注目が集まっている。今回、映画評論家の有村昆が改めてジャッキーが映画界に残してきた数々の伝説と、いまこそ見返したいジャッキー作品を語ります。
ジャッキー・チェン70歳にして、50周年記念作と銘打たれた最新主演作『ライド・オン』がついに公開されました。
僕はいわゆるジャッキー世代で、子供の頃からジャッキー映画をずっと観続けていますが、いまの令和の若者にとっては、ピンとこない存在かもしれないですよね。そこで基本情報を抑えつつ、ジャッキーがどれだけ偉大な映画人なのかを含めて解説していきます。
まずは新作『ライド・オン』。ジャッキーが演じるのは、かつて伝説的なスタントマンと呼ばれたルオ・ジーロン。寄る年波には勝てず、さらに映画界にCGが導入されたことによって生身のスタント仕事が廃れていったこともあり、いまは落ちぶれてしまっている。唯一残った資産といえるのは愛馬のチートゥ。家族はシャオバオというひとり娘がいますが、いろいろあって今が溝が出来てしまっているという状況です。
この設定はちょっとメタ的というか、実際のジャッキーの半生が投影されてるんですよね。同時に、映画に出てくるアクションに必然性と説得力が出てくる。70歳の老人がケンカが強くて小気味よく動けるというのは、普通だったら成立しないですけど、元スタントマンということで納得できるんです。
作品内で、イスを使ったアクションや、アクロバット的なカンフーで何人もの敵を倒していくなど、ジャッキーならではのアクションを披露してくれます。
確かに、現代のハイスピードで複雑なアクションと比べたら見劣りするかもしれません。だけど、ジャッキー世代にとっては最高なんですよね。
お正月に観る、海老一染之助・染太郎師匠の傘回しのような伝統芸能といいますか、思わず「待ってました!」と言いたくなる芸なんです。これがまた見られたという喜びもあるし、あと何年見られるのかなという寂しさも感じる。
ジャッキーも、宮崎駿監督ほどじゃないですけど、辞める辞める詐欺を繰り返しているんです。アクションはもうあと数作で止めるとカウントダウンを始めたり、2012年に公開された『ライジング・ドラゴン』では「アクション映画からは引退」と宣言したり。まぁ、宣伝が盛って言ってるだけかもしれないですけど、なんだかんだいってやり続けてくれている。
やっぱりジャッキー本人も好きなんでしょうね。アクションを求められたら「仕方ないな」とか言いながらやってしまう。たぶん、体が動けるうちはやってくれると思います。
『ライド・オン』では、そんな年老いてしまったスタントマンの哀しみのような描写もありますが、ジャッキー自身もこのような人生になっていた可能性もある。
ジャッキーは京劇の子役からスタントマンになり、ブルース・リーの映画などにその他大勢で出てたりする。なので、そのままスタントマンとして映画人生を送っていたかもしれないんですよね。
そのブルース・リーが亡くなったことで、ジャッキーは香港アクション界を背負う後継者候補となった。だけど、ブルース・リーのイメージには勝てないから、コメディ路線に行って、それこそ昔の無声映画を参考にして動きで驚かせるようなことを模索して、それが過激なスタントになっていって…。
いまでこそ「役者本人がアクションもやっている」という宣伝文句は増えてますが、そんなことわざわざ言わなくてもジャッキーは危険なスタントをぜんぶ自分でやっている。それを証明するようにエンドクレジットでNGシーンが流れて、本当にやってるんだと、また驚くんですよね。
最近になって、トム・クルーズが自分で危険なスタントをやるのをウリにしてますけど、いまの最新技術を駆使して安全を考慮したもの。ジャッキーの時代は、とにかく段ボールを積んどけばどれだけ高い所から落ちても平気みたいなレベルですから。
当時の香港映画はガチですよ。今回の『ライド・オン』でも、ルオ・ジーロンの弟子のスタントウーマンがアクシデントで火だるまになるというエピソードが出てきますけど、実際に主演女優が爆発に巻き込まれて病院送りになるという事件がありましたからね。
そんな中から世界的スターになったジャッキーはもっと讃えていいと思います。
ジャッキーはアクションだけでなく、主演、脚本、監督に武術指導もやって、主題歌まで歌う。もうマルチな才能。それでハリウッドに進出して成功する。強引にいえば、大谷翔平みたいな存在ですよね。アジアの代表で、やってることは二刀流どころじゃないですから。
ハリウッド進出に関しては、何度か失敗していて、『レッド・ブロンクス』という作品でついに全米1位を取った。それからクリス・タッカーと共演した『ラッシュ・アワー』などのハリウッド製映画でも大ヒットを飛ばしています。一方で、スキャンダルも多い人なんですけどね。女性関係とか、政治的な発言とかね。
でも、それでもいいじゃないかって思えるくらいカラダを張ってきてるし、様々な人に良い影響を与えていると思います。
そこでジャッキー作品をまだあまり観たことない世代に観てもらいたい作品を挙げますと、まずは『ポリス・ストーリー 香港国際警察』。ジャッキーが初めてハードな現代劇に挑んだ作品なんですが、やっぱりアクションがいま観てもすごい。冒頭の、山の急斜面で家をなぎ倒しながら爆走するカーアクションとか、バスに傘一本でしがみつく有名なシーン。そしてクライマックスに出てくる、30メートルのポールを滑り降りる命がけのスタント。もう現在ではコンプライアンス的にも出来ないことばかりじゃないですかね。
あとは『酔拳2』もわかりやすくて面白いし、個人的に好きなのは『WHO AM I?』。ストーリーもちょっとヒネりがありますし、最後の高層ビルを滑り落ちるスタントも凄いです。
『ライド・オン』には、そんな過去の代表作のオマージュも入っていて、まさに集大成。ジャッキーの半生を噛み締めながら観ると、なんかすごくいい1本だったなと思えるはずです。
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