「日韓」のモヤモヤ、考えるわたしたちになるため【前編】(C)モデルプレス

<「日韓」のモヤモヤ、考えるわたしたちになるため>“韓国カルチャーは大好きだけど…”のその先へ一緒に【「日韓」モヤモヤ本インタビュー前編】

2022.08.29 18:00

K-POP、韓国ドラマ、ファッション、コスメ、フード…K-カルチャーは今、日本でもトップレベルの人気を誇るジャンルとして幅広い世代に愛されている。「K-POPが好き!」「趣味は韓国ドラマ!」という人が増える中で、一方「純粋に好きなだけなのに、『日韓』に関してモヤモヤすることが…」そんなことを一度は感じたことがある人の方が多いのではないだろうか?そのモヤモヤに触れた時、私たちはどうするべきだろう?何ができるだろう?見て見ぬふりをしないため、K-カルチャーのファンとこそ一緒に考えたいこと。<前編>


『「日韓」のモヤモヤと大学生のわたし』著者の皆さんと考える モヤモヤとの向き合い方

今回話を聞いたのは、K-カルチャーファンの間で昨年より話題となっている著書『「日韓」のモヤモヤと大学生のわたし』(以下、「モヤモヤ本」)の著者の皆さん。

『「日韓」のモヤモヤと大学生のわたし』(提供画像)
『「日韓」のモヤモヤと大学生のわたし』(提供画像)
一橋大学社会学部の加藤圭木ゼミナールで朝鮮近現代史・日朝関係史を学ぶ大学生が執筆し、昨年7月に刊行されたこの本は「わたしの推しは日本が好きじゃないのかもしれない…」「“韓国が好き”と言っただけで怪訝な反応をされる…」「日本人がたくさん見ているドラマなのに、なぜ日本が悪者のようなエピソードが出てくるの…?」そんなモヤモヤの正体と向き合い、考え始めるために最適な一冊。「モヤモヤにぶち当たっても、どうすればいいのかわからない、何から学べばいいのかわからない」という人たちにも分かりやすく、若者目線でまとめられていることもあり、SNS上でも口コミが広がった。知らないままではいけない朝鮮近現代史の入門としても、K-カルチャーファンにはぜひ読んでほしい。

1人でも多くの人が、「日韓」のモヤモヤを見て見ぬ振りせず、考えられるように…前編となるこの記事では著者の5名のうち、大学卒業後大学院に進学した朝倉希実加さん、牛木未来さん、熊野功英さんにインタビュー。後編では、実際に同著が発行されてから加藤ゼミで勉強を始めた現役大学生の4人に聞いた、現役大学生ならではの思いを届ける。

様々なK-POPファンダム/Photo by Getty Images
様々なK-POPファンダム/Photo by Getty Images

私たちが「日韓」のモヤモヤに触れたとき、どうしたらいいの?

K-POPを通しての出来事や、国際交流プログラム、学校の授業をきっかけにこの「日韓」のモヤモヤを学び始めた著者の皆さん。特に高校生の頃からK-POPが好きだったという熊野さんは、韓国に行ってみたいからと参加したスタディツアーの参加者だった在日朝鮮人の学生の言葉が最初のモヤモヤだった。「日本社会ではK-POPとか韓国ドラマとか、韓国文化がすごく流行っているけど、日本人のほとんどは日本の侵略、加害の歴史に向き合っていない。韓国の文化を消費しているだけ」。その言葉にショックを受け、モヤモヤを考えるようになってから、熊野さんは“連累(れんるい)”という概念にたどり着いた。

それは「現代人は過去の過ちに対する直接的な責任はないけれど、歴史の風化には当事者として関わっている。過去の過ちが『差別と排除』として現代社会に残っている限り、それを正したり、負の歴史を風化させないようにしたりする責任がある」という歴史学者テッサ・モーリス=スズキによる概念だ。

『「日韓」のモヤモヤと大学生のわたし』著者の皆さん/(左上から時計回り)朝倉希実加さん、李相眞さん、沖田まいさん、熊野功英さん、牛木未来さん(提供画像)
『「日韓」のモヤモヤと大学生のわたし』著者の皆さん/(左上から時計回り)朝倉希実加さん、李相眞さん、沖田まいさん、熊野功英さん、牛木未来さん(提供画像)
ゼミでの学びを「モヤモヤ本」の執筆にまでつなげた皆さんは、日本軍「慰安婦」問題について情報を発信している団体「Fight For Justice」のメンバーとして活動したり、シンポジウムを開催したり、様々な運動を行っている。中にはK-POPグループの人権問題との向き合い方から、歴史問題をより身近に感じてもらえるような企画も行った。Twitterのスペースで、本の読者やK-POPファンたちと歴史問題やジェンダーに関するモヤモヤを話し合うなど、SNSを通じても多様な広がりを見せている。実際に韓国留学中にシンポジウムやワークショップに参加したり、現地の団体の活動に参加したりもしているという。

しかし「ただK-カルチャーが好きで、それでもモヤモヤに触れてしまった」そんな人が、大学で専門的に学んだ彼らのように大きな行動に移すというのは、最初は簡単ではないかもしれない。今の日本の環境では、「モヤモヤを感じてもどうしたらいいかわからない、難しそうだから下手に関われない」そんな風に思ってしまう人が多いのも仕方ないかもしれない。それでも、ただ「好きだから、かっこいいから、可愛いから、面白いから」それだけで文化を消費してしまうことがないように…私たちは何ができるだろう?20代の若者として、それを同世代の友人たちにどう伝えていけばいいのか、悩みながらも行動している3人の思いとは。

様々なK-POPファンダム/Photo by Getty Images
様々なK-POPファンダム/Photo by Getty Images

まずはモヤモヤと丁寧に向き合おう 大切な視点は“人権”

― K-カルチャーが人気の日本で、同じような「モヤモヤ」を抱えているだろう人たちにどんな風に向き合ってほしい、行動してほしいですか?

熊野:色んな段階があると思いますが、本当に最初は、どうして自分がモヤモヤしてしまったり、ざわざわしているのかというのを、丁寧に言語化していくことが大事なんじゃないかなと思います。その過程で、自分と日本という国家を同一視してしまっていることに気が付くかもしれない。“モヤモヤ”ってネガティブに聞こえるかもしれない言葉だけど、そのモヤモヤを捨てない、開き直らないことが最初のステップでは大事だと思います。

自分もそうでしたが「難しい問題だからいいや」「自分1人では解決できないから」と開き直ってしまい「韓国文化を楽しめればいいじゃん」となってしまいがちだと思うのですが…そこをぐっと踏ん張るというか(笑)。今の教育の問題もあるし、知らないということはあると思います。でも「知らないからいいや」じゃなくて、学ぼうと思うか、思わないかはすごく大きな分かれ道になると思います。

― 確かにグループによっては普段から社会問題について頻繁に発信していたり、ファンダム全体がモヤモヤを乗り越えてきていたりする場合もあれば、そうでない場合もあると思うので、いろいろな層がありますが、ぜひみなさんにモヤモヤと丁寧に向き合ってみてほしいです。

熊野:そのうえで考え方の話をすると、「日韓」関係の問題は、政治とか外交の問題だととらえられがちだと思うのですが、それ以前に“人権問題”だということをしっかり認識することが大事だと思います。

― 「モヤモヤ本」でも熊野さんはそれを一番最初に書かれていましたよね。「歴史について勉強しなきゃ、難しそう」と思ってしまいがちですが、“人権の話なんだ”という視点で見ることで、自分自身の事として身近に感じましたし、とても腑に落ちるようになりました。

熊野:ありがとうございます。韓国文化好きな人たちの中でも「反日」「親日」という言葉が普通に使われてしまう状況がまだあると思うんです。たとえば「推しが反日なのかもしれない」とモヤモヤしている人もいるかもしれません。でもそれは、歴史の問題は「日本側と韓国側のサイドがある」ととらえていたり、「日本の事が好きか嫌いか」と日本中心的な視線で見たりする態度だと思います。

日本の侵略行為は人権侵害ですし、人権問題というのは人間として、人権侵害を被った被害者の立場を大事にしなければいけないこと。だからサイドが分かれる問題ではなくて、被害者と加害者がいたら被害者の声を大事にするというのが当たり前だと思います。

― 日本側か韓国側かというより、人権侵害の加害者側か被害者側かということですね。

熊野:そのうえで、被害者を傷つけてきてしまった日本国家の選挙権を持っている人であれば、政治に関わる当事者として、選挙やデモを通して日本社会を変えていく責任があるのかなと思います。ただ、はじめはしっかり「知る」こと、学ぶことが大事だと思います。

自分も高校の時の歴史の授業で「単語を覚える」ということはやったけれど、知るということは単語を覚えることじゃない。自分の中の認識を問い直していくということが、本当の意味での知るということだと思います。

『「日韓」のモヤモヤと大学生のわたし』著者の皆さん(提供画像)
『「日韓」のモヤモヤと大学生のわたし』著者の皆さん(提供画像)

韓国エンタメカルチャーから学べることも 重要なのは「どう向き合うか」

牛木:私は、文化自体を楽しんではいけないというわけではないし、例えば韓国ドラマの中にも、最近特に女性の権利、弱者の権利、民主主義の問題とか、色んなメッセージが含まれているものが多くて、文化から学べる点もすごく大きいと思っています。韓国はエンタメとしてそれを生産しているという点が凄いと思うし、日本のファンの人たちもそういう風にとらえていけたらいいと思います。

でも、それを正しくとらえられるようになるためには、日本が朝鮮にどういうことをしてきたのか、歴史的背景を学ばないといけないですよね。ドラマや映画の中で日本に関する描写が出てきたり、アイドルとか芸能人の方が、日本からの独立記念日である光復節(8月15日)にSNSを投稿したりというだけで「反日」となってしまうこともあります。だから歴史的背景を知った方が文化もより楽しめるし、深く理解ができると思います。

― 最近、人気の若手俳優が出ているドラマなどでも、日本軍「慰安婦」についてのエピソードがあったり、日本の植民地支配時代に関する作品が結構ありましたよね。やっぱりそれに関してSNSで日本人側のモヤモヤする投稿を見つけたり、当事者である在日朝鮮人の方に説明をさせてしまったり…ああこれじゃダメなのに…と思うことは多いです。

熊野:文化やエンタメを通して交流していけば、「日韓」関係がよくなると言われることがあると思うんですけど、さっきもお話ししたように、根本は人権問題だということを忘れちゃいけないと思います。「日韓」関係をよくするためというより、被害者の人権の回復とか、人権が尊重される社会が実現されるためにどうするかという話なので。“文化交流”というと、そういう部分がどうしても忘れられてしまい、もしかしたら文化を消費してしまったり、被害者を置き去りにしてしまったりという可能性も同時にあると思います。

牛木:文化やエンタメを通しても、歴史的背景に「どう向き合うか」が大切だと思います。「モヤモヤ本」でも大事にしたのは、それが「自分自身がどういう人間になるか」と直結している問題だということなんです。もちろん、自分たちの加害性とか、差別してしまったということを認めるのは簡単じゃないと思います。でも、認めた後の方がいい自分でいられると思うんですよね。それが一番お伝えしたいことです。

熊野:牛木さんに共感します。この問題は「自分がどう生きていくか」とか、「自分が住む社会がどうあってほしいか、差別が許される社会でいいのか」ということにつながるから。

感じたモヤモヤを大事に 小さなことからでも行動を

『「日韓」のモヤモヤと大学生のわたし』著者の皆さん(提供画像)
『「日韓」のモヤモヤと大学生のわたし』著者の皆さん(提供画像)
朝倉:私も、まず一番大事なのは考えることだと思っています。K-POPとか、大学の授業とか、きっかけは人それぞれ色々あると思うのですが、感じたモヤモヤを大事にしてほしい。「モヤモヤするから考えるのをやめよう」ではなくて、考え続けることが大事だと思いますし、一緒に考えてほしいなと思っています。

そして考えるだけじゃなく、そこからどう行動するのかも大事ですよね。この問題について知ると、自分が何もできないことに対して無力感も感じると思います。でも、大きなことでなくても、自分のSNSで発信してみるとか、選挙に行って、差別のない社会を作ろうとしている政党に投票するとか、自分のできる小さなことでもいいんです。「一緒に日本社会を作っていくんだ」ということを意識して、自分自身にできることをやっていけばいいのではないかと思います。

私も同世代の人と選挙の話などをしていると「私が投票したところで変わらない」と言う人が結構いるのですが、でも1人1人が投票に行ったり、活動したり、行動して連帯すれば、それは社会にとってすごく大きなことになると思います。

牛木:あとは、歴史問題を学ぶことで、自分自身が変わっていくという感覚はとても大事なのですが、それが当事者の差別解消に本当につながっているのかを考えながら行動する必要があると最近私たちの間でも話しています。自己満足になってはいけないと、自分自身にも投げかけつつ。

「日韓」問題を考え学び始めた!それでもぶつかる“語りづらさ”とモヤモヤ

自分の中のモヤモヤと向き合い、考え、学び始めたとき、小さなことからでも行動に起こしてみようと思い始めたとき、こんな問題にぶつかる人が多いだろう。それは「語りにくさ」。同じK-POPや韓国ドラマファンたちと、あるいは身近な友人と、家族と、歴史の問題について、差別の問題について話し合いたいのに、話しづらい。もっと幅広い人々と共に考えていけるようになるために、どうしたらいいのだろう。

熊野:まさに自分たちのゼミ全体としてのモヤモヤが、日本の加害の歴史について、ゼミの外で普通の友達とかとは話しづらいということなんです。自分はそれに関して孤独感を感じていて、その「語りにくさ」があるからこそ、この本を作ったというところもあります。日本にいたときは自己紹介をするにも、自分の専攻について「朝鮮史、日本軍『慰安婦』問題」と説明すると、「重いね」と言われたり、悪気なく差別的なことを言われたりしたこともありました。

朝倉:私も、ゼミの仲間や一緒に活動している人たちの中では気にせずに話せても、友達とか家族とかとは話しづらいところがあって。もともと政治の話とかをあまりしてこなかったのもあるし、それがさらに、朝鮮史という分野になることで、より話しづらくなる部分もあります。話しても差別的なことを言われたら、やっぱり傷つきますし、どうしようと迷うときもありますね。

牛木:私も「話しにくいな」と思ってしまうことはどうしてもあります。面と向かって反発されることもなくはないけど、それよりも「あ、大事な問題だよね」って、表面上の会話になって、会話をそらされてしまうような場面がどちらかというと多いかな…。

『「日韓」のモヤモヤと大学生のわたし』著者の皆さん(提供画像)
『「日韓」のモヤモヤと大学生のわたし』著者の皆さん(提供画像)

熊野さんがアメリカで感じたこと「話していくことの力」

熊野:今僕はアメリカに留学に来ていて、出会った友人たちとの会話で感じるのは「人種差別は絶対にダメだ」という社会規範みたいなものがしっかりあるということ。自分の今住んでいる地域や出会う人の世代も関係あるのかもしれませんが。もちろん差別はありますが、問題意識が加害者に向いているという感じもします。日本でももちろん「差別はいけない」とみんな思っていると思うんですけど、加害者を変えさせるための行動や声が身近な範囲で少ないのかなと。

アメリカと日本は違うから比較はしづらいですが、日本にいたときは抑圧されている感じ、自分の意見が言いにくい感覚がやっぱりありました。こっちにももちろん差別が根強くあるけど、少なくともそれに反対したり、たたかっている、たたかってくれる人たちが身近にいる感じがします。日本ではそれが少なかったことが、自分の中で語りにくさとか孤独感の原因だったのかなと思います。

あるアメリカ人の友人によると若い世代の友達同士でも、社会や政治、差別の話とかをするし、SNSとかでもインフルエンサーとかが社会正義の話をしていて、自然にその問題に触れる機会が多いらしいんです。だから普段の会話で話題に上がることも普通なんだなと感じました。

そこが日本と違うなと感じつつ、一方でやっぱり話していくことの力ってあるんだなとも思いました。身近な人との会話や、SNSとかでそういう話題が出てくるから、そういう考え方も形成されていくと思うので、やっぱり語りにくさはあっても、学んだ人から話していかないと、なかなかこういう空気も変わっていかないのかなと。

朝鮮史だけでなく、ジェンダーの話題から

『「日韓」のモヤモヤと大学生のわたし』著者の皆さん(提供画像)
『「日韓」のモヤモヤと大学生のわたし』著者の皆さん(提供画像)
朝倉:私も朝鮮史の話などをより広い層に知ってもらい、考えてもらうために、自分ができる範囲で話すということもやっていきたいと思っています。それこそInstagramのストーリーで「モヤモヤ本」の宣伝をしたときに、今までそういう話をしてなかった友達が反応をくれて。反応をしてくれた人には「話していいんだな」と思えて、実際に本を渡したりもしました。

朝鮮に関することでなくても、ジェンダーに関する問題について発信すると反応くれたり、コメントをくれたりする人が思ったよりも多いんです。それで今まで話していなかった人とも結構話すようになりました。

関係性にもよるので、全員に話さなきゃいけないというわけではもちろんないですし、私自身も話せていない人ももちろんいます。なので、できる範囲で自分ができることをしていけばいいのかなって。それこそK-POPを語り口にするとか。

― 確かに私の周りでも、朝鮮の歴史については知らなくても、ジェンダーの問題に興味がある若者世代は多い気がします。なのでジェンダー平等的なメッセージ性のあるK-POPの歌詞を引用して、韓国についても興味を持ってもらえることなどがありますね。

朝倉:そうですね、ジェンダーに関しては友達も興味がある子が多いので、そういう話からちょっと話を広げたり。それこそ日本軍「慰安婦」問題や性暴力被害者の支援を行っている「マリーモンド」というブランドを、友人とジェンダーの話をしたときに紹介してみたら「そんなブランドあるんだね!」と興味を持ってくれて。そういうところからも、日本軍「慰安婦」問題など、もうちょっと発展して考えてもらえればすごく嬉しいです。

熊野:最近はインスタとかでも、社会問題とか差別について投稿しているポストが沢山あって、そういうものを引用して、自分の考えをつけてストーリーを投稿したりしています。そうしたら友達からDMが来て、それについて話せたこともあります。

あとは自分も、K-POPの歌詞から発展したことがありますね。僕はBTSの曲で「Spring Day」が一番好きなのですが、この曲が作られた背景である階級差別に反対することとか、記憶することの大切さについて、ファンの子と話しながら“連累”の話をしてみました。

小さな力を集めて、大きな力に

『「日韓」のモヤモヤと大学生のわたし』著者の皆さん(提供画像)
『「日韓」のモヤモヤと大学生のわたし』著者の皆さん(提供画像)
牛木:私も、より幅広い層にこのことを伝えるためにどうすればいいかは考えつつで、はっきりした答えがあるわけではないのですが…でも根気強く探してみると、やっぱりどこかに「関心を持っているけど、どうしたらいいかわからない」という人たちは存在していて。

私が具体的にやっているのは、「モヤモヤ本」を実際に渡してみることです。10人に渡したら読んで興味を持ってくれるのは1、2人くらいだけど、それでも大きなことだと思います。また、韓国で在韓の日本人の方とお会いした時に、実はその方たちも地域ごとの集まりで「日韓」の歴史を学んでいるという話を聞いたんです。本当は小さい所でいろいろやっているのに、知らないから大きな力にならないという部分もあると思うので、各地で行われている小さな集まりがお互い繋がれるようにできたらいいなとも思います。

使ってほしい“影響力” 社会の意識変えるために

― 大きな力になるという部分では、影響力のある方々にもこのことを発信していってほしいですね。

熊野:それは本当に大事だと思います。市民1人1人が話をするのも大事ですが、公人や著名人、アーティストの方々などが、差別や歴史修正主義、人権侵害に反対という姿勢をはっきり示すこと、それが人々の意識に影響すると思うので。

ほかの国では、著名人たちが社会問題について発信をすることもよく目にしますし、それが社会全体の意識につながると思うんです。日本でも頑張って発信している方もいる思うのですが、まだ少ないような気もします。僕は音楽が好きなのですが、音楽とか文化は絶対に社会とつながっていると思うので、日本でももっと人権問題や社会問題について発信するアーティストの方々が増えたらいいなと思っています。だからそういう有名な人たちにも、「モヤモヤ本」を読んでもらいたいです(笑)。

― 例えば若者や大衆に人気がある人であれば、こういった差別の問題について少し発信するだけで大きな影響力になるのではないかと思うし、その責任があると考えてみてほしいです。私からもお願いしたい部分ですね。

牛木:「なぜ日本国籍を持っているだけでこの問題に向き合わなきゃいけないの?」ということをたまに聞いたりします。でも自分が投票権など、社会を一番身近に変えられる特権を持っているからこそ、変えなきゃいけない、変える立場にあるのだということを強調したいなと思います。

― ありがとうございました。

モヤモヤに向き合ったきっかけ、そしてこれから…熊野功英さんの場合

熊野功英さん(提供画像)
熊野功英さん(提供画像)
熊野さんは、まさにK-POPが1つのきっかけとなり、問題に向き合うようになった。高校生の時に友人の影響でTWICEやBTSを聴き始め、大学生になってからは「K-POPアーティストが言っていることを理解したい」と朝鮮語を第二外国語として選択。その朝鮮語の先生が日本軍「慰安婦」問題について学ぶ「キボタネ若者ツアー」に携わっており、初めはただ「韓国に行ってみたい」というライトな気持ちでツアーに参加した。

そのツアーで同世代の在日朝鮮人の学生から「日本人のほとんどは日本の侵略、加害の歴史に向き合っていない。韓国の文化を消費しているだけ」と言われてしまった当時を振り返り、熊野さんは「自分は日本人男性として、日本の加害の歴史を知らなくても生きていける、“韓国文化だけを楽しめる”特権がある。一方で在日朝鮮人の人々は歴史や差別について考えざるを得ない。それに気が付いて、自分の今までの姿勢がそれでよかったのかとモヤモヤし始めました」と語る。さらに「韓国文化が好きだっただけに、『自分は韓国に悪い印象はない、差別はしない人間だ』と思っていたんです。その自分が、差別について知らなかったり、無意識で差別的なことを言ってしまっていたかもしれない。そんな自分自身についてショックを受けました」と熊野さん。

スタディーツアーの感想文を書きながら、自身の“モヤモヤ”を整理し言語化する中で、1年生のときに加藤先生の授業で出てきた“連累”を思い出す。“連累”を意識したことで、改めて「歴史を学ばなきゃいけない」という思いが強まったという熊野さん。日本軍「慰安婦」問題の根本でもある、ジェンダーの勉強も彼に大きな影響を与えた。「朝鮮問題には民族差別だけじゃなく女性差別の問題もある。大学に入るまでそのことを考えたことがなかったのですが、日本人男性としての特権や、男らしさみたいなものに縛られていたということに気が付いたんです」。そう語る熊野さんはその後、日本軍「慰安婦」問題、公娼制度について学び、大学4年生時には韓国留学へ。現在は大学院を休学してアメリカに滞在中だ。来年からは大学院に復学して朝鮮史の研究を続ける予定だ。

「この問題に出会って、これは結局、日本人男性である自分が人間としてどう生きていくのかという問題にすごくつながっているなという風に感じて。どんな職業であっても、人権は一番大事にしなければいけない価値観だと思いますし、そこを侵害したり軽視したりすることはしたくありません。朝鮮史をこれからも勉強していくつもりですし、人権が尊重される社会を実現するために、継続して行動ができる人間として生きていきたいなと思っています。

また自分の中での今の身近な課題は、ジェンダーの話を男の人とすること。女性の友人とジェンダーの話をすることはあっても、日本で男性同士でジェンダーの話をすることができていない。アメリカで出会った友人たちとはできているのですが、日本の男性の友人とそういうことを話すことが大事なんじゃないかと思っています」。

モヤモヤに向き合ったきっかけ、そしてこれから…牛木未来さんの場合

牛木未来さん(提供画像)
牛木未来さん(提供画像)
海外に漠然と興味があったという牛木さんは、大学2年生の頃、英語を使って韓国に滞在するプログラムに参加したことがモヤモヤを考えるきっかけになった。

歴史や社会問題について話し合う場があったため、自分なりに勉強して行ったという牛木さん。しかし日本軍「慰安婦」問題についての話になった時、日本で教えられていること、日本政府側が説明している情報を話してしまい、仲良くなった韓国側の参加者と全く話がかみ合わなかった。

「歴史問題は韓国の人や在日朝鮮人の人にとって、自分の家族の話。そのことにその時まで気づかなかったのですが、自分はそれまで考えずに生きて来られたけど、考えなければいけない大きな問題なのかもしれないとショックを受けました」と当時を振り返る。

そのモヤモヤを考え続けたもう1つの理由が、“国際交流”の認識への違和感。「『日本と韓国の立場は違うから、違いを知って、お互い認めればいいよね』と、“違いを認め合う場所”として交流の場があると思っている人が多い。でも本当にそれでいいのかな?と、モヤモヤし始めて」。そんな違和感を解決するためにも勉強するようになった。現在は経済史の分野を中心に研究し、韓国に留学中だ。

「あと数か月韓国留学が残っています。今までは市民団体と関わることが多く、それも継続しつつ、研究者の方とお話する機会がなかったのでそういう機会を作りたいです。日本に帰ってからも研究を続けますが、自分の世界の中だけに閉じこもってしまわずに、差別の最前線で矢面に立たされてしまっている人たちと寄り添っていきたいです。色々な運動にも関わっていきたいですし、今作っている韓国との関わりも大事にしていきたいです。『モヤモヤ本』を通じていろんな方と知り合い、お話することもできました。その中で知ることができた情報もきちんと覚えておいて、何かあったときにつながって活動ができたらなと思っています」。

モヤモヤに向き合うきっかけ、そしてこれから……朝倉希実加さんの場合

朝倉希実加さん(提供画像)
朝倉希実加さん(提供画像)
高校生の時に日本史が好きだったという朝倉さん。大学2年生のころ受けた朝鮮史の授業で、自分の歴史認識に欠けていたものを気づかされこの問題に向き合うようになった。日本史に関係が深いと思いたまたま受けた授業だったが、初めて日本軍「慰安婦」問題についてしっかりと学び「今まで自分が学んできた歴史というものが、日本からの視点しかなかった」と思わされたという。

「朝鮮の人々が日本の植民地支配によってどういう被害を受けて、どういう暮らしをせざるを得なかったのかという視点が自分の中に全くなかった。それを考えたときに、今まで学んでこなかった自分に対して“責任”みたいなものがあるんじゃないのかな、と思いました」。そんな思いから、加藤ゼミで学ぶことを選んだという。

朝倉さんも熊野さんと同じように、ジェンダーの問題も密接に関わっている日本軍「慰安婦」問題について学びを深めた。延期を経て今年の4月に開催された「表現の不自由展」の東京展には、実行委員として参加。日本軍「慰安婦」問題解決運動の象徴である「平和の少女像」と日本でも対面し「日本だと、少女像と出会える場が不自由展くらいしかない。観客の方が見たり交流したりする姿を見て、学ぶことが多かったです」と語る。

「来年私も韓国に留学に行く予定です。なので、向こうの人とかと交流したりいろんなところに行って学びを深めたいですね。そして大学院3年目は研究をしっかりやっていきたいと思っています。その後のことは明確には決まっていませんが、学び続けて考え続けるということはもちろんですし、今やっている活動も何らかの形で続けていけたらと思っています」。

『「日韓」のモヤモヤと大学生のわたし』著者たちの活動・参加団体

<オンラインイベント>

・【刊行記念連続イベント1】わたしたちはなぜ『「日韓」のモヤモヤと大学生のわたし』をつくったの(※終了)
・【刊行記念連続イベント2】大学生が読み解くBTSと社会 〜『「日韓」のモヤモヤと大学生のわたし』×『BTSオン・ザ・ロード』『BTSとARMY』『BTSを読む』〜(※終了)
・一橋大学加藤圭木ゼミナール×深沢潮「歴史を<わたし>から語り始める」『「日韓」のモヤモヤと大学生のわたし』刊行記念(※終了)
・『「日韓」のモヤモヤと大学生のわたし』を読んだ現役大学生の声を考える(※現在公開中)

<希望のたね基金(キボタネ)>
https://www.kibotane.org/project

・日本軍『慰安婦』問題解決運動史聴き取りプロジェクト
https://www.kibotane.org/new
・キボタネ若者ツアー報告書
https://www.kibotane.org/product-page/%E6%85%B0%E5%AE%89%E5%A9%A6-%E5%95%8F%E9%A1%8C%E3%81%AE%E6%9C%AC%E5%BD%93%E3%81%AE%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%8C%E7%9F%A5%E3%82%8A%E3%81%9F%E3%81%84

<Fight for Justice>
https://fightforjustice.info/

次世代が/をつくる映像プロジェクト
https://fightforjustice.info/?p=5294

(modelpress編集部)
【Not Sponsored 記事】

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